第30話 奈落へ
一悶着があったが俺達は着々と遺跡のゴールへと足を進めていた。
しかし、途中から俺は得体の知れない違和感を抱いていた。妙に胸がザワザワするような、何かに心を触られている様な妙な感覚。
その妙な感覚は錯覚ではないことを俺はテオの言葉で確信する。
「ちょっと待ってみんな!」
テオが急に足を止めて辺りの壁を見たり触れたりし始めた。
「やっぱり…ここ、さっきも来たよね場所だよ」
「え?!嘘?!」
シエルがテオの元へと駆け寄る。
「うん、この壁の傷や模様とか瓜二つなんだ」
テオの言っていることはなんとなく分かる。俺達が遺跡に入ってから数十分経つが未だにゴールが見えない。それどころかさっきから同じ風景ばかり視界に入ってくる。
つまり、俺達は
「閉じ込められたってことか…」
俺がそう呟くとテオは頷く。
「まず間違いないと思うよ。でも、変だよ。学園が管理している遺跡にこんな危険な罠が施してあるなんて」
テオの言う通りだ。この場所は学園の管理下にある。そんな所に下手をしたら命を落としかねない罠があるなんて到底思えない。
つまり、この罠は学園側も認知していないものと言うことになる。
「学園側がこれを見つけられなかったからか?いや、こんな分かり易い罠を見落とすとは思えないな」
「僕も同意見だよカイン君。何か作動に特殊な条件があるのかも…」
俺とテオが話しているとシエルは少し驚いた様子で俺達へと聞く。
「なんで二人共そんな冷静なの?」
「喚いて叫んでも状況は変わらない。だったら生き残る道を探すのが得策だろ?」
「そうだね、こんな所で死ぬつもりは毛頭ないしね」
俺とテオの言葉を聞いてシエルは少しいつもの調子を取り戻したみたいだ。
「じゃあ、どうする?壁とか壊してみる?」
「流石にそれは…」
シエルの提案にテオが汗をかく。
その様子を横目に俺はもう一人この場にいる人物に話しかける。
「アリサ、お前は何か分かるか?」
先程から一言も発していないアリサへと話しかけるが帰ってきた答えは意外なものだった。
「し、知らないわ」
彼女にしては珍しく狼狽えている様子。間違いない、彼女は何かを知っている。
「私は行くわ。ついてこないで」
足早にこの場を去ろうとするアリサの肩を俺は掴む。
「馬鹿か?お前。この状況で単独行動なんて自殺行為だぞ!」
「それが何?私は一人でもやっていけるわ。ずっとそうして来たもの」
なんという強情な女だ。流石にこの状況でこの態度を取られて我慢ができるほど俺は人が出来ていない。
「いい加減にしろよお前!こっちは心配して言ってるんだよ!」
「いつ貴方に心配してくれなんて頼んだの!とにかく私は一人でも行くわ。貴方達は仲良くここで止まってるといいわ。離してっ!」
そう言って俺の手を振り払ったアリサ。しかし、その行為が何かの引き金になったのは間違いなかった。
──────ブゥン
その効果音と共にアリサが立っている地面に紋様が浮かぶ。見たことない魔法陣の様なものだった。
「なに…これ?」
突然の出来事にアリサも動揺している。
その瞬間、アリサが立っている床は跡形も無く消え去った
「え?」
その言葉を残し、アリサは俺達の視界から姿を消した。
「アリサっ!」
「アリサさんっ!!」
シエルとテオが穴に向かう前に俺の体は既に動いていた。
後先考えず穴へと飛び込む。
「カインっ!!」
上からシエルの声がしたが今はそれどころじゃない!!
自由落下するアリサを瞬時に抱きかかえる。だが、どうする?!このままじゃ二人共もペシャンコだ!幸いなことに穴の大きさはそれほどでもない。なら一か八かだ!!
俺はブレイズを顕現させて壁へと突き刺す。
「うおぉぉぉ!!!」
壁から火花と削る音が俺へと伝播する。二人分の重さがあるから中々止まらない。
しかし、俺達の勢いは徐々に衰えて行き、地面へと到達する前に俺達の体は空中で止まった。
そして、俺は下を見たがそこにあったものに驚愕した。
「随分と歓迎的な仕掛けだな」
「何を言って…っ?!」
俺のその言葉を聞いてアリサも下を見る。そこに写ったものは巨大な地面から突き出た石製の棘だった。そこに突き刺さる白骨死体。どうやら過去にもこの仕掛けの餌食になったものがいたようだ。
この遺跡は学園が管理しているものという訳ではないようだ。
ここから地上へと戻ることは出来ない。俺たちに残された選択肢はこの地下を進むこと。
さて、最初の授業からとんだハードになってきたモンだ。
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