第29話 喧嘩

遺跡に入ってから5分程経過し、俺達は魔物を退けながら先へと進んでいた。とは言っても出てくる魔物はスライムばかりで特進クラスに選ばれた者にとっては取るに足らないものだった。


「結構歩いたけどまだ先は長そうだね」


通路を進みながらテオがそんな言葉を口からこぼす。


「そうだね。というか学園がこんな遺跡を管理しているなんて初めて知ったよ」


テオの言葉にシエルがそう返す。アリサは俺達の後ろを一歩後ろから黙って着いて来るだけだった。明らかに俺達とは関わらないという意思を感じる。


「特進クラスは高度な魔法の授業に実践的な訓練を行い、優秀な人材を育てるのが目的のクラスだから、こういう遺跡の探索は授業には最適だろうね」


「へぇー、テオはこういうことに詳しいんだな」


俺がそう言うとテオドアは少し照れくさそうにする。


「そんなことないよ。自分にできることを精一杯やってるだけだから」


なんとも謙虚なことだ。


「ねぇねぇ、テオドアとアリサは個性魔法は使えるの?試験では使ってなかったけど」


テオとアリサにそう聞くシエル。確かにこの二人は試験で個性魔法のたぐいは使ってはいなかった。しかし、テオドアに関してはこの授業で初めて彼の身のこなしを見たが中々にデキる男のようだ。


アリサに至っては俺の中にある力を見抜く程の洞察力を持ち合わせているし可能性もゼロでは無いはずだ。


「一応、習得はしているけどあまり大々的に人には見せたくないね。僕と同じように習得はしているけど試験では見せてなかった人たちもいると思うよ」


頬を指でかきながらテオドアは答える。確かに試験という公開的な場で個性魔法を見せるというのもリスクがあるかもしれない。

中々に用心深い性格の奴が多いようだな特進クラスは。


「そうなんだね。いつか見てみたいな!テオドアの個性魔法!」


「もちろん、そのうち機会はあるさ」


「アリサの方は?」


シエルがアリサの方を向き、言葉を掛ける。相も変わらずアリサは黒いフード付きのマントを着て深くフードを被っている。


「どうしてそんなこと貴方に答えなきゃいけないの?」


アリサはいつもの凛とした声で答える。本当に取り付く島がない女だ。


「え?」


「私と貴方は友達でも何でもないじゃない。赤の他人にそんなこと教える気にはならないわ」


「他人って…同じクラスメイトで、今は一緒の班の仲間だよ?」


アリサのキツい言葉にもシエルはいつもの元気を崩さず接してはいるが相手は氷も氷。氷点下の雪女みたいなヤツだ。まともにコミュニケーションが取れるとは思えないな。


「仲間…?私と貴方が?私に仲間なんていないわ。今までもこれからもね」


そう言ってアリサは足を早めて俺達の前へと出ていく。


「さっさと終わらせましょう。貴方達といると感が鈍りそうだから」


「あ、ごめん…」


シエルさん撃沈…。さすがのシエルもこの女の相手は厳しいか。


「ちょっとアリサさん。それはいくら何でも酷いんじゃないかな?」


自らの横を通るアリサに抗議の声をあげるテオ。


おぉ、今度はアリサとテオドアのラウンド2と言ったところか。


「酷い?言葉の意味が分からないわ。私は貴方達と遊ぶために魔術学園ここに来た訳じゃないの。誰よりも強くなるために来たのよ」


「僕達だって同じさ。様々な知識を学び、自らを成長させて行くためココにいるんだよ。でもね、人には一人では成し遂げられないことも沢山ある。それを補うために仲間がいるんだよ」


すげぇな、テオの奴…。さっきから主人公みたいな台詞をバンバン言うじゃん。これが物語ならまず間違いなくアイツがこの物語の主人公だろうな。


「一人でいるといずれ必ず限界が来るよ。君がどれだけ優秀だろうがね」


テオドアがそう言うとアリサの眼光がフードの下から覗く。


「なにそれ?脅しのつもり?いい度胸ね」


「脅しじゃない。事実を言っているだけだよ」


二人の間に一色触発の空気が流れる。その様子を見ていたシエルは俺の後ろでアワアワと狼狽えていた。ここで戦われても流石に困る。仕方ない。


「はいはい!二人共ストップ!」


手を叩いて二人の間に割って入る。


「喧嘩をするなら授業の後にしてくれ。今はとにかくゴールに行くことが先だろ?」


「はぁ…そうね」


アリサがため息をついて賛同する。良かったまた突っかかってきたらどうしようかと思ったが意外と理性的だ。


「そうだね、僕も熱くなり過ぎたね。ごめん」


「分かってくれてなによりだ。別に仲良くしろとは言わないさ。でも、これから長い付き合いになるクラスメイトだ。険悪にならない程度にしようぜ」


「だね!カインの言う通り」


シエルもいつもの調子を取り戻したようだ。この様子なら大丈夫そうだな。


「さぁ、ゴールまで行こうぜ」


少し、険悪になったがなんとか持ちこたえたようだ。


この調子でゴールまで何事もなかったらいいんだがなと考えて俺達はまた歩き出した。

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