第28話 実践授業

教室にやって来て早々、実習と言ったアラウス先生に連れられてやってきたのは学園裏手の森の中に点在する、とある遺跡だった。


「ここはうちの学園で管理している遺跡の一つだ。中は迷路のような構造になっていて、スライムなどの低級魔物もいる」


遺跡の入口に生徒を集め、説明を始めるアラウス先生。


なんとなくだが、この後の流れは大体想像できる…。


「諸君らにはこの遺跡に入り俺が指定したゴールまで到達してもらう。それが今回の授業だ」


予想通り…。


「班分けは事前にこちらで決めてある。今からリーダーを話し合いで決めてくれ。じゃあ、名前を呼ぶぞ〜」


そう言ってアラウス先生は生徒の名前を次々呼んでいく、そうして四人一組の班が出来上がっていき、俺の班の構成は


シエル

フード女(アリサ)

もう一人


という構成となった。


なんというか、仕組まれているんじゃないかと思うくらいに偏ったな。


「私はシエル=リストランデ!よろしくね二人共!」


そんな中、最初に声を上げたのはシエルで、元気良く俺以外の二人に挨拶をする。


「えぇ…」


案の上、無愛想に返事をするアリサ。


「こちらこそよろしくね。リストランデさん」


にこやかに挨拶を返す金髪の男…なのか?にしてはやけに中性的な顔をしている。パッと見は女にしか見えないし、なんとも可愛らしいが制服は俺と同じ男子用の制服を着ている。だが、身体付きはなんとも華奢な印象を受ける。


「えっと…僕の顔に何か付いてるかな?」


俺の懐疑的な視線を察知したのかそう声を掛けてくる。


「あぁ、いや、その…。気を悪くしないで欲しいのだが」


流石にこのままハッキリさせないと俺が落ち着かないので意を決して気になっていたことを口にする。


「君は男…なのか?」


「え?あぁ、そうだよね。初対面の人は僕のこと女の子に見えるよね」


そう言ってコホンと咳払いをし、


「僕はテオドア=アストール。気軽にテオって呼んでよ。こう見えても、れっきとした男だからよろしくね」


「そうか分かった、よろしくなテオ。俺は…」


「カイン=ダーベル君だよね?」


自己紹介をする前に名前を言い当てられて少し面を食らってしまった。


「君は有名人だから知ってるよ」


「有名人?俺が?」


「そうだよ、なんたってあの最強の騎士であるソフィア騎士長と互角に戦ったんだからね」


テオが言っているのは選抜試験での事だろう。あれを互角にと表現していいものか些か懐疑的なモンだが…。まぁ、気にしたら負けか。


「あっちも本気じゃなかったし、誰でもあれくらいならイケるさ」


「いやいや、無理だよ。少なくとも僕には出来ないね。色々と教えて欲しいなカイン君」


そう言うテオは羨望の眼差しを俺へと向けて来た。なんだ?コイツ…本当に男なのか?!にしては可愛いすぎやしないか?!


「みんな!そろそろリーダー決めようよ!」


俺がテオの可愛さに困惑しているとシエルが痺れを切らしてリーダー決めをうながす。

ナイスだ!シエル!あのままでは頭がどうにかなりそうだったので助かった。


「私はパス」

「僕も遠慮しておくね」


シエルの言葉にほぼ同時に拒否を告げるテオとアリサ。


そして、シエルの視線は必然的に俺へと向けられる。


「俺も興味無いな。シエルやるか?」


「もちろん!任せて!」


俺の問に元気に答えるシエル。どうやら初めからリーダーをやるつもりだったらしい。彼女の元気と行動性ならこの班でも立派に牽引できるだろう。


「じゃあ、私先生に報告してくるね!」


そう言ってシエルはアラウス先生の元へと駆けていく。


そして、俺の視線はアリサの方へと向けられる。昨日の今日で彼女が何かをしたという感じはないが一体彼女が何を考えているのか。そして、何で俺の力が分かったのかを聞き出さなければならい。それによって今後の方針が大きく変わる。


ターリアはこの授業には同伴は許されておらず学園での待機を命じているため今回は俺が自分でやるしかない。


「なぁ、アリサ…」

「気安く話し掛けないで」


えぇぇ…。俺にだけ人一倍当たりキツくない?俺なんかした?ヤバい…もう心折れそう。お家カエリタイ…。

後ろでその様子を見ていたテオも失笑だよ。俺がナンパして振られた見たいになってるし…何これ?


「ただいまーってどうしたのカイン?。何か死にそうな顔してるよ?」


「シエル…。いや、ちょっと人生は無情だなって思ってな」


「?」


俺の話に首を傾げるシエル。うん、それはそうだ。俺も自分で何言ってるか分かんないし。


「さて!諸君、注目だ!」


俺の折れた心が立ち直りきらないうちにアラウス先生から全体に声が掛かる。


「今、それぞれのリーダーにネックレスを渡した。授業の途中で不足の事態が起き、自分達での解決が困難と判断した場合はそのネックレスに魔力を流し込め。そうすれば俺のネックレスが共鳴して君達の危険を知らせてくれる。その場合は即刻、俺が助けに行くから安心してくれ」


シエルが透明な石が付いたネックレスを俺達三人へと見せてくる。


「では、そろそろ始めるか。君達の最初の授業、無事に成功することを祈っているぞ!」


その先生の声同時に俺達特進クラスの波乱に満ちた最初の授業が始まったのだ。

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