第26話 特進クラス

講堂での入学式はつづがなく終わりを迎えた。退屈な校長の挨拶に新入生代表の挨拶。誰がやるのかと思っていたら俺の隣に座っていたシエルがドヤ顔で立ち上がり登壇に上がった時はさすがに驚いたものだ。


そして、クラス発表の時間になり俺達新入生の名前が呼ばれて行く。多くの生徒の名前が呼ばれ、ついに特進クラスの発表になる。担任は試験官を担当してくれたファラウス先生で俺とシエルの名前も呼ばれ俺達は顔を合わせて微笑み合った。


「やったねカイン!学園でも一緒だよ!」


「そうだな、よろしくなシエル」


「うん!」


シエルは元気に俺へと返事を返す。そうして、クラス発表が終え、俺達は教室へと移動するのだった。



教室のデザインはアメリカの大学の教室のように教壇を見下ろすような階段構造になっていた。

特進クラスの人数は他クラスに比べてかなり少なく16人程度だった。その中には社交界で会ったことがある貴族達がいたりしたがほとんどは知らない顔だった。


各々が席に着く中、担任であるファラウス先生が教壇に立つ。


「みんな、今日はお疲れ様。この後は各自の寮の部屋に行き解散となる。明日からは早速授業が始まるからよろしくな。それと部屋にこの学園の制服が届いているから明日からはそれを着用して出席するように。以上、解散!」


そう言い残し、先生は教室から出ていった。


生徒各々が教室から立ち去って行く中でシエルが俺に声を掛けて来る。


「カインお疲れ様。今日はここでお別れね」


「そうだな、男子寮と女子寮は離れてるから。シエルはこの後どうするんだ?」


「私は学園を見て回ろうと思うの。カインもどう?」


シエルの問に俺は首を横に振る。


「いや、今日は部屋で休むよ。また明日な」


「うん、分かった。また明日からよろしくねカイン」


そう言い残し、シエルは教室から立ち去って行った。その様子を見ていたターリアが教室の後ろから俺へと歩み寄って来る。


「お疲れ様でしたカイン様。参りますか?」


「そうだな俺達もボチボチ行くとするか」


そう言って、俺達も教室を出て廊下へと足を踏み入れた時。


「カイン=ダーベルよね?」


女性の声に呼び止められる。その声は凛としていたが少し怒気を含んでいそうなキツそうな声だった。


その声の方向に目をやると黒いフードを深く被った人物が立っていた。俺の後ろにいたターリアは危うさを感知したのか、その場で直ぐ動けるように体勢を崩さず臨戦態勢へと入る。


「そうだけど、君は?」


「…」



俺の質問に沈黙で答えるフード女。

だが、俺はコイツに見覚えがある。選抜試験の時にもあの黒いフードを被って参加していたので記憶に残っている。軽快な動きでファラウス先生と戦っていた。そしてなによりあの時コイツは魔力を使。つまりは素の身体能力が異常なのだ。


俺がそう思考を巡らせているとフード女の声が沈黙を破る。


「貴方…なの?」


「どういう意味かな?」


口ではそう言ってみるが内心は分かる。コイツもまたあのソフィアの様に俺の中にある悪魔の力に気付いているのかも知れない。あの騎士長といい、今目の前にいるコイツといい、何故俺の力を感知できているのかは分からないが今ここで正体がバレるのはマズイ。


「そう…答えるつもりはないのね。ならいいわ」


そう言ってフード女は後ろに振り返り歩きだす。どうやら俺と今ここでことを構える様なことはしないらしい。


「まだ君の名前聞いてないんだけど?」


その言葉に歩んでいた足を止めるフード女。


「アリサ=ユニファー。同じクラスだしこれから嫌でも関わることなる。じゃあね」


そう言い残してアリサはこの場を去って行った。


「あの女…如何致しますか?カイン様」


アリサの姿が見えなくなってからターリアが俺の隣に立ちそう聞いてくる。アリサがいた方向をみるターリアの目はなんとも物騒だった。


「そう殺気立つな。今すぐ何かをしようって訳じゃないらしい。様子を見よう」


「かしこまりました。もし何かあればご用命を」


「お前は少し真面目が過ぎるぞターリア。もっと肩の力を抜け」


そう言って両手でほっぺを軽く摘む。


「おひゃめくだひゃい!ひゃいんしゃま!(お辞めください、カイン様!)」


摘まれて慌てるターリアの様子に少し笑みをこぼしながら手を離す。


「これから長い学生生活だ。そんな気を張っていたら持たないぞ。まぁ、緩く行こう」


「かしこまりました」


摘まれたほっぺをさすりながらターリアは答える。少し不貞腐れているようだ。


ターリアの頭にそっと手を乗せ、優しく撫でる。メイド服から出ている尻尾が左右に揺れる。


「お前の力はアテにしているが無理はするな。俺のためにそこまで気負う必要はないさ」


「…はい、ありがとうございます」


少し頬を赤らめながらターリアは俺の手の感触を味わっていた。


アリサ=ユニファーがなんの為に俺へと接触して来たが分からないが俺の障害となるかまたは仲間になるか。なんとも退屈しなさそうな学生生活になりそうだ。


「楽しくなりそうだ」


寮へと向かう最中、俺の口からはこんな言葉が漏れていた。

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