第24話 最強の騎士
「え?」
ソフィア騎士長のその言葉を聞いて俺はなんとも気の抜けた声を出してしまった。俺の試験を彼女が?
「どうかしら?カイン=ダーベル君、私では不服かしら?」
俺の思考がまとまっていないうちにソフィア騎士長は俺へと近づき声を掛けてくる。
いや、あの…目がすんごい怖いんですけど。獲物を見る肉食動物みたいな目してますよあなた。
「いえ!むしろ騎士長様が相手なんて恐れ多くて無理です!」
この数秒で考えた苦し紛れの理由を言うが彼女の表情は崩れることはない。
「気にする事はないわ。私個人が貴方に興味があるの」
いや、俺が気にするんですが…。
「おいおい、俺抜きで話を進めるな」
アラウス試験官〜!!地獄に仏とはまさにこのこと!
「学園の講師としてそんな勝手は看過できんぞ。ソフィア騎士長殿」
「だったらこうしましょう。昔、貴方に沢山作った貸しを今ここで一つ返してもらうというのはどう?」
そう言って、ソフィア騎士長はアラウス試験官の目を見る。その目をみて試験官は頭をかいてため息をつく。え、試験官?なにそのため息…。
「すまん、カイン。君の試験はソフィアが担当する」
アラウスゥゥゥゥ!!いとも簡単に折れやがったよ!アイツ!!
「さぁ、試験官の許可も降りたことだし、早速始めましょう」
心の中で絶叫する俺をよそにソフィア騎士長は俺へと模擬戦用の剣を放る。それをキャッチし、渋々模擬戦場へと足を進める。
まさか、こんな形で王国最強の人と戦うとは…。いや、待てよ?これはある意味チャンスなのでは?この国の最強と俺、どれくらいの差があるものか確かめてみるのも悪くはないかもしれない。
「全力で来なさい。貴方の力、見極めさせて貰います」
右手で剣を構えて左手は後ろの腰へと当てるような構えをとるソフィア騎士長。見た目も相まってなんとも優雅な佇まいな事で。確か良いとこの貴族の出自だったはずだったが、様々な道を蹴って今の地位にいるらしい。なんとも変わったお方だ。
「では、遠慮なく。行きますっ!」
魔力で足を重点的に強化し、一気に詰め寄る。風を切る感覚を感じながらソフィア騎士長の足元に瞬時に移動し、剣を振り上げる。
それを頭を少し後ろへとズラし紙一重で回避するソフィア騎士長、間違えないこの人はワザとギリギリで回避した。
「だったら!」
地面を蹴りあげ少し跳躍し、その場で周り遠心力を乗せて剣を横へと薙ぎ払う。
その攻撃をソフィア騎士長は片手で構えた剣でいとも簡単に受け止める。二つの剣がぶつかり周囲に剣風が巻き起こる。
マジか?!加減なんて一切しなかったぞ?!
「スピードとパワー、どれを取っても優秀ですね。私直属の部下にしたいくらいです」
「お褒めに預かり光栄ですが、こうも簡単に止められると自信を無くしますよ」
「それはそうでしょう」
その言葉と同時に俺とソフィア騎士長の鍔迫り合いは終わり一旦お互いに距離を取る。そして、ソフィア騎士長は言葉の続きを話し始める。
「簡単に止められるに決まっています。貴方…本気を出して無いでしょう?」
「っ!」
驚く俺をよそに彼女は続ける。
「それとも力を使えない理由でもあるのでしょうか?どちらにしても隠し事をされるのはいい気持ちではありませんね」
紫色の瞳が俺を見つめる。この女…どこまで見えてる?まさか、俺の中の悪魔の力を…。いや、そこまで掴んでいるとは思えないがこれ以上戦えばバレる可能性がある。
「では、こうしましょう」
俺が考えを巡らせているとあっちから行動に出る。
「貴方の力を引きずり出してみましょう」
その言葉と同時に彼女は俺の視界から姿を消した…。直後、俺の後ろからとんでもない殺気を感じた。
俺は瞬時に後ろへと振り返り、眼前に迫っていた剣を受け止める。
「ぐっ!!」
女性の身体から発せられたとは思えない力が俺の腕へと剣を通して伝わる。
「(この威力…!受けてなかったら死んでたぞ!!)」
刃は潰されている試験の剣いえ使い手次第では立派な凶器だ。それを躊躇無く、人の後頭部目掛けて振り下ろすとは…。
「(この女、本気だ…!!)」
目の前にいる人物は俺のことを殺す気で攻撃してきている。
「今のに反応し、更には受け止めるとはやっぱり貴方は他とは違いますね」
「今の殺す気だったな?どういうつもりだ…!」
「言葉使いが崩れてますよ。それが貴方の素ですか?私はそっちの方が好きですね」
怒りのあまり言葉を荒くする俺に対してなぜがこの女は嬉しそうだ。
「悪いが俺の力をこんな人目の着く場所で見せる訳にいかないんでね。今日の所は諦めてくれないか?」
鍔迫り合いをしている俺と彼女しか聞こえない声量で話す。
「なるほど、貴方にも事情がありそうですね。いいでしょう」
そう言って彼女は剣を引下げる。直後俺の体にかかっていた重さは軽くなり体が解放される。
「ですが、覚えておいて下さい。貴方がどんな力を持とうと王国に仇なすのなら全力で排除します」
その瞳には明らかな決意と殺意が混じっていた。そんな目を向けられたらこちらも返す言葉は決まっている。ラスボスを目指すものとしてここで引けを取るわけにいかない。
「その時は俺もあんたを全力で叩き潰すまでだ」
その言葉を聞いて、ソフィアは少し口角を上げて剣を地面へと突き刺し、背を向けて歩き出す。
「長生きできるといいですね…お互いに」
その言葉を残して彼女は去って行った。こうして、俺の想定外の選抜試験は無事とは言えない形で幕を閉じたのだった。
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