第23話 影と光

シエルは光を収束させ、槍を形成する。


「本気で行きます!」


「勿論だ、そうでなきゃ試験の意味が無いからな」


シエルは形成した槍を軽快に回して最後にソレをアラウス試験官目掛けて投げつける。


その速度は以前に森で見た時よりも遥かにスピードアップしていた。


「速いな、だが!」


アラウス試験官は投擲されて槍を所持していた二対の小太刀で簡単にいなしてしまう。


「反応出来ない程ではないな」


「やっぱり簡単にはいきませんよね。だったら!」


シエルが地面に手を叩きつけると光で形成された複数の鎖が姿を現す。


「まずは動きを止める!」


そうシエルが言うと鎖は一斉にアラウス試験官へと向けて襲いかかる。


「いい判断だ。その歳でここまでやるとは昔の

俺以上だぞ」


そう口で言いながら小太刀と華麗な身のこなしで鎖を難無くさばいていく。その動きはさながら忍者のようだ。しかし、シエルも見ているだけではない、身体能力を強化して試験官の目の前に瞬間的に移動する。


「点で捉えられないなら…!」


両手を振り下ろすように頭の後ろに持っていくシエル。その腕に光が収束し、巨大なハンマーを形成する。


「面で捉えるっ!!」


そのまま力一杯振り下ろす。この速度と攻撃範囲にアラウス試験官は避けられずにハンマーの下敷きになる。


「ぐっ!」


試験官の足が地面へとめり込むが決定打とはならなかった。


「あとひと押し!」


ハンマーに力を込めながら再び鎖を形成し、試験官へと向かわせるシエル。あれだけの魔力操作を可能にするとは幼馴染ながら末恐ろしい奴だ。


ハンマーで動きを止められているアラウス試験官の四肢に鎖が巻き付く。


「取った!」


ハンマーを消し去り、槍へと形態を変化させる。そのまま、試験官へと目掛け槍を突き立てる。

その槍が当たる直前、アラウス試験官の口元は少し笑っているように見えた。

その直後、アラウス試験官の体は黒く染まりまるで液体のように崩れ散った。


「えっ?!」


当たるはずの攻撃が外れてシエルは地面へと着地する。そして、シエルの背後に黒い液体の様なものが現れアラウス試験官が姿を作り出した。


「流石はリストランデ家のご令嬢。まさか試験でを使うとは思ってもみなかったな」


そう言って、自分の隣に視線を向けるアラウス試験官。そこには液体で形成されたもう一人の試験官が立っていた。


「それが先生の個性魔法ですか?」


「まぁな、便利なモノだろう?」


「勝負はこれからですね!」


シエルがそう言って、槍を構え直すと試験官は首を横に振りながら武器をしまう。


「いや、十分過ぎるぐらいに君の力は分かったし、やめにしよう。それにこれ以上やったらお互い怪我じゃ済まなそうだ。評価の方は心配するな、文句なしの最高評価だよ」


その言葉を聞いてシエルはこちらに向かって笑顔でVサインをしてくる。

シエルはアラウス試験官に一礼してこちらへと駆け寄ってくる。


「カイン!見てた?私頑張ったよ!」


「あぁ、しっかり見てたよ。この短期間で強くなったなシエル」


「えへへ、そうしっかり言われると照れるね。でも、私はカインの隣を歩くって決めてるから置いて行かれないように頑張るね!」


「俺が置いて行かれそうだな」


「ふふふ、そうかもね」


シエルは悪戯心を含んだ笑みを俺へと向けてくる。


「さて、次で最後だな。カイン=ダーベル始めるぞ!」


アラウス試験官が俺の名前を呼ぶ。その声で俺が試験場へ向かおうとした時。


「その試験、待ってください」


凛とした声が俺の耳に入ってきた。声の方向に目をやるとそこには紫色の瞳に薄紫色の髪を後ろで束ね、王国騎士の甲冑に身を包んだ美女が入学生の人混みの中から出てきた。


俺はこの人を知っているが何故こんな所に?


「珍しいお客さんだな。一体なんの御用かな?“現王国騎士長”ソフィア=アンドラーデ殿」


そのアラウス試験官の言葉に周囲の入学生達はから驚きの声が上がる。


無理もない…。


この人はただの騎士長じゃない。“歴代最年少”にして長く続いて来た王国騎士団の歴史の中で“歴代最強”と言われている人物。

それがソフィア=アンドラーデという女性だ。恐ろく俺のラスボスへの道のりの中で一番の障害になるであろう人物だ。


「貴方にお願いがあって来ました。アラウス=ファリアス殿」


「内容にもよるな…。一体なんだ?」


その聞いてくるアラウス試験官をよそに彼女…ソフィア=アンドラーデは俺へと視線を向ける。


「彼の試験…。私にやらせてください」


それは“最強”からの“最悪”の申し出だった。

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