第21話 新たな出会い

少女の名前はターリア=オズガルド。

紺色の手入れがされていない伸びきった髪に紺色の瞳を持つ犬型の耳と尻尾が特徴的な獣人だ。歳は俺の一つ下で、奴隷になった経緯は森に出掛けた時に人攫いに捕まり、そのまま奴隷として生きて来たと彼女は語った。


「これから私はどうすれば?」


「それはターリア自身が決めることだ」


「私には帰る家もない。一人ぼっちでどうすれば...」


ターリアの目から涙が溢れる。彼女が暮らしていた村は魔物の襲撃に会い、壊滅したとの噂を山賊たちに奴隷として扱われている時に耳にしたそうだ。


「なら、ウチに来るか?」


「え?」


ターリアは信じられないものを見る目で俺を見つめる。


「俺の家は広いからターリアが一人増えたとこで何も問題はない。お前のやりたいことが見つかるまでうちに住めばいい」


「でも...私は獣人...」


「別に俺は気にしない。それに獣人全てが差別される訳じゃない。伯爵家が預かっていると知れば、無下な対応はとられないさ」


これは事実だ。獣人は奴隷というイメージが多いが奴隷印が無ければ普通に暮らせるし、ちゃんと一人の人間としての扱いを受けることも可能だ。

それでも差別をする低俗な考えをする人間は一定数がいるからマイナスな面でないわけではないが。


「あ、そういえばまだ名乗ってなかったな。カイン=ダーベルだ、よろしくな」


俺はそうして手を差し伸べる。ターリアはゆっくりと俺の手を握る。


「ありがとう...ございます」

「おいおい、泣くなよ。せっかく新しい自分になれる記念すべき日なんだから」

「はい...」


そう言ってターリアは涙を拭う。髪の下から覗くその目は赤く腫れていた。


「さて、じゃあ帰るか」


そうして俺は次元扉ゲートを出して自身の部屋に繋げた。


「こ、これは?」


目の前に現れてた黒い穴にターリアは少し戸惑った声を出した。


「心配するな、一緒に行こう」


そう言ってターリアの手をそっと掴み、一緒に次元扉ゲートに入り、俺の自室へと移動する。


「ここは?」


「俺の家の、俺の部屋だ。今日はベットで休むといい。フカフカだから良く寝れるぞ」


「それじゃあ、貴方が...」


「気にするな、俺はソファで寝るから。こっちもフカフカだから問題ない」


そう言って、俺はソファへと寝転がる。


「さっさと寝な、明日は俺の家族にターリアを紹介するから忙しくなる」


「ありがとうございます」


「あぁ、おやすみ」


ターリアがベットへと入るのを見て、俺も目を閉じる。少し疲れていたので俺の意識はすぐに眠りの中へと消えていった。


その翌日にはターリアを紹介して俺の専属の従者へとターリアを付かせた。俺とターリアの出会い方などを考えると俺に付いて貰うのが一番良いと判断した。ターリアも承諾してくれた。





そうして、ターリアがうちに来てから早一週間が経った。


「随分と見違えたなターリア」


俺の部屋に来たターリアにそう声を描ける。


「皆さんが良くしてくださったおかげです」


ターリアの見た目は最初に出会った時とは比べ物にならないくらい綺麗になっていた。

髪は肩ぐらいまでの長さで切り揃え、必要な栄養を取ったことにより顔にも生気が戻っていた。そして清潔なメイド服に身を包んだ彼女の姿は立派なメイドそのものだ。

実際に彼女の仕事の覚えはとても早く、料理や洗濯なども一瞬のうちに覚えてしまった程だ。


「そして、このような環境に置いて下さったカイン様には感謝の言葉もございません」


「よせよ、改まって礼を言われると照れるだろ。それで?やりたいことは見つかったか?」


ターリアがここに来て、少し落ち着いて来たので俺は質問を彼女に投げかける。


「ご迷惑でなければ私をずっとカイン様のお傍に置いてくださいませんか?」


「え?なんで?」


俺がそう聞くと彼女は理由を話し始めた。


「私はカイン様に救っていただきました。その恩を一生掛けて返したいのです」


「んな大袈裟な...」


「いいえ、私を奴隷から解放してくれただけではなく、温かい食事も、フカフカなベットを与えて下さった。そして、何より選択肢の無い人生を歩んでいた私にカイン様は選ばせてくれた。恩も勿論あります!でも、なにより私がカイン様のお傍にいたいのです!ダメ...でしょうか?」


途中から感極まって涙を浮かべるターリア。

参ったな...そんな顔をしているやつにダメだなんて言えるわけがない。

だが、従者になって傍にいてもらう以上、ターリアには知っていてもらうしかない...。


俺の“目的”を。


それを聞いても尚、俺の従者でいたいと言うのなら彼女の意思を尊重するとしよう。


「ターリア、よく聞け。俺の目的はこの世界の“悪”になることだ」


「悪...ですか?」


ターリアが素っ頓狂な声を上げる。

それはそうだ。急にこんなこと言われてすぐに理解できる人間なんていない。


「そうだ、誰もが恐れおののくようなこの世界の悪になるために行動している」


「どうして?そんなことを?」


どうして?そんなもんは決まっている。


「それが俺のこの世界に“生まれた意味”だからだ。だから、俺はこれからこの世界の人々から疎まれ、憎まれることになる。そんな俺の傍にお前はいたいのか?良く考えろ」


そんな言葉を聞いて、ターリアは笑みを浮かべて彼女は俺に跪く。


「私の命はカイン様の物です。そのカイン様がソレを望むなら...私は全身全霊をもって貴方様の手足となります!」


その目には一寸の迷いもない真っ直ぐな目をしていた。

こんな風に言われては俺も腹をくくるしかないようだ。


「そこまで言われるとは思ってなかった。よし!もう何も言わん!これからよろしくなターリア」


俺は改めてターリアに手を差し出す。


「はい!私の方こそよろしくお願いします!」


そう言って俺の手を握る彼女の笑顔は太陽のように眩しいものだった。

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