第19話 狩る者

外出禁止が解けてから数日経過したある夜。


俺は森にいるヘルハウンドと意識を共有して“ある集団”を探していた。その集団のことを知ったのは今日の昼に冒険者ギルドに行った時だった。


なんでも近くの村を襲い村人を殺害し、金品を奪って行ったこの近辺では悪名名高い山賊の集団がこの近くに潜伏しているらしい。

ギルドには手配書とその者たちへと賞金首の通知が貼ってあり、なんでも“生死は問わない”とのことだった。


その情報を掴んだ俺は昼からずっと魔物たちと意識を共有し、捜索にあたっていたということだ。だが、なかなかに奴らは尻尾を掴ませてはくれなかった。流石に名が知れているだけあってか痕跡を残さないが、ヘルハウンドの意識を共有すれば嗅覚なども研ぎ澄まされる。

そうして、ついに奴らの野営らしき場所を見つけた。

森の開けた場所で焚き火をして奪った金品を見ながら酒を飲んでいた。なんとも呑気はもんだ。


「よし、行くか」


俺は魔力を手に集中する。


次元扉ゲート


そう唱え魔力を目の前に放つと真っ暗な穴が出てくる。この魔法は自身の魔力の残滓があるところに扉を開け、一気にそこに行くことができる失われた基礎魔法だ。現代でこの魔法を使える人は恐らく存在しないだろう。これもブレイズの魔力を貰ったことにより使えるようになった魔術の一つだ。


魔力形成された穴を通るとそこは奴ら山賊が野営をしている近くの茂みへと出た。


すぐさま、木の上へと跳び乗り上から奴らの様子を伺う。


人数は20人程度、全員戦い慣れはしているだろうが訓練された精鋭に比べたらなんてことはないだろう。

だが、一人だけ明らかに鍛え方が違う男を発見する遠目からでも分かる隆起した筋肉に鋭い眼光を持った男。恐らくアイツが頭目だろう。


さて、この集団にどこまで通用するか少し実験に付き合ってもらおう。


今日ここに来た目的は一つ、今から奴らに俺が使役した魔物たちをけしかけ襲わせる。

理由は一つ、俺が使役した魔物たちの戦闘能力を知るため。どれだけ戦力があってもその力を正しく把握しておかなければ宝の持ち腐れだ。彼らには申し訳ないがここで犠牲になってもらう。というか、奴らも今まで散々殺して来たから文句は言えないだろう。


召喚サモンズ・ヘルハウンド」


そういい、魔力を集中させると俺の背後に召喚陣が現れそこから20数頭のヘルハウンドが現れる。まずはこのくらいの数で足りないようなら追加していく。


「散開」


小声でヘルハウンドたちに指示をとばすとヘルハウンドたちは奴らに気づかれないように四方を囲むように茂みへと移動する。具体的に命令しなくても俺の意図を理解してくれるのはありがたい限りだ。


さて、俺がこれからすることは紛れもなく殺人だ。奴らが悪人とかは今は置いておくとして普通の人間なら何を感じるだろうか?葛藤や苦悩もあるはずだ。

だが、今の俺は自分でも驚くほど落ち着いている。奴らの屍を見ても同じことが言えると断言出来るほどに。これは体だけではなく心までもが悪魔になってしまったのだろうか?

いや、違うな。ラスボスになることを決めた時から人をあやめる時が来ることは分かっていた。


そう、これは俺なりの“覚悟”だ。


命を奪うと決めたなら悩んでも迷ってもダメだ、それは相手への冒涜だ。自らの目的の為に非情に徹することこそ俺が望むことなのだ。


だから、悪いな山賊。お前たちは今日ここで...


「死んでもらう」


俺のその声と同時にヘルハウンドたちが一斉に茂みから飛び出し、山賊達へ襲いかかる。


もう後には引けない...賽は投げられた。


ここから俺はこの世界のラスボスとして君臨し、散るその時まで今日この時のことを脳裏に焼き付けよう。


ここから始まる、俺のラスボスへの道が。この道がどれだけ険しく血塗られていようとも俺は必ずあるききってみせよう。


そう決意して俺は山賊とヘルハウンドたちの戦闘へと意識を集中させるのだった。

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