第17話 新たな力

外に出ると空は既に黒に染まっており、月明かりが俺のことを出迎えくれた。


「あちゃー、これは説教コースだな」


今頃、血眼で俺を探しているに違いない。さっさと帰った方が良さそうだ。


「ん?」


そう考えていると森のなから複数の気配を感じた。その方向に目をやるとヘルハウンドたちがこちらに向かってゆっくりと近づいて来ていた。


「丁度いい、新しい力の実験台になってもらうか」


そう言って掌に魔力を集中するといと簡単に炎が現れた。不思議なことに熱さは全く感じない。これも俺がブレイズの力を貰ったことが理由なのだろうか。

だが、調子に乗って威力を弱めて放たないといけない。森で火事なんてシャレにならない。


「くら...え?」


なんとも気の抜けた声を上げてしまったがその原因は目の前のヘルハウンドたちだった。


頭を下にむけて微動だにしない。


いつもの奴らなら獰猛にこちらへと向かってくるところだ。

こちらから近づいても動く様子はない。一歩、また一歩と近づいて行き、ついには俺の足元まで来てしまった。

そして、試しに頭を撫でてみる抵抗をする様子はなく、むしろ尻尾を振ってなんとも嬉しそうな印象を受ける。


「まさか...よし」


少し思案を巡らせて思ったことを実行する。


「お前ら、お座り!」

「「「「「ワン!!」」」」」


俺の言葉に一寸の迷いもなく、実行されるヘルハウンドの渾身のお座り。


うん、なんとも壮観だ。

というかコイツら人間の言葉が分かるんだな。


「これは俺の味方になったっていう認識でいいのか?」


ヘルハウンドたちは俺の次の指示を待っているように見えた。こうくると悪戯心いたずらごころに火が着いてしまう。


「よし!お手!」

「ワン!」

「おかわり!」

「ワン!」


一体、俺は魔物の相手に何をしているのだろうか...。考えたらダメだな、ウン。


ひとしきり、じゃれ...実験を終えて立ち上がる。


でも、なんで急に魔物が俺の言うことを聞くようになったかだか、そんなもん一つしかない。

俺がブレイズに勝利し、悪魔の魔力を手に入れたからだ。魔物は生物が悪魔の瘴気に触れて変質したものだ、つまりは悪魔の眷属。


つまり俺は継続的に補給が可能な戦力を手に入れたことになる。

人類の敵である魔物を使役するなんてなんともラスボスっぽい能力だ、素晴らしい!


「さて、じゃれあいはこのくらいにして付いてきても困るしな。じゃあ、解散!」


俺がパンっと手を打ち鳴らすとヘルハウンドたちは森の闇へと消えて行った。なんとも聞き分けの良い魔物たちだ。


「さぁーて、ボチボチ帰るとするかな」


体を伸ばしストレッチをしながら森への中を歩き始める。


これから先は新たな力を把握して使い方を熟知していかなければならない。まだまだやることが尽きなくてワクワクしてまうのはいささか子供っぽいだろうか。


その後、家に着いた俺は両親からのガチ説教をくらい、三日間の外出禁止を言い渡されてしまった。



王都システリア・騎士団兵舎


時刻は夜、辺りの騎士達は慌ただし様子であちらこちらを行き来きしている。


「騎士長!報告致します!」


その中の一人が騎士長と呼ばれた女性に膝をつく。


「報告を」


そう言う、女性は凛とした雰囲気を崩さずに騎士に報告を求める。


「はい、観測隊の報告によると微細な量ですが、短時間だけ悪魔の魔力を探知したとの報告が」


「悪魔...」


悪魔という単語を聞いても女性の表情は崩れることはない。


「ずくに遠征隊の編成を...」

「必要ありません」


男の発言を女性は遮りながら答える。


「しかし...」

王都ここには私がいます」


女性は騎士の顔を見て言う。その言葉には真っ直ぐな意思だけが乗り、驕りや傲慢さなどは感じられない。


「魔物が来ようと、悪魔が来ようとこの王都に害を為す者ならば私が切り伏せます。だから安心して貴方達はいつもの体勢を続けなさい」


「了解しました。騎士長」


そう言って、男の騎士はその場を後にした。残された女性は空を見上げながら呟く。


「民を守り、王都を守る。それこそが私の責務...」


『ソフィア=アンドラーデ』


史上最年少で騎士長に上り詰め、数々の武功を上げてきた騎士。

様々な剣術や魔術を使いこなし、国の安寧を守り続けて来た。


名実ともに“王国最強の騎士”である。


カインが悪魔ブレイズと一体化して世界を動かしていた歯車に歪みが生じた。この歪みがこれから先、一体何を起こすかはカイン自身もまだ知る由もなかった。

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