第15話 魔人血戦4

部屋全体が俺の魔力で包まれて一つの空間を創り出した。


「なんだ、これは?魔力が消えた」


「ははは…、まだまだ発展途上の俺の終極魔術だよ」


あまりの不格好さに笑いが込み上げてくる。


「この空間は俺以外の魔力事象を全てゼロにする」


「なるほど、体の動きが鈍いのもこの空間の影響か…」


「魔力の生命体であるお前にとってはこの空間自体が毒みたいなもんだ」


「だが、これだけの魔力を放出するのは命取りだな。持続時間は長くないと見た」


「あぁ、持って三分ってとこだな。その間にお前を倒す」


全ての魔力を放出して創った空間だ。三分が過ぎれば俺の負けが確定する。


「ならば我は三分間、生き残ればいいわけだ。それで貴様は詰みだ」


「悪いが、詰むのはアンタだよ」


全身に残った魔力を行き渡らせる。左手の感覚はだいぶ前から痛みしかないから使えない。つまりは右手のみで奴を戦うことになる。

冷静に考えれば勝てるわけがない。

だが、今やらなければ次は一生訪れない。


奴に向かい踏み込み、一気に距離を詰める。

二人の剣がぶつかり合う、そうして起こる凄まじい衝撃波。

その音と振動に骨は軋み、脳が揺れる。幾度もぶつかり合う刃。

俺と奴は最早、勝負のことはどうでもよくなっていたのかもしれない。今はただこの瞬間が楽しかった。お互いに命をぶつけ合うこの感覚、初めての感覚なのにどこか懐かしく、ずっとこれに浸っていたくなるようなそんな感覚。


だが、それも残念なことに終わりを迎えようとしていた。


「はぁっ!!」

「ぐっ!」


奴の声と共に俺の剣が弾かれる片手でしか振るえていなかった分、奴の方に軍配が上がった。

だが、まだ剣は俺の手を離れていない。まだ戦える!


「これで最後だぁ!」


剣を構え、ブレイズが俺の心臓を目掛け突きを放つ。

剣で受けることは出来ない、このまま貫かれる…。いや、ここが瀬戸際っ!全てを出し切れ!


「負けてたまるかあぁ!!」


向かってきた剣を俺は受け止める。


鮮血が飛び散り、ブレイズが驚愕の声を挙げる。


「バカなっ!?素手で?!」


左手を犠牲にして正面から剣を受け止めて握る。


この手は死んでも離さないっ!


弾かれた剣に渾身の魔力を込めて奴の心臓に目掛けて今度はこちらが突きを放つ。


「くらえぇぇ!!」

「なめるなぁ!人間があぁ!」


その放たれた剣を奴も同様に左手で受け止める。


「貴様に出来ることが我に出来ないとでも!」


剣はビクともしない、そして奴が力を込めた瞬間に剣は儚い音ともに砕けた。


「これで終わりだなぁ!」


終わり…、いや!終わらせない!


刃はまだ残っている、この長さなら届く、奴の心核に!


再び、魔力を込めて奴の胸に砕けた剣を向かわせる。今度はもっと強く!強く!強く!


「なに?!」


奴の胸と俺の剣がぶつかり合う。そして、ゆっくりと俺の剣が胸に刺さり始める。


「ああああああああぁぁぁ!!」


今までに聞いたことのないブレイズの痛みに塗れた声が部屋全体に響き渡る。


「やめろぉおお!!」


奴の左手が俺の顔を掴む、その手は高温ですぐさま、俺の顔を焼き始める。尋常ではない痛みが俺を襲う。


だが、引くわけにはいかない。ここで終わらせるんだ!


「はあああああぁぁ!!!」

「ぐっああああぁぁ!!!」


俺とブレイズの叫び声がこの部屋に木霊する。そして、ついに俺の刃は奴の胸を貫ぬき内に眠る心核に刃を突き立てた。

がらす細工が砕けるような小さな音がした。その瞬間、俺の顔を焼いていた奴の手から高温が消えた。


終わったのか?


そう思ってしまい、俺は後ろへと倒れ込んだ。顔の半分は焼けただれ、目もまともに見えない。左手は火傷と損傷でもう使いものにならない。体から無数の出血が起きて意識も途切れそうだ…。


「(あぁ…これは死ぬな…)」


そんな考えを巡られせながら俺の意識は暗闇へと消えていった。

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