第12話 魔人血戦

“ブレイズ” その名前はあの本に書いてあった。神と悪魔の戦いで誰よりも戦闘を享受し、狂乱へと身を投じた。そして、なにより原初の悪魔の中で唯一、最強の悪魔だ。


それが“ブレイズ=アンディアーナ”と言う悪魔だ。



「さぁて、まずは小手調べ。簡単に死ぬなよ人間!」


ブレイズがその場からこちらへと一直線に跳んで来る。その速度は今までの魔物なんかと比べ物にならないくらいはやかった。


「くっ!」


反射的にその場から後ろに下がる。その直後、俺が立っていた場所の彼女の拳が振り下ろされた。炎を纏った拳は石の床をいとも簡単に溶かし砕いた。


「よく避けた。褒めてやろう人間」


拳を地面から引き抜き、こちらを見てブレイズはそう言った。


「カインって名乗っただろ。人間って呼ぶのはやめろ」


「なら、我に名前を呼ばせるほど認めさせればよい。でなければ貴様もそこいらの有象無象と変わりはせぬぞ」


「だったら、今度は俺から行くぞっ!」


剣と自身の体に魔力を纏わせブレイズへと踏み込む。ヤツの炎は確かに規格外の威力と熱を持っているがそれは魔力で創り出したもの、だったら俺にも勝機はある。

しかも、悪魔自体が魔力の塊が意志を持ったもの。なら俺の個性魔法で奴に傷を負わせることもできる筈だ。


「無策か…。愚かなことだな!」


ブレイズがこちらへ向かっててのひらから炎を出してくる。


俺はその炎に剣を合わせる。


ぶつかり合った二つは競り合うことなく炎の方が消えていく。その末に距離を詰めた俺の剣は奴の腕を切り裂いた。


「っ!?」


斬られた瞬間、ブレイズは後ろへと跳び去り、斬られた腕を呆然と眺めていた。


「どうした?随分と驚いた顔をしているなブレイズ」


剣をはらい、切っ先をブレイズの方へと向け俺は言った。

だが、彼女の腕は炎と共に一瞬のうちに再生した。彼女は斬られた腕を見ながら俺に言う。


「なるほど…。貴様が我に挑んだのは蛮勇でも無謀でもなかったというわけか」


「そういうことだ」


「貴様の魔力は少し特殊な様だな。我らがこの世界にいた時代には人間どころか神にもそんな力を持つ者はいなかった」


「魔力で構成されたお前達、悪魔と俺の相性は最悪と言っていいだろうな」


俺のその言葉にブレイズは不敵な笑みを浮かべる。


「フ…。確かに我らを構成するのは魔力だ。だからこそ我々は永久に老いることも無く、死することも無い。貴様ら人間やの生物とは全てにおいて格が違うのだ。我ら悪魔はな」


「お前達はそうやって全てを見下すつもりか?だから、神に追いやられたんだろお前達は!」


「知ったふうな口を利くなよ…。人間風情がっ!」


その言葉に含まれる殺気に全身が震える。どうやら、ここからが本番のようだ。


「貴様は我ら悪魔についてある程度の知識はあるようだが、これは知るまい。フン!」


いきみ声と共にブレイズが床へと拳を突き刺す。するとその穴に炎が集まって行く。


「悪魔にはそれぞれの特性を活かす武器が存在する。それは原初の時代…神達が扱った“神器”にも匹敵する」


ゆっくりと引き抜いた拳には刀身が黄金色に輝き、赤色の紋様が入った青銅剣が握られていた。


「我らはそれをこう呼んだ。“魔武器”とな」


その剣をはらうと炎と共に爆煙が巻き起こる。そして、ブレイズはこう続けた。


「“炎魔剣ブレイズ” 我が名を冠したこの剣の威力…その身で味わってみよ」


その直後、ブレイズは俺の視界から姿を消した。瞬きの間も無く俺の眼前に現れたのはさっき見た剣だった。

瞬間的に俺は剣でその刃を受け止めた。その重さは俺の足を地面へとめり込ませるには十分だった。


「ぐっあぁ!」


あまりの熱と重さに声が途切れる。そしてなにより魔力で受けているのにこの剣は消えない。つまりは魔力ではなくちゃんとした物質で出来ていることになる。


「このまま焼き斬ってやるぞ。人間!」


───このまま受けていたら死ぬっ!


そう判断し、左へと剣の攻撃をいなす。そして、体を回転させ、ブレイズの腹部目掛け魔力で強化した蹴りを叩き込む。


「っ!?」


「貴様なんぞの蹴りが我に通用するとでも?」


俺の足は片手でいとも容易く受け止められていた。


そして、ブレイズは俺の足を掴んで


「そおらぁ!!」


俺はそのまま、壁へと投げつけられるが空中で受身を取り、なんとか激突は避ける。


だが、息つく暇もなくブレイズが放った火炎が俺へと向かって飛んでくる。俺は魔力を集めて目の前の火炎へと浴びせる。


すると火炎は霧散し、火の粉となって宙を舞って消えていった。


「はぁはぁ」


息を切らしている俺とは対象的にブレイズは楽しそうな表情を浮かべていた。


「ふふふ、なかなかに楽しめるではないか人間。褒めてやってもいいぞ?」


「賛辞の言葉はアンタを倒してから聞きたいね」


息を整え剣を構える。

彼女も同じく剣を構える。


「そんな時は訪れはしない。貴様には待つのは無様な“死”だ」


そういう彼女の瞳の中には炎が滾る様に燃え盛っていた。

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