第11話 原初の悪魔

召喚陣から炎が吹き出し、巨大な火柱を作り出す。周囲の気温は急激に上がり始め、額に汗が滲み出す。


やがて、炎は一箇所に集まって二足歩行の巨人の姿へと変化した。


「ようやっとか…」


重々しい口が開かれ言葉が発せられる。さいわいなことに悪魔が発した言葉は俺達が使っている言語だった。


「何千年もの間、我ら向こう側へと追いやり!腫れ物扱いした神共に今こそ往復をっ!」


ヤツが昂るたびに周りの温度が上がっていく、このままでは戦う前に倒れそうだ。


「あ〜。盛り上がっているとこ悪いんだが、俺の話を聞いてくれないか?」


俺の声を聞いた悪魔は足元にいる俺へと視線を向ける。


「貴様が我を呼んだのか…。随分と歳和もいかない者だな」


「もっと年老いていた方が良かったか?」


「我ら悪魔にとっては人間の見た目などはどうでもいいことだ。所詮は弱く脆い、我らに淘汰されるだけの存在…。だが、お前は別だ。我を呼び戻した褒美をくれてやる。何を望む?」


その言葉を聞き、俺は悪魔へと剣を向ける。


「あんたに魔人血戦デモンズデュエルを申し込む。無論、断らないよな?」


俺の言葉の後、部屋にしばらく沈黙が訪れる。それを破ったのは悪魔の巨大な笑い声だった。その音量は部屋を揺らし、俺の骨に響く程であった。ひとしきり笑ったあと悪魔は笑いが混じった声で俺へと言う。


「人間の?しかも、たかが子供が?我に血戦けっせんを?くくく、なんとも傑作だな」


「俺は本気だぞ」


「なら、なおさらに面白い。確かに我々は人間からの血戦を断ることはない…。何故だか分かるか?」


「…」


俺が沈黙で返すと悪魔は答える。


「人間では我らには絶対に勝てぬからだ。人間では到達しえない力を我らは有している訳だ」


「御託はいい。受けるのか受けないのか、さっさと決めろ」


「なんとも愚かな人間よ、そんなに死に急ぎたいか。良かろう、ならば存分に遊んでから殺してやろう」


悪魔を形成していた炎が集束して人間と同じサイズになっていく。

そして、炎はやがて一人の少女へと姿を変えた。

炎の様な真っ赤な長髪と瞳を宿した端正な顔立ちの女性がそこには立っていた…で。


「まてまてまて!服を着ろぉ!」


目を逸らして少し声を荒らげて悪魔へと忠告する。こちとら前世では女性と手を繋いだことのない恋愛未経験者だったんだぞ!裸の女性となんか戦える気がしない。


「ん?あぁ、そうか。人間はなにかを体に身に着ける生物であったな。面倒なものだ」


そう言って、悪魔が指を鳴らすと炎が彼女?の周りを包み、服を形成していく。

出来上がったソレは真紅のドレスでとても高貴な雰囲気が彼女から放たれていた。


というか何から何まで赤かよ…。


「いわば、これは我を復活させたお前へのせめてもの褒美だ。お前と同じ人間の姿で対等に勝負してやろうではないか!」


「対等の意味を辞書で調べてこい」


今のにも周りの熱と濃い魔力のせいで倒れそうなんだ。こんな神話の化物を相手にしている時点で対等もクソもあったもんじゃない。


「さて、ではそろそろ始めるとするか」


そう言って彼女は腕回しを始める。


「待て、その前に一つ聞きたい。あんた名前は?」


俺がそう尋ねると彼女は首を少し傾げる。


「名?何故そんなことを聞く?」


「お互い名前を知らずに殺し合うのは嫌なんでね。俺はカイン、カイン=ダーベルだ」


「人間の名なぞに興味ないが…。まぁ、これも褒美にしておこう。しっかりと我が名をその矮小な脳にでも刻んでおけ」


彼女が指で自分の頭をトントンと叩いてこちらを馬鹿にしてくる。

そして、目を閉じ一呼吸を置く、周りの熱が更に上がった気がした。ゆっくりとその目を開き、真紅の瞳が俺を捉えて彼女は名乗る。


「我が名はブレイズ=アンディアーナ。原初の悪魔にして“獄炎の王”であるっ!」


彼女の周りから炎が吹き出る。その炎の温度はもはや、マグマに匹敵するものだった。

俺の目の前にいるのは間違いなく『化物』だと改めて俺は認識させられた。

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