第8話 人助けはラスボスっぽくない

シエルと共に悲鳴が聞こえた方向へと足を進めると3人の冒険者と4匹のゴブリンが対峙していた。

冒険者は男性が2人と女性が1人で男性の1人が腕から大量の血を流して地面で苦しんでいる。そこに女性が寄り添って、もう1人の男性冒険者が剣を構えてゴブリンを牽制している。

対峙と言っても形成は見るも明らかな状態だ。


「ゴブリン族ね。でも、4匹に遅れを取るなんて」


ゴブリンは冒険者の中でもそこまで脅威がある存在ではない。だが、それはだったらの話だ。


「シエル、奴らの奥を見ろ」


俺の声にシエルはゴブリン達の奥を見る。


「あれって『魔術師ウィザード』?!」


魔物の中にも人間と同じく魔力を保有する個体が存在する。その魔力を理解して利用することができる個体を『魔術師ウィザード』とこの世界では呼ぶ。


「ただのゴブリンでも魔術師ウィザードにもなれば危険度は桁違いに高くなる。大方、奥のヤツの魔法を不意打ちで喰らったんだろ」


「だったら尚更助けないと!」


「そうだな。シエル、手前の3匹は任せていいか?俺は奥のヤツを叩く」


「もちろん!じゃあ、行くよ!」


その声と同時にシエルは茂みから飛び出し、魔力を練って弓の形へと変化させた。そのまま矢をつがえて1体のゴブリン目掛けて矢を撃った。

放たれた矢はゴブリンの喉元に直撃し、不意打ちは成功となった。


「貴方達の相手は私よ!」


シエルは光の剣を創り、細剣との二刀流でゴブリン達に向かって行く。

その様子を見ていた奥の魔術師ウィザードは魔力を練り始めた。

俺は身体能力を強化し、すかさずシエルとゴブリンの間に入る。


「お前の相手は俺だっ!」


魔術師ウィザードの眼光は俺へと狙いを着けた。奴が魔力を練ると氷のつららが周りに浮かび出た。

そして、奴が持っていた杖を地面に叩き付けると同時に浮かんでいたつららは俺へと一気に飛んでくる。

数が多いため捌くも、避けるのも厳しい。だが、それは俺の個性魔法には通じない。俺は少し魔力を体に纏わせる。


瞬間、放たれたつららは俺の体を貫通…せずに俺の目の前で霧散した。


「ギィ?!」


その光景をみていたゴブリンウィザードは驚愕した声を上げた。


俺の個性魔法は相手のありとあらゆる魔力が関係する事象を無効化することが出来る。


消失魔術ザ・ロスト


俺は剣に魔力を纏わ、ゴブリンウィザードに走り出す。


しかし、奴も無抵抗でやられはしない。魔力で作った壁、魔法障壁を目の前に展開した。通常であればこの障壁を突破するにはこれを上回る魔力をぶつける必要があるが俺の前では関係ない。


魔力頼りの防御は俺の前では一番の悪手だ。


前述した通り、俺のこの個性魔法は魔力的事象を全て無効化する。俺の魔力に触れた瞬間に相手の魔力は霧散するのだ。


剣と魔法障壁が衝突した瞬間、障壁は霧散して俺の剣はゴブリンウィザードの喉を貫いた。俺は剣を横へ薙ぎ払い、奴の首を切断した。


「やったぁ!カイン!」


ゴブリンウィザードを倒した俺にシエルは抱きついて来た。


「やっぱ、カインの魔法は凄いね。かっこよかった!」


「ありがとう、シエル。そっちは終わったのか?」


「もちろん!」


シエルが戦っていた方を見ると見事にゴブリン達を討ち取っていた。試験でこれは大金星だろう。


「すまねぇ、助かったぜ」


襲われていた冒険者が俺達へと歩み寄ってきた。


「あなた達が来なかったと思うとゾッとするわ。本当にありがとう」


魔術師であろうローブと帽子を被った女性がそう言う。


「いえ、それより怪我をしていた方は大丈夫ですか?」


「えぇ、応急処置は済んだから。これから街に戻って医者にかかるわ。この恩は忘れないわ」


「いえ、困った時はお互い様ですから」

「そうですよ、気にしないでください」


俺とシエルがそう言うと


「いや、そうはいかねぇ!命を救ってもらったんだ。必ずこの恩は返すぜ!じゃあな、坊主と嬢ちゃん!」


男の冒険者はそう言った。なんても豪快な人だ。そうして3人は足早にこの場を去って行った。


「助けられて、良かったねカイン」

「そうだな」


シエルも満足そうで良かった。それから俺達はギルドに試験の報告をするために倒した魔物の戦利品を持ち帰りギルドへと帰還するのだった。

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