第7話 冒険者試験
「カインは将来の目標とかって決まってるの?
」
ギルドから出て、森へ入ってしばらく歩いているとシエルがそんなことを聞いてきた。
「具体的なことはなんにも。だけど、何するにしてもある程度の実力は必要だと思ってるよ」
本当の目標を話すわけにはいかないので、てきとうに濁して答える。
「まぁ、そうだよね。この時点で決まってる方が稀だもんね」
「シエルの方はどうなんだ?」
「私の方も全然、お父様もお母様も私の好きにしていいって言ってるし」
「お互いに良い親に恵まれたな」
「ホントにね」
この先のことは自分にも分からないがシエルと完全に敵対するのは避けたいものだ。
そうして、しばらく森の中を進んでいると目標の犬型魔物を発見する、世間一般的には『ヘルハウンド』と呼ばれている。数は5匹程。
奴らは群れを成して狩りを行う。今回俺達が見つけたのは小規模の群れのようだ。
「どうする、カイン?サクッとやっちゃう?」
「大雑把過ぎるぞ、流石に」
茂みに身を潜め、シエルと小声で話す。
シエルはなんというか、社交界などの公の場などでは深窓の令嬢といして振舞っているが俺といると、どうにもてきとうな所がある。
「あっちが俺達に気づいていないんだ。有効活用しよう」
「不意打ちね、任せて!」
そう言って、シエルは茂みから立ち上がり、魔力を練る。
彼女の個性魔法は自らの魔力を光の粒子に変え、状況に合わせた武器を創り出す。
「『
シエルの声と同時に粒子は槍の姿へと集束する。シエルはそれを持ち直し。
「せーのっ!」
ヘルハウンドに向けて投擲した。
その槍はまっすぐ飛んでいき、やがてヘルハウンドの胴体を貫いた。
「よし!当たった!」
なんとも力強い戦い方だ。とても伯爵家令嬢とは思えない。
「カイン、行くわよ!」
「あぁ!」
不意打ちが決まり、相手が同様している隙に茂みから飛び出す。
ヘルハウンド達も直ぐに臨戦態勢へと移行する。俺とシエルもそれぞれ武器を構える。
シエルの武器は片手の細剣。それと先程見せた光の武器を使いながら戦うスタイルだ。なんとも男心をくすぐる魔法を会得して羨ましい限りだ。
「あと4匹、各個撃破するぞシエル!」
「任せて!」
4匹のヘルハウンドは左右に2匹ずつ展開して俺とシエルに迫る。
俺とシエルも左右に別れ、ヘルハウンドの相手をする。
魔力で剣を覆い、耐久力と切れ味を強化するこの世界で近接武器を使う者ならこれも当然の技術になってくる。
先頭を走っていたヤツが俺へと飛び掛る。それを避け、奥のヤツに狙いを着ける。
ヤツが飛ぶ前にこちらから跳躍し、真上を取ってそのまま剣を下へと突き立て落下した。
魔力で強化した剣は抵抗なく、ヘルハウンドの胴体を貫いた。
そのまま剣を引き抜き、通り過ぎたヤツに目を向ける。するとこちらへ向かって来る最中だった。
俺は正面に剣を構え直して魔力を剣に纏わせる。
そして、ヘルハウンドは俺へ目掛けて真正面から飛び込んできた。
俺は構えた剣をそのまま振り下ろす。
その剣は手応えなく、ヘルハウンドの正面から刃を進ませた。そして、俺を通り過ぎた時にはヘルハウンドは縦方向に真っ二つになった。
自分の担当を終えてシエルの方へと視線を向けると
「ブイ!」
こちらへとピースサインをするシエルの姿があった。魔力の操作技術とイメージ力ならシエルは俺なんかよりよっぽど優秀だ。この程度の相手に遅れを取る訳もなく、俺達の試験は大金星に終わった。
「上手くいったね!」
そう言って、シエルは片手をあげる。
「あぁ、やったな」
俺もそう言って、シエルの挙げられた片手に自分の手を当てる。いわゆるハイタッチといったやつだ。
「さて、試験の内容的にもう少し討伐した方がいいよね?」
「そうだな、もう少し数を…」
───ぎゃああああっ!!
俺の声を遮るように人間の悲鳴が森に響いた。
「今の悲鳴って!?」
シエルは悲鳴が上がった方向に振り返る。そのまま走り出そうとするシエルの手を俺は掴む。
「待て!シエル!俺達は試験中の身だ、ここで無茶は…」
「だからって、ここで見捨てる訳にいかないでしょ!?」
俺の声を遮ってシエルは声を荒らげて言う。
「分かってる、誰も助けないなんて言ってない。ただ、行くにしても一つ約束してくれ。無理はしないって」
「うん、分かった。約束する」
俺の声にシエルは幾分か冷静さを取り戻した。
「よし、行くぞ。シエル!」
「うん!」
そして、俺のシエルは悲鳴が聞こえた方向へと走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます