第6話 冒険者という稼業
『
悪魔を召喚し、ソイツと勝負をする。だか、原初の存在、それも神と戦った化物を相手をする訳だからおいそれと外でやる訳にもいかない。最悪の場合、そこら一体が消し飛ぶかもしれない。
力を磨くと同時に場所の確保も必要になるといよいよ夜に家を抜け出して森を探索するだけでは足りなくなる。本格的に周囲の探索をし、場所の確保もしないと行けなくなる。
そのためには冒険者になってしまうのが手っ取り早い。
冒険者になれば公認で魔物を倒すことが出来るし、外にも出れる。あとは魔物を倒すことで資金も稼げる。コソコソとやる必要もなくなる、まさに一石三鳥な訳だ。
「ねぇ、カインってば聞いてるの?」
そう思案を巡らせているとウチに遊びに来ていたシエルの言葉で現実へと引き戻される。
「ん?あぁ、ごめん。何の話だっけ?」
「あ、やっぱり聞いてなかった」
「悪い、シエル」
シエルはもう!っと言って、話を続ける。
「だから、私達も来年から魔術学園に通う訳だし、先んじて実践的な訓練をしたいのよ。リストランデ家の者としてみっともない姿は見せらないしね」
なんとも真面目なことで。
シエルは貴族でない者や奴隷などにも分け隔てなく接するこの世界では珍いタイプの人種だ。
だからこそ、俺も彼女と関わるのが苦にはならない訳だが。
だが、別に貴族として誇りが無いわけではない。彼女は才能に恵まれていてそれに負けない程に努力もしている。
ついこの間も個性魔法を習得したばかりだ。
だったら、このシエルの情熱を少し利用させてもらうとしよう。
「なら、俺と一緒に冒険者としてギルドに登録しないか?俺も実践的な訓練は望むところだしさ」
「いいわね、それ!とっても面白そう!」
俺の提案に目をキラキラさせるシエル。
「いや、言い出した俺が言うのもなんだが。少しは不安にならいないのか?冒険者は魔物と戦うんだぞ?最悪、死ぬ場合もある」
「それは大丈夫よ、私とカインの実力ならここら辺の魔物に遅れを取ることはないし、それに...」
シエルは俺の目を見つめて笑顔で続きを話す。
「私が危なくなってもカインが守ってくれるでしょ?」
あぁ、俺はこの子には一生、勝てる気がしない。
★
俺とシエルの両親を説得することにはあまり時間は掛からなかった。
俺達の実力を加味して、OKを出してくれた。
ホント、話が早い親で助かった。
そんな訳で俺達は冒険者のギルドに来ていた。全ての街には冒険者のギルドがあり、ここで冒険者の登録や仕事の斡旋などを行っている。
また、ほとんどのギルドが酒場と併合しており、連日のように飲んだくれている冒険者もいる。
自由な働き方を求めるなら冒険者は一番の仕事だろう。
まぁ、常に死と隣り合わせというのも生きた心地がしなさそうではあるが。
「なんか少し緊張してきたね」
ギルドを前にしてシエルが俺にそう言ってきた。
「まぁ、俺とシエルなら問題ないだろ。さっさと済ませよう」
そう言って、俺はギルドのドアを開けて中へと入る。
中はやはりと言うべきか冒険者達の声で賑わっていた。酒を注文する者に自分の武勇伝を語る者。
良く言えば活気がある、悪くいえば騒がしい。だが、俺はこの空気が嫌いじゃない。なんとも異世界という感じがしてワクワクしてしまう。
俺とシエルは足を進め、受付のカウンターまで辿り着く。
「はい、いらっしゃいませ。まぁ、小さいお客さんだこと」
ギルドの受付をしている女性。年齢は二十代前半といったところだろう。なんとも明るい笑顔で俺達を出迎えてくれた。
「冒険者の登録をしに来ました」
「はい、ではこちらの用紙に必要事項をお書きください」
そう言って、俺とシエルに紙とペンを渡してくれる。
原則として冒険者になるのに年齢制限などはない。極端な話、生まれたばかりの赤ん坊でも冒険者になることは可能だ。
これから行われる試験に合格できるならの話だが。
紙を書き終え、受付の女性に渡す。女性はそれを一読し、説明を始めた。
「はい、記入に不備はありませんので試験の説明に移りますね。っと、まずは自己紹介から、私はここの受付を担当してるエマと言います。試験に合格したら色々と顔を合わせることになるからよろしくね、二人とも」
そう言って、受付のエマさんは俺達に挨拶をした。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします!」
俺とシエルはエマさんに挨拶を返す。
「二人のことは知ってるわ、公爵家のご令嬢とご子息。お似合いのお二人ね」
その言葉にシエルはボンっと顔を朱に染める。
「そんなエマさん、私とカインがお似合いなんて…」
「あらぁ、顔を赤くして可愛いわね。最近は男ばっかりだった。だから貴方達は目の保養になるわぁ」
エマさんはあら、ごめんなさいと言って話を修正した。
「さて、お喋りはこのくらいにして。試験の説明をするわね。まずは…」
エマさんが説明してくれた試験は至ってシンプルなものだった。
今から森へと入り、俺がこの前倒した魔物を指定の数を狩るか、定められた薬草を採取するかのどちらかだそうだ。
それが完了すれば俺達は晴れて冒険者になれる。
冒険者に必要なのは実力、なんとも俺好みの分かりやすい試験だ。
「試験の説明は以上ね、何か質問はある?」
「いや、俺は特に」
「私も大丈夫です!」
「じゃあ、頑張ってね!くれぐれも無理はしないように!」
そう言って、エマさんは俺達を送りだした。試験内容を聞いても特に問題があるとは思えない。だか、隣にいるシエルはやけに張り切っていた。
「よぉし、特訓の成果を見せてあげるわ!しっかり見ててよね、カイン!」
「張り切り過ぎて怪我するなよ、シエル」
「任せてよ、カインの分まで私が倒したあげる!」
「それだと俺が不合格になるからやめてくれ」
そんな他愛もない会話をしながら俺とシエルは森へと足を進めるのだった。
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