第3話 人外になりたい!

バトルものや特撮もので出てくるラスボスは大体が人間ではないのがセオリーだと思う。


RPGでもそうだろう。

最後の敵は魔王とか神とか絶対的な存在にされることが多い、俺がこの世界でラスボスになるとしてそれがただの人でした。みたいな感じだと個人的には冷めてしまう気がする。


「うーーん、どうしようか...」


自室で窓にうなだれながらそんなことを呟く。

俺は今年で12歳に成長し、剣術や魔術もそれなり扱えるようにはなったがラスボスの強さにはまだまだ及ばない。

人間をやめようと思ってから様々な書物を読み、実験を繰り返してきた。


実験1 魔物の肉を食ってみた

結果 単純に腹を壊した。


実験2 悪魔を召喚して契約

結果 特に何も起きず、俺の小遣いがカルト本へと消えた。


実験3 魔物の森を徘徊し、奇声を上げ続けた

結果 ただの変人


もはや狂気である。

周りの者達からしたら俺はおかしいのだろう。それでも、ずっと憧れてきた悪役になれる世界に転生し、それが出来る環境に身を置くことができている。

俺にとっては奇跡のような出来事なのだからこの機会を無駄にしたくはない。


だか、もうお手上げ状態だ。


そう考えているとドアをノックする音が聞こえ一人のメイドが入ってくる。


「失礼します、カイン様」


従者達からの俺の呼び方もいつの間にか坊っちゃまからカイン様へと変わった。正直、この歳で坊っちゃまは恥ずかしいからありがたいが。


「どうかした?」


「はい、シエル様がお越しです」


俺がそう尋ねるとメイドは来客を俺に知らせてくれる。なんとも間が良いのか悪いのか。


「分かった。すぐ行くよ」


俺の声を聞いて、メイドは一礼して俺の部屋から去っていった。


色々と思案しているが今はこれ以上悩んでいても成果は出なさそうなのでこの問題は一旦、置いておくとしよう。



玄関ホールに出るとすでにその人物はおり、俺のことを見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。


「カイン!遊びに来たわ!」


空色の美しい長髪、俺と同じ青色の瞳、とても整った端正な顔立ち。

同い年ながらも通りすがる者達が思わず振り返ってしまうような美貌をたずさえた少女。


『シエル=リストランデ』


俺の幼馴染にして同じ伯爵家令嬢である。


「いらっしゃい、シエル。今日も元気だね」


「当然!何事も元気が一番よ」


そう言ってシエルは笑顔を俺に向けてくる。いつもながら彼女の笑顔はとても心臓に悪い、身構えていないと照れて顔が赤くなりそうだ。


「それで、今日のご要件は何でしょうか?お嬢様」


「街に行きましょう。私、書店に行きたいの」


俺の悪ノリを軽々とスルーし、シエルはここに来た目的を話す。

街には露店や書店などあり、連日賑わっている。


「あぁ、もちろんいいよ。行こうか」


「やった!じゃあ、早速行きましょ」


そう言って、シエルは俺の手を引っ張って花のように綺麗な笑顔を向ける。

どうもこの笑顔には弱い、彼女が笑うところを見るともっとこの笑顔を見たい、守りたいと考えて決意がブレそうになる。

願わくば、俺がラスボスになっても彼女は戦わないようにしたいものだ。

いや、でも幼馴染と戦うのも定番の展開で、ある意味おいしいかもしれないな。

そんなことを考えながら俺はシエルに手を握られながら彼女と共に街へと向かう。




「カインはもうを使えるのよね?私もあとちょっとで使えそうなんだけどな〜」


並んで街を歩いているとシエルがそんなことを聞いてきた。


『魔法』

この言葉を聞くと胸が高鳴るのはやっぱり男のサガだと思う。

それはさておき、この世界の魔法は大きく分けて二つに分類される。


一つ目は『基礎魔法』

これは魔力を持っている人間であれば訓練すれば誰でも扱えるようになるものだ。魔法の球を飛ばして攻撃したり、魔力を自身の身体に巡らせ身体能力を向上させたりと用途は様々だ。


もう一つは『個性魔法』

魔力には性質があり、その種類は人によって千差万別。

魔法を学ぶ者はその自分の魔力の性質を理解、発現し、個性魔法として自らの力としていく。この魔法は基礎魔法とは比べものにはならない程強力で戦局を大きく変える力を持っている物もある。まぁ、それも本人の研鑽と才能次第だが。


「焦らなくて大丈夫さ、俺が早すぎるんだ。普通なら魔術学園で習い、会得するものさ。俺みたいに独学で個性魔法が使える方が異常なんだよ」


『魔術学園』は文字通り魔術を学ぶ場所だ。俺とシエルも来年から通うことになる。

魔力を宿す者なら誰でも受験資格があり、ここを卒業したものは優秀な魔法使いと認められ、将来安泰が約束される。


「それでも、私はカインの隣を歩きたい。だから、少しでもカインに近づきたいの」


「ありがとう、シエル」


そう言って、俺はシエルの髪を撫でる。


「ちょっと!子供扱いはやめてよ」


そうは言ってもシエルも満更でもなさそうなところがまた可愛い。


「子供だろ?俺もシエルも」


「まぁ、そうなんだけど...。とにかく、私も直ぐに使えるようになるからうっかり追い越されないように気をつけてね!ほら、行こ!」


頭を撫でいた俺の手を取って俺とシエルは目的地に走りだした。


この時、俺は思いもしなかった。この他愛もない時間で俺のラスボスへの野望を大きく進める禁忌の知識を手に入れることになるとは...。

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