第2話 ラスボスの条件

この世界の家族と食事をするようになってから一週間が経ち、本日は夕食。


俺と俺の両親の三人で有り余るテーブルで食事をする。最初はこの広さのテーブルに慣れずマナーなどよく知らない身であたふたしたが体が覚えていたらしくマナーは自然と身についた。


「カインも五歳になったことだし、やりたいことの一つくらい見つかったのではないか?」


そう俺に声を発したのは俺の父、レイン=ダーベル。

俺と同じ黒い髪を後ろで束ねたイケおじだ。

今では前線から退いているがかつては最前線で魔物と戦い数々の功績を打ち立てたこの国の英雄だ。


「もう、あなたったら。そんなに急かしたらカインが戸惑ってしまうわ。ね、カイン」


父の言葉に異を唱える女性。美しい栗色の長髪と翡翠の瞳を持つ、息子の俺から見ても絶世の美女。

彼女が俺の母親で父レインの妻。タリヤ=ダーベル。辺境の貴族であった母が魔物に襲われた時に父が助けてそこから恋に発展したらしい。

なんともロマンチックなことで。


「大丈夫ですよ、母上。実はやりたいことはもう決まっております」


俺は母タリヤ向けて笑顔を向けながら答えた。

そして、俺は父親を真っ直ぐ見て言葉を発する。


「父上、私に剣と魔法を教えて下さい。武勇名高い父上の息子に恥じぬように私も強くなりたいと思います」


俺が思う最高のラスボスの条件は色々とあるが大前提として強さは何よりも優先されると俺は考えている。

弱いラスボスなんて冗談じゃない。

この世界の誰よりも強くなり、この世界のラスボスとして君臨する。そして、いずれ現れるかもしれない俺を倒す英雄と激闘を繰り広げて最後は倒される。なんと素晴らしい展開だ。


そのためには誰もが絶望するような強さが必要になる。さいわいことにこの世界での俺の父はかつて『黒風くろかぜ』の二つ名が王国から与えらるほどの強さを誇っていた。

その父から教えを受ければ多くのことを学べるに違いない。


「なるほど、剣と魔法か...。教えるのは構わない。だが、その前に一つ聞く。カイン、強さを求めて何をする気だ?目的の無い力は危険だ。その強さはいずれ自らを滅ぼす。私はお前にそうなって欲しくない。私が納得できる理由を話してみろ」


さすがに「この世界のラスボスになりたいからデス☆」なんてバカ正直に答える訳にはいかない。ここは一芝居うつとしよう。


「まだ、具体的なことは言えません。だけど、私は父上や母上、身近な人を守りたいのです。この手が届く範囲の人達を守るために力が欲しいのです!」


そう言い、父の顔を見つめる。


「フ、そうか。タリヤ喜べ、俺達の息子は随分と大物になりそうだ」


「ええ、これが子の成長なのね...」


俺の演技に父は納得し、母は感極まって泣いてしまった。周りの執事やメイド達からもグスっとか聞こえているし、どうやら俺の三文芝居も中々に捨てたものではないらしい。

だが、いずれ俺は人類に反旗を翻す男。あまり周囲に深い入りすれば後が辛くなってしまう。

適度な距離感を保たねばならない。最悪の場合、両親をこの手にかける可能性もゼロではないのだから...。



その日以降から俺の教育が始まった。

剣は父に教わり、魔法は長年うちに仕えてきた老年の執事から教わった。


そして、数年の時が経ち、力を付けた俺はある決意をする。


ラスボスになるために俺は『人間』をやめることにした。

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