「カエサル殿下、私はいつまであなたの婚約者にいないといけないのですか?」

「ソフィア嬢、顔が怖いよ」

「カエサル殿下?」

「わかってるよ・・俺だってあの娘と婚約したいよ・・」


ソフィアにキッと睨まれたカエサルははぁ、とため息と共にそう言葉を漏らした。

ソフィアは確かにカエサル王太子殿下の婚約者として認知されているものの、実際はそんな事実は欠片も存在しなかった。


ソフィア・アデカルトは、部隊長のリューク・オルガストに思いを寄せており、カエサル王太子殿下は婚約者候補の内の一人、ディアーナ伯爵令嬢にそれぞれ思いを寄せていた。

だからこそ、この二人が結婚するなどあり得ないことだが、周りはその事実を知らない。


「リューク様、絶対勘違いしてますわ・・」と、高級な紅茶を口に含みながら肩を落としてソフィアは呟いてみせる。

あくまで婚約者候補の一人であるソフィアは、仕方がなく、そう仕方なく、カエサルと踊ったり話をしたりをしていて、彼女だけを特別扱いしておらず、婚約者候補の4人の女性とダンスをしている。

だが、彼女の思い人はタイミング悪く、ソフィアとカエサルが踊っている場面を見ることが多いのだ。


「リューク?ああ、部隊長のか?」

「ええ・・」

「接点なんてあったっけ?」


おや?と首を傾げてカエサルがそう問い掛ける。

確かリューク・オルガストは、男爵家の出身でオルガスト家の次男、だったな、と頭の中で騎士の姿を思い浮かべた。


「接点なんてないですわ・・だって彼は騎士に就いているし、長男じゃないから滅多に夜会に顔出すこともないもの。初めて公の場で見た時に、婚約者候補って言われたのよ?!もう!あんまりだわ!」

「まぁまぁ、ソフィア。落ち着いてよ」


ぷんぷんと怒るソフィアを宥める。

最初は王太子殿下の婚約者候補の一人としての距離感を持っていたが、お互いに好いた相手がいることを知り、愚痴を言い合う仲になっていった。


ふう、とため息をついて一口紅茶を飲んで気を落ち着かせたソフィアはぽつり、と思いを口にした。


「一目惚れをしたの・・」

「うん?彼にかい?」

「ええ・・騎士団で剣術を競うイベントがあったでしょう?」

「ああ、確か2年、いや3年前か?」

「2年と20日前よ」

「お前、そんなことまで覚えてるのかよ」

「運命の日だから」


ふふっ、と得意げに笑うソフィアに対し、少しだけ引いた表情をしてみせるカエサル。


「一目惚れってこのことね、って思ったのを今でも覚えてる・・名前がわかっていても騎士だし、夜会にも全然出席しないし、まさか手をこまねいている間に婚約者候補にさせられるなんて想定外だわ」

「いや、一応俺王太子だけど、させられるって・・」

「あなたがグズグズしてるからよ。婚約者候補になったタイミングで彼女に告白しないわけよ」

「う・・・いや、いきなりそんなこと言える訳ないだろ」

「ヘタレ」

「うううううるさい」


ソフィアは内心このカエサルに対し、イライラした感情を持っていた。

そもそも、カエサルが婚約者候補となった彼女に愛を告げていたら、こんなややこしいことになっていなかったのに、と恨めしい気持ちを抱きながら、じーと見つめる。


「わかってるよ・・勇気があればなぁ・・」

「他力本願過ぎよ」

「わかってる」


はぁ、と二人はため息をついて、その日の相談は終わった。

だがまさか、2人がこうして手をこまねいている間に事態は大きく、2人が思う最悪な方向へと展開することになってしまった。

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