100話、ご飯のお供食べ比べ選手権

「私、メリーさん。今、色々な物で食べ比べをしようとしているの」


 逸る気持ちに負けてしまい、十一時三十分に電話をしてしまったので、当然ハルは出てくれず。留守電サービスセンターに託して、通話を切った携帯電話をしまい込んだ。


「さてと! 何から食べようかしらぁ~」


 用意した料理は、この前作った安上がりの野菜炒め。しかし、野菜炒めは今日の主役じゃない。今回は、ちょっと試したい事があり、ご飯のお供を色々買ってきた。

 一つ目、海苔の佃煮で代名詞とも言える『ごはんです!』。二つ目、ふりかけの代表として『たまのり』。三つ目、キュウリを醤油漬けにした『きゅうりのリューちゃん』。


 『ごはんです!』、『たまのり』、『きゅうりのリューちゃん』。この三つは、テレビのCMでもよく観る物だし、ご飯と絶対に合うはずよ。

 食べる順番は、どうしようかしら? 一番初めに食べた物が気に入ってしまい、そのままご飯を完食してしまう可能性がある。

 まあ、ご飯は三合分あるので、三回までおかわりが可能だ。無くなってしまった時は、私が新たに炊き直せばいい。よし、だったら気兼ねなく三合分完食が出来るわね。

 ならまずは、一番最初にカゴへ入れた『きゅうりのリューちゃん』から食べてみよっと。


「それじゃあ、いただきます」


 期待を込めつつ食事の挨拶をし、右手に箸、左手にお椀を持つ。リューちゃんの見た目は、なんだかお新香みたいだ。

 醤油が芯まで染み込んだ、小さめのキュウリって所かしら。細長い物もあるけど、これはショウガね。原材料名を先に確認していたから、難なく正体が分かった。


「んっ! 意外と、しっかりした食感があるわね」


 リューちゃんを一つだけ箸で取り、噛んでみれば。『パリッ』という気持ちのいい音が鳴り、中に染み込んでいたこうばしいかおりが立つ醤油の風味が、口の中にぶわっと広がっていった。

 しかし、醤油だけじゃない。ポリポリと嚙み進めていけば、醤油のコクに奥深さを与える、まろやかな塩味も顔を覗かせてきた。

 そして、最後にほんのり感じる、ショウガの爽やかな辛味。

 これらが全て、ご飯と抜群に合う! 想像していたより味が濃いので、リューちゃん一つでご飯が沢山頬張れるわ。


「う~ん、おいしい。ご飯の横に置いてあったら、嬉しくなる一品だわ。次は、たまのりにしようかしら」


 リューちゃんを、もう一つ食べてから箸を置き。たまのりの封を開け、ご飯に軽く振りかけていく。やはり目立つのは、パッケージの絵にもある、粒々とした黄色い物。

 時点で、名前にもなっている刻み海苔。あとは、緑色をした棒状らしき物。この緑の棒状は、一体なんなんだろう? 色合い的に、やはり抹茶かしら?

 正体は後で確認するとして、この緑が色鮮やかさを豊かにしてくれている。配色は見事ね。なんだか見ていて胸が躍ってくるわ。


「うんっ。匂いはそうでもなかったけど、味はちゃんと卵っぽい味がするわ」


 たまのりの食感は、早くもご飯の水分を吸ってしまったのか。しっとりとしていて、ご飯と絶妙にマッチしている。

 匂いの方は、なんとなく甘さが先行していたのに対し。味は、コクを含んだ滋味深い卵の味を優しく感じるわ。もちろん、刻み海苔の風味も負けていない。


 この二つだけでも、ご飯が十分かき込めるものの。合間合間にぽっと湧く、ご飯の甘さと合う旨味を含んだ曲者の塩味が居て、ご飯を運ぶ箸が余計に止まらなくなる。

 塩味の正体は、たぶん緑色のやつね。そこまで強く主張してこないけど、それがまた良い。

 ちょっと塩味が欲しくなってきたなっていうタイミングで出てきてくれるから、思わず嬉しくなっちゃうのよ。


「いいわね、たまのり。あとでハルにも、食べさせみよっと。さて、そろそろごはんです! の番ね」


 『ごはんです!』の瓶の蓋を開け、黒くてトロリとした中身をすくい、ご飯の上に乗せる。

 見た目は、とろとろになった海苔っていう感じで、匂いは甘さが際立っている。

 第一印象は、ご飯と合うのか分からないわね。まあ、食べれば分かる事よ。下の方からご飯を大量にすくって、いざ!


「わ、わっ! すごい! ご飯とものすごく合うじゃない!」


 見た目を裏切らない、なんだかクセになるトロリとした食感。ご飯と混ざり合う前に、口の中にぶわっと満遍なく広がる、甘じょっぱさと旨味がギュッと詰まった、かつお華やぐ豊かな風味。

 噛めば噛むだけ風味がグンと増していくも、メインであるご飯の芳醇な甘さをより前へ押し出し、互いに調和しながら口の中で完成されていく。

 どうしよう。まだ一口目なのに、ご飯がどんどん進んでいくわ。もう駄目だ。一回食べてしまったら、ご飯が無くなるまで止まらない。

 それ程までに、『ごはんです!』がおいしいのよ。これさえあれば、たとえおかずが無くても、大盛りのご飯をペロリと完食出来てしまうわ!


「お、おいひぃ~っ……。これは、リピートするしかないわね。でも、あったらある分だけ食べてしまいそうだし……。量が制限されてる、スティックタイプにしておこうかしら」


 そう。私が買ったのは、スタンダードな瓶なのだけれども。一度食べ出したら、中身が無くなるまでご飯を食べてしまう可能性がある。

 なので私は、小分けされたスティックタイプを買った方がいいかもしれない。……いや、たぶん意味がないわね。どうせ我慢が出来ず、二本目に手を出すのがオチだわ。


「ふうっ、どれも最高においしいじゃない。野菜炒め、作らなくてもよかったかも」


 結局、野菜炒めは手付かず状態のまま、一杯目のご飯を完食してしまった。流石は、ご飯のお供ね。食卓に並んでも、主食級を張れるおいしさだった。

 『ごはんです!』、『たまのり』、『きゅうりのリューちゃん』は、まだまだ沢山ある。ハルにも食べてもらいたいから、残しておかないと。

 ……ちゃんと残しておいてられるかしら? 私の事だし、気が付いたら全部完食しているかもしれないわね。そうなった時は、また買いに行かないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る