99話、真面目に感想を述べる都市伝説
「へぇ~。タブレットで映画が観れるのね」
「そうそう。この『アマズンプライム』ってサイトで検索すれば、色んな映画やアニメ、ドラマなんかが観れるんだ」
私もご用達の『アマズンプライム』。アニメもたまに観るけど、ほとんどは映画を観る為に活用している。月額五百円で見放題っていうのが、魅力的なんだよね。
「ふ~ん、いいなぁ。このサイトって、私も観ちゃっていいの?」
「うん、好きに観ちゃっていいよ」
「あらっ、いいのね。前から『孤独なりのグルメ』っていうドラマを、観てみたいって思ってたのよ」
『孤独なりのグルメ』か。確か、登場人物が様々な料理をおいしく食べるドラマだったはず。それ系が大好きなメリーさんにとっては、打って付けのドラマだな。
「えっと……? ここにカーソルを合わせて、リンクっと。あ、ハル。リンクって、続編がいくつかあるみたいよ」
「本当だ、知らなかったや。完結編のゼロっていうのもあるじゃん」
となるとだ。もし、メリーさんが『リンク』の続きを気になってしまった場合。最低でも、あとホラー映画を二、三回観なければならなくなる。
それは流石に、ご勘弁願いたいので。メリーさんには悪いけど、平日に一人で観てもらおうかな。まあ、一緒に観ようと誘われた時は、覚悟を決めるしかないけれども。
「せっかくだし、後で観てみようかしら。で、今日は最初の『リンク』でいいのよね?」
「そうだね。じゃあ早速、再生を押してくだせえ」
「分かったわ」
メリーさんが再生を押し、私がフルスクリーンに設定した。充電良し、音量良し、画面の明るさ良し、ポップコーンとコーラ良しっと。
映画は始まったばかりなので、ここでポップコーンを一つまみ。うん! しっかりシェイクしたから、塩が全体に満遍なく行き届いていて、また口に運びたくなるようなちょうどいい塩味を感じる。
作ったばかりなので、まろやかなバターのコクに香ばしさもプラスされているや。ヤバい、ポップコーンを掴む手が止まらないぞ。
映画館で食べると、下手したら広告をやっている時に食べ終わっちゃうんだよな。
あれ、途中で買いに行くのも気が引けるし、やってしまったという後悔をしながら、映画を観る羽目になる。
メリーさんも、器用にポップコーンを食べているじゃん。顔はちゃんとタブレットに向いているけど、ノールックでポップコーンを掴み、口に運んでいる。
量は……。ああ、まずい。もう半分以上減っているや。この調子だと、メリーさんも映画館で後悔するタイプになってしまう。
映画は何事も無く進み、貞美の登場シーンに突入。この場面、なんとも不気味な雰囲気を醸し出しているから、今見直しても、ちゃんと怖い。
肝心のメリーさんは、割と真剣な眼差しでコーラを飲んでいる。しかし、有名な目のドアップシーンに入るや否や、したり顔をしながら鼻で笑った。
内心、『ああ、この程度か』って思っていそうな余裕の表情よ。かなり怖いシーンなのに、本物さんサイドの心を動かすには、程遠い演出なのかな?
ああ、すごい。一人で観るには勇気がいる場面でも、目を離さずどっしり構えている。これが、本物のあるべき姿。妖艶な笑みまで浮かべちゃって、まあ。
と思いきや、急に悲壮感が漂う表情になったぞ。場面は、貞美から逃れるべく、呪いを解く為に仲間と考察をしている所だっていうのに。
「ねえ、ハル?」
「ん、どうしたの?」
「ポップコーンが余ってたら、少し分けて欲しいんだけども」
なるほど? ポップコーンを食べ終わっちゃったから、そんな悲しい表情になったんだ。だけど、お生憎様でして……。
「ごめん、開始十分で完食しちゃった」
「え、嘘っ? あ、本当だ……」
画面から顔を離したメリーさんの表情は、早いと言わんばかりの驚愕顔。ホラー映画にじゃなくて、そっちで驚くんだ。
「あんた、いくらなんでも早すぎじゃない?」
「いやさぁ。美味し過ぎて、手が止まらなかったんだよね。お陰で、口が寂しいのなんの」
「分からなくはないけど……。まあ、無いなら仕方ないわね」
そう諦めてくれたメリーさんが、再び画面に顔を合わせた。場面は、そろそろ佳境を迎える。今度観る時は、ポップコーンの量を倍にした方が良さそうかな。
しかし、それでも私は二十分で食べ終わってしまう。こうなったら、三倍用意せざるを得ない。よし、いつか業務用のポップコーンを買っておこう。
そして、体感的に約二十分後。無事、エンディングが始まった。怖いっちゃあ怖かったけど、やはり二人で観ると、それなりに安心感を持てていた気がする。
メリーさんは、映画の余韻に浸っているようで。残っていたコーラを飲み干し、満足気に一息ついている。さあ、ここからは、映画の感想でも語らい合おうじゃないの。
「いやぁ~、怖かった怖かった。メリーさん、映画はどうだった?」
「そうねぇ……。普段は貞美側でやってるから、違う観点で怯えてる人間を見れて面白かったわ。来る時にはちゃんと来て。時には、少し溜めてフェイントをしたり、弱り果てた心に着実と恐怖を植え付けていく演出は、まあまあよかったと思うわ。でも、全体的にシュールに感じたのよね」
「へえ、シュール。ホラー映画を観てたら、あまり辿り着かない感想だね。なんで、そう思ったの?」
「ほら。ほとんどのシーンで、BGMやサウンドエフェクトが使われてたでしょ? あれって、襲ってる人間にではなく、視聴者側の恐怖を煽る目的で使ってる訳じゃない? 登場人物よりも、視聴者を驚かせたいという魂胆が見え見えだったから、そこにずっと違和感を覚えてたのよね」
「はあ、なるほど」
これが、本物さんサイドの感想。確かに、言われてみればそうだ。本来貞美は、視聴者である私達に眼中は無い。呪いを掛けた目先の人を襲うべくして、現れている。
BGMやサウンドエフェクトも、そう。私の背後に初めてメリーさんが立った時は、そんな音なんて一切鳴っていない。環境音を抜かせば、ちゃんとした無音だった。
あの無音こそ、登場人物が味わっている本来の状態なんだ。より高いリアリティを追求するなら、余計な演出って言っても過言じゃない。
「視点だって、場面によって違ってたでしょ? あれ、一点に集中出来なくなるから、どうしても恐怖心が散漫しちゃうのよ。貞美がじわじわ迫って来てる所は、襲われてる人物目線で見た方が、ずっと怖くなるはずなのに。三人称視点だったから、勿体ないと思ったわ。もし、私がホラー映画を作るとしたらVRを採用して、視点は始めから終わりまで、各登場人物の一人称視点を使うわね」
「うっわ……。絶対怖いじゃん、そのホラー映画」
「怖いも何も。観てる自分も身の危険を感じないと、意味がないじゃない。襲われる側に回らないと、真の恐怖なんて到底味わえないわよ?」
「ああ~、そっか。視聴者って、被害に遭わない安全な場所から観てるもんね。見方が違うと、ここまで感じる恐怖も違ってくるんだなぁ」
実際に体験する恐怖と、安全な場所から見ているだけの恐怖。怖さの違いは、火を見るより明らか。実際に体験する方が、断然怖い。
体験する恐怖か。例を挙げるなら、遊園地とかにある、おばけ屋敷とかかな? それに、命の危険を感じる恐怖をプラスすればだ。うん、めちゃくちゃ怖くなる。入場するのに躊躇っちゃうや。
「私が感じたのは、これぐらいかしら。エンターテイメントとして観るなら、楽しかったわ。あと、ハル。コーラをおかわりしてもいいかしら?」
「いいよー。一回台所に行くから、持ってきてあげようか?」
「じゃあ、お願いするわ。それと、『孤独なりのグルメ』を観てもいいかしら?」
「そういえば、観たいって言ってたもんね。いいよ、ゆっくり観てな」
「そう、ありがとう」
メリーさんってば、嬉しそうに微笑んでいるじゃないの。やはり、料理が沢山出てくるドラマには勝てないか。
どうしようかな。私も久々に観たくなってきたし、一緒に観ちゃおっと。
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