自衛隊サンバの告白
カオ達が
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ある時、サンちゃんが遊びにきた。
「カオさん、これ独り言だから聞き流して…」
そう言ってからボソボソと語り始めた。いつもの陽気なサンバではない。
「俺さ、地球に戻れた時は泣いたよ、やっと戻れた、生きて戻れたってさ
でもその後災害が始まって俺らあっという間に
家族とか友人の安否を確認する時間も取らせてもらえなくて
でもそう言う仕事だから、有事の際は仕方がないって思ってた
隕石とか地震とか津波がおさまって、シェルターの上がそれほど被害がなかったからって直ぐに救助活動が始まるのかと思ったらさ、
違うんだよ
シェルター内の偉い人達の警護とかだったんだ
団ごとにさ、ただもう廊下や扉の前で立ってるだけの仕事
日本中に助けを求めている人がいる大災害なのにさ、
他の団が救助に出てるならいいんだよ?
でもさ、あちこちの団から、何かおかしくないかって声があがり始めたんだ
俺たち、ハマヤンやフジと話して、この力を有効に使えないかって、
そんでその時、あ、俺とフジは下っ端だけどハマヤンは俺らの上で士長だったんで、ハマヤンに、すぐ上の曹長に話してもらったんだ
けどまぁコイツが頭硬いと言うか部下の話は聞かないっつーか、俺ら懲罰房、あ、シェルターには懲罰房なかったから狭い物置に閉じ込められた
最初3日は水しかもらえなかった
でも食いもんは普段から食事に出たやつを全部は食わずに適当にアイテムボックスに入れて取っておいたから、困んなかった
あっちでの逃げ回りが役に立ったな。食いもん入手したら即ボックス収納。異世界じゃ次いつ食えるかわかんなかったからな
で、別の団の曹長が手を回してくれて俺ら数日で出られたけどさ
その頃火山灰がこっちに流れてきて、今度は地上での灰処理へ回された
金持ちのドアマンじゃなくなってホッとした
だってアイツらどうせ部屋から出てこないんだぜ
用がある都度俺らが中へ呼ばれるんだけど、シェルターかよ、ってくらい豪華な部屋でさ
地上で死んでいってる国民を放って、来るかどうかも不明な敵からコイツら守るための警備?
そんな豪華な部屋でもストレスが溜まるのか、そいつら毎日、不平不満ばかりで、他の隊員で八つ当たりに殴られたり蹴られたりもあったみたいだ
ドア前に立ってるだけの警備なのに、怪我する隊員が増えるんだ
最近は曹長より上でも意見が割れてきているらしい
「このままシェルターで政府関係者や財閥や企業の偉い奴を守り、地上が安全になるまで待つのか」
「シェルター内の警護は必要最低限にして地上へ救助に出るべき」
「若いもんは自由にしてやってはどうか」
「ここを死守すべきだ」
下も下で揉めている
「除隊する自由もないのか」
「こんな時だからこそ我慢すべき」
「有事に動いてこその自衛隊では」
「自分だって人間だ、家族に会いたい」
「守る人間が選別されているのはおかしい」
俺もさぁ、シェルター抜けようかってフジらと何度も話してるんだけど、カオるんに言われてからちょっと変わった」
サンちゃんの語りに耳を傾けていたがそこで口を挟んだ。
「俺? 何か言ったっけ? いつの事?」
「ほら、曹長に異世界戻りの事を話してアイテムボックスがある事も打ち明けた後、俺ら偉い奴の資産の収納にこき使われてただろ?
そりゃ、自衛隊の物資とか腐りそうな食糧とかさ、そう言うのは収納してもいいんだよ
でもさ、そのうち金持ちらの美術品やら宝石やら何やらを収納させられて、カオさんに愚痴っただろ
あん時カオさんに言われた
『いいんじゃない?壺でも絵でも宝石でも収納してやれば。てかさぁ、どんどん収納してやれよ。だって持ち主死んだらこっちのもんじゃん。金持ちのジジイなんて直ぐ死ぬよ? 良い物持ったまま死なれるより、綺麗な状態で保管して頂戴しておけば?』
で、そん時、俺言ったんだよ。絵とか壺なんて興味ないし俺は要らないってさ
『だからさ、強欲ジジイの個人の持ち物を保管している、と思うと腹が立つけど、日本国民の財産を預かってると思うと、別にイラつかないんじゃないか? 強欲爺さんが金貯めて良いもん買ってくれてありがとねー、はいはい、俺が保管しますよー。返すかわからんけどね、くらいに思っておけば?』
あれで、目から鱗がボロンボロン落ちて、金持ちの財産収納が楽しくなった。
でもさあ、その後一向に民間人救出の話出ないし、あのシェルターだって入れようと思えば今の百倍は避難民を受け入れられるのにさ
わかってる、百倍程度じゃ入りきらないのも、食糧が直ぐに不足するのもわかってるんよ
でもさぁ、リアルステータスでアイテムボックス持ちが何人か出たじゃん?
俺らもっと色々出来ると思うんだ。
俺らをもっと上手く仕切ってくれる人が居れば、と思うんだけど、今はまだ古い常識としきたりにがんじがらめなんだよ
ハマヤンもフジも我慢してる
でも俺、いつまで我慢続くかなぁ。ここ出てカオさんとこ行きてぇ
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
サンバは身体が裏返しになるんじゃないかってくらい、息を吐き出した。
うんうんうん、溜まってるの全部吐き出して行け。
俺に出来る事、あるだろうか。
いや、自衛隊のために出来る事は無いだろうが。だが、サンバ達のために出来る事があったら動こう。
そう、心に誓った。
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