第14話 ニィト ~村の生活と年下の友人たち~5
「あらケィヤ、今日はかわいいのを連れてるわね」
「うふふ、そうでしょう?」
「リュウ、トウリがいないあいだ、何か困ったことがあれば言うんだよ」
「はい!ありがとう」
先客の女性たちと顔見知りであるケィヤとリュウは、声掛け掛けられ、会話をしながら進んでいく。
俺はさっきの緊張を引き摺ってはいないものの、見知らぬ妙齢(と言っておこう)の女性たちに囲まれて、とても居心地が悪い。
程なくして、給水所に着いた。
山側の村の
送水樋は櫓の上に掛けられ、かなり高い位置を走ってきており、地上の埃が入ることや誰かが誤って異物を入れてしまうことは無いように見える。
頭上の樋を追っていくと、大きな桶の上部に繋がっていた。桶の下部に設けられた水の出口からはかなりの水量が流れ出ていて、近づくと涼しく感じるほどだ。
(蒸気機関車の給水塔みたいだな)
思わず前世で見たクラシカルな映画、西部劇の一シーンを思い出す。
「さ、手を洗いましょうね」
ケィヤに倣って、流水で手を洗う。驚くほど冷たく、澄んだ水だった。
ふと見上げれば、平地の陽気など我関せずと言わんばかりに、厚く白化粧をした山がそびえていた。
冷たさを我慢し、手のひらだけでなく手の甲に手首、肘付近までを丁寧に洗ってゆく。
「次はこれね」
ケィヤが差し出す灰色の粉を、言われた通り手にまぶしてこする。手首をこすったときに、ヌルっとした感触があった。
(木灰か…?)
アルカリによる消毒らしい。
「あんまりたくさん付けちゃだめよ。洗い終わったらちゃんと流すこと。そうしないと手がツルツルになっちゃうからね」
「はーい」
ケィヤの言葉に、リュウが応じる。アルカリの影響までちゃんと理解していて、それを後に続く子らに伝えていく習慣があるのだ。
ルールといい消毒といい、驚くほどちゃんとしている。俺はこの世界に対する認識を、また一つ改めた。
手を洗って、炊事場へ。
ケィヤとリュウは勝手知ったる様子で自分のポジションを確保したが、俺は所在無げにぼっ立ちするしかない。仕方ないだろう?初めての場所だし女性ばかりだし何かしようにも何をすればよいか分からないし初めて会う人が多すぎるし!
…いかん、若干取り乱してしまった。
まあ、見ているだけでも楽しい。
手慣れた様子で食材をどんどん加工している女性たちは頼もしくもあるし、気の置けない同志ならではのチームワークは見事だ。刀工の規則正しいリズムに、薪が爆ぜる音は一流のパーカッションと遜色がない。
前世でも、料理番組や料理漫画は一定の人気があったし、料理の様子を客に見せることが売りの割烹や鉄板焼きは言うに及ばず料理系動画配信者なんて職業が成り立っているくらいだった。
一定以上の練度やパフォーマンスがあれば、何事もショーになり得るのだ。
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