―43― 少女

 オレは華山ハナを探そうと走り回っていた。

 すると、巨大な魔法陣な上空に浮かび上がったので、その場所に慌てて来たわけだが。

 これはどういう状況なんだ……?

 華山ハナと白髪の、その上服が血まみれの少女が対峙している。

 地面にはいくつもの穴が開いていて、さっきまでここで激しい戦闘あったことを物語っていた。

 華山っててっきり無力だと思っていたが、これはいったいどういうことだろうか? いや、華山が大嘘つきなのは鑑定スキルが以前教えくれたので、納得できないこともないが。


 それよりも華山ハナと対峙している少女に目がいく。

 白い髪に白い肌。血まみれになったワンピースを身につけている。人形のようにかわいらしい少女だ。初めて会うはずなのに、懐かしい感じがするのはきっと気のせい。こんな美少女に一度でも会ったことがあるなら忘れるはずがない。

 血まみれの少女はオレから目をそらすように立っている。なにかやましいことであるのだろうか?


「それで、その子はいったい……?」


「んー、私もよくわかってないけど、確か、かん……むぐぅううう」


 華山がなにかを言いかけようとして、血まみれの少女がダッシュで華山のもとに飛び込んで口を塞いだ。

 かん、って言いかけたような気がするが、いったいなんて言うつもりだったんだ? まったく見当がつかない。


「ちょっとぉおおおお! 息ができないんだけどっっ!!」


 華山は必死に少女の手を振りほどこうとしている。まるで仲の良い姉妹がじゃれ合っているようにも見える。


「あ、あの……っ、い、いつもお世話になっています……」


 血まみれの少女が華山から離れてこっちにやってくると、ぎこちない態度で挨拶をしてきた。

 いつもお世話になっていますだと? オレこの子とどこかで会ったことあったか?


「あの、オレたちってどこかで会ったのか?」


「えっと、そ、それはですね……え、えっと……ひん」


 少女は恥ずかしがっているのか俯きつつ必死に言葉を絞り出そうとしているかと思えば、最終的に泣きべそをかいて黙ってしまった。

 えっと、少女がいったいなにをそんなに緊張しているのかわからん。


『ご主人様、すこしよろしいでしょうか?』


(お、おう、鑑定スキル。突然どうしたんだ? さっき話しかけたとき反応なかったのに)


 この場には他にも人間がいるので、声を出さずに心の中だけで鑑定スキルと会話する。


『そうでしたか? 気がつきませんでした。それよりご主人様に急いでお伝えしたいことが』


 気がつかないってどういうことだよ、と思うが、今はそれどころではないらしい。鑑定スキルの声がどこか焦ってるように聞こえる。


『上空の魔法陣は華山ハナによって設置された魔法陣です。あの魔法陣はユニークモンスターをこの場に召喚するものです。このまま放置すると、ユニークモンスターが町を暴れることになります』


(ユニークモンスターだと? けっこうまずくないか?)


『はい、非常にまずいです。ユニークモンスターが町中で暴れた場合、百人単位の市民が殺害されることになるでしょう。ですので、なにがなんでもあの魔法陣を破壊する必要があります』


 なぜ、そのような事態になったのかまったく理解できないが、ともかくなんとしてでもとめる必要がありそうだ。


(おい、どうすればとめることができるんだ?)


『華山ハナを殺害してください』


 は……?

 反射的に華山のほうを見る。すると、彼女は今にも鼻歌でもしそうな笑みを浮かべてこっちを見ている。

 まるでこれからユニークモンスターを召喚して町を混乱に貶めようと企んでいる者の表情とは思えなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る