―38― 自慢げ
華山ハナが大嘘つき。
そう聞いて真っ先に思い出すのは、彩雲堂姉妹のことだった。彼女たちは中二病全開の設定をペラペラと喋っては鑑定スキルに嘘つきだとバラされていた。
ただし、そのときはオレ自身が彩雲堂姉妹のことを疑っていたので、鑑定結果を聞くまでももなかったんだけど。
けれど、今回に限っては華山ハナをまったく疑ってなかっただけに、衝撃が大きい。
「嘘って、具体的になにが嘘なんだ?」
オレは他の誰にも聞こえない程度の小声で鑑定スキルに尋ねる。
『申し訳ございませんが、ワタクシでは嘘ついているか否かまでしか判別不可能です』
「……そうか」
とはいえ、それでも鑑定スキルの鑑定はありがたい。
「ねぇ、カナタ。だいじょうぶ? 顔色悪いけど」
ふと、華山がオレのことを見ていた。
もしかしたら、深刻そうな表情をしているのが見られてしまったのかもしれない。
「あぁ、大丈夫だ。これからどうすればいいか考えていてな」
不審がられないように平静を保ちつつそう告げた。
そのときだった。
――ピンポーン。
と、インターホンが鳴った。瞬間、緊張が走る。
「カナタ、わかっているな?」
「あぁ」
詩音の呼びかけに返事をする。
このタイミングで宅配便が来たなんて、流石に思わない。華山ハナを取り返しに誰かがやってきたんだ。
どうする? と、詩音とアイコンタクトする。玄関に向かうべきか?
ひとまず誰がやってきたかぐらいは確認すべきかと判断したオレは足音を鳴らさないよう、忍び足で玄関に向かおうとした瞬間だった――。
窓ガラスが割れた。
すると、中に人がたくさんなだれ込んでくる。その誰も探索者のようで武器を手に携えていた。
「よぉ、さっきぶりだな!! ここは大人しく俺に従うんだな。流石にこの人数相手じゃ勝負にならんだろッッ!!」
奥からそれは現れては声を張り上げた。
ランキング第一位武藤健吾だった。その男は背中に巨大な大剣を背負っていた。
確かに、オレたちの周りには20人以上の探索者がいる。きっと武藤健吾の部下とかなんだろう。これだけの人数相手には流石に勝てない。
「イヤだぁッッ!! わたしにはカナタがいるもん。カナタの手にかかれば、あんたたちなんてイチコロなんだから!!」
「あぁ、我が主を舐めるな。主がその気になれば、貴様らごとき一瞬で葬れるのだぞ」
んんんんんんんんっ!? なんで、お前らオレをそんなに持ち上げるのかなー!?
「な、なんだと!? その男、そんなに強いのか!?」
武藤健吾もなんか真に受けちゃってるし! 逆に怖いんだが。えーっ、どうしよっ。
「いや、オレそんな強くないですよ。ランクFですし……」
「念のためたくさん部下をつれてきてよかったぜ! お前らやれッッ!!」
オレの訂正は武藤健吾の声にかき消される。すると、部下たちはいっせいにオレたちのほうへと突撃してきた。ヤバい、さすがにこの人数を対処しきれない。
「
詩音が呪文と共になにかを口にした。瞬間、彼女を中心に氷の結界が展開され、その上にいる探索者たちの体が次々と凍っていく。
「おい、なんだ、これ!?」
「か、体が動かねぇ!?」
詩音の魔術に探索者たちはパニックに陥る。武藤健吾が「お前ら怯むなぁ!」と彼らを励ますがあまり効果はなさそうだった。
「貴様らごとき雑兵は主様が直接手をくだすまでもない」
詩音はそう言って、自信りげに鼻を鳴らしていた。
つ、つぇええええええ!? 前々からそんな気はしてたけど、やっぱりこいつめちゃくちゃ強いだろ。強すぎるせいで己の才能に溺れて中二病になっちゃったのかな、と詩音の境遇を想像してしまう。
「ひとまずここは我にまかせて、主はその女を連れて遠くにいってくれ。そのほうが戦いやすそうだ」
「あぁ、わかった」
オレは頷くと同時に、華山詩音を抱えて家を出た。
「ここで決着をつけようってか。確かに、見晴らしが良くて決着をつけるにはいいところじゃねぇか」
目の前にいる武藤健吾が周囲を見回しながらそう告げる。
オレたちは今、近所の広い公園に来ていた。あれからオレは華山ハナを連れてここまで来ていたのだ。
武藤健吾以外の探索者は詩音の魔術で動けなくなったようで、彼以外はここまで追ってこなかった。
「カナタ……」
華山ハナ不安そうにオレのことを見る。
「大丈夫だから、オレにまかせて」
安心させようとそういうが、ぶっちゃけ不安しかない。
手はず通りなら、詩音の魔術で武藤健吾が弱体化されるはずだから、それを願うはずがない。
詩音、ホント頼むぜ。
あと、鑑定スキルの言った華山ハナが嘘つきといった言葉が気になるが、まぁなるようなると願うばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます