―37― 魔法
このままだとオレが武藤健吾と戦う流れになってしまう。
「あのな、オレは適性ランクFだぞ。Fランクモンスターをかろうじて倒せるぐらいの実力しかないのに、ランキング1位の武藤健吾に勝てるわけがないだろ」
そりゃ華山ハナのために戦いたいという気持ちはあるよ。けど、無理なものは無理だ。
「ん? なにを言っているんだ? 主なら余裕で武藤健吾に勝てるだろ」
詩音は眉をひそめていた。
あぁー、そうだった。こいつ話が通じないタイプの中二病だった。
「え、えっと……」
華山ハナはというどっちの言い分を信じればいいのかわからないようで困惑していた。
「ふむ、そうだな……。主がそこまで言うなら、我がバレないように手を貸してやっても良いが」
「そんなことできるのか?」
「我の魔法で遠くにいる敵を弱体化させることができる。試してみるか?」
「あぁ、頼んでもいいか」
すると、詩音は手を前に広げて呪文の詠唱を始める。呪文は聞いたこともないような言語で構成されていた。呪文が必要な魔術もあるんだな。
「
瞬間、全員がずっしり重くなり、内側からなんとも言い難い苦痛が発した。立っていることさえ難しくなり、オレはその場で両手を床につける。
「解除」
詩音がそう告げると全身から痛みがなくなった。
「どうだ? この魔法を使えば、武藤健吾を大幅に弱体化させることができる。それに傍から見れば、我が関与しているなんてわからんしな。これなら主も安心して戦うことができるのではないか?」
確かに詩音の魔法は強力だった。
いくら武藤健吾でもこの魔法をくらえば、幾分か弱くなるはず。オレでも勝てる可能性がありそうだ。
「カナタ……」
華山ハナが不安そうな表情でオレのことを見つめていた。
オレとしてはもちろん彼女のことを助けたい。けれど、一つだけ気になることがあった。
「なぁ、詩音はどうして助けることに前向きなんだ?」
オレには華山ハナを助ける道理がある。オレは彼女のファンだし、彼女には再びアイドルに戻って欲しい。
けど、詩音がこれほど助けることに積極的なのがオレには疑問だった。一見彼女には、華山ハナを助ける理由がないような気がする。
「我は主の役に立ちたいだけだ。だから、主が助けたいというならば我は全力で手を貸す」
そうか、どうやら想像以上に詩音はオレのことを慕っているらしい。ホント慕われるだけのことをした覚えはないんだけど。
「よしっ、成功するかわからないけど、やるだけやってみるか。華山さんもそれでいいか?」
「うん、二人ともありがとっ」
そう言って、華山ハナは笑顔を見せる。
やっぱり彼女にはこういう笑顔が似合う。この笑顔を守るためなら、オレはなんだってできるかもしれない。
『ご主人さま、至急お伝えしたいことがあります』
唐突。
甲高くも落ちついた女性の声が脳内に響く。
あぁ、鑑定スキルか。
なんだか久しぶりに声を聞いた気がする。
わざわざ鑑定スキルのほうから呼びかけてくるなんて珍しい。基本的に、鑑定スキルはなにかを鑑定するとき以外は喋らない。いや、そんなこともないか。
思い返せば、鑑定スキルは関係ないときにもよく喋っている気がする。
「どうした?」
オレは他二人には聞こえない程度の小さい声でそう呟く。
『ご主人さまはワタクシのことを信用してくれますか?』
ん? 随分とおかしなことを聞くなと思った。
「よくわからないな。信用するもなにも鑑定スキルは真実を教えてくれるスキルだろ」
そう。それが鑑定スキルというものだ。鑑定スキルを疑うということは、一足す一が二であることを疑うようなもんだとオレは思う。
『それが聞けて安心しました』
鑑定スキルのその言葉を聞いて、オレは気を抜いてしまった。
てっきり鑑定スキルの用事とやらが終わったんだとばかり勘違いしてしまったのだ。本当に伝えたかったことはこれからだというのに。
そう、次の言葉を聞いてオレは度肝を抜いてしまった。
まるで怖いシーンが終わったと安心していたら、突然現れたお化けに驚かされてしまうホラー映画のワンシーンを観た感覚にとても似ている。
鑑定スキルは次の言葉を口にしたのだ。
『鑑定結果、華山ハナは大嘘つきです。彼女を信用してはいけません』
へ……?
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