―39― ランキング一位
「なんだ、ビビって損したぜ。やっぱり適正ランクFじゃねぇかよ」
目の前にいる武藤健吾が拳を握りしめながらそう告げる。
ランキング第一位と恐れられる男なだけある。見つめられるだけで心臓が締め付けられそうだ。
「なぁ、あいつの鑑定をしてくれ」
『鑑定結果、武藤健吾は適正ランクSです』
ゾッとする。流石ランキング1位なだけある。Fランクの俺とは大違いだ。
『ご主人様、ひとつだけアドバイスをよろしいでしょうか?』
ふと、鑑定スキルがそんなことを口にした。
『適正ランクはその人の才能をはかるもので、実力をはかるものではありません。なので、決してご主人様でも勝てないことはないかと』
「え? でも、適正ランクと実際の強さは比例するんじゃなかった?」
『一般的にはそうですが、ご主人様は多大な努力をされたじゃないですか』
「えっ? オレって、そんなに努力したか?」
確かにダンジョンに閉じ込められたときオレは外にでるために努力をしたよ。けど、その努力は一般的な探索者が当たり前にしていることだからな。
『……そうでした。ご主人様は努力をしましたが、多大な努力というほどではありませんでした』
お、おう……。やっぱり鑑定スキルの勘違いだったようだ。
「死ねぇ!!」
鑑定スキルと会話している隙に、武藤健吾が大剣を手に突撃してくる。
それをオレは反射的によけた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
殺すと言うたびに剣をふるった。そのたびにオレは避け続ける。
「殺すぅ!!」
また武藤健吾の大剣は空を斬った。
あれ…………?
ふと、オレは疑問を感じていた。
これがランキング一位の動きか? さっきから武藤健吾の動きが手に取るようにわかるんだが。おかげで、攻撃を余裕でよけることができる。
「ず、随分とすばしっこいんだな。だが、悪いな。俺はまだ本気を出してねぇ!!」
ぜぇーぜぇー、と肩で息をしながら武藤健吾が声を張り上げた。
「これが俺の本気だ。
瞬間、武藤健吾の体が金色に光りだす。
「まさかFランクにこれを見せることになるとは思わなかったぜ。だが、もう泣いて詫ても遅えんだよ。この状態になったときの俺はまさに無敵!! どんな相手だろうがな、この状態の俺の手にかかれば瞬殺なんだよ!!」
マジか。
そんなに強いのか。あまりの威圧に冷や汗をかいてしまう。
俺は持ってきていた〈貧弱な剣〉をかかげて体勢を整える。
「死ねぇええええ!!」
武藤健吾がそう言って突撃してきた。
それをオレは〈貧弱の剣〉で受け止める。
ん……?
それから何度か剣と剣がぶつかり合う。
あれ……? やっぱりおかしい。
「死ねぇえええええええええッッ!!」
武藤健吾は気合でも入れようとしたのかもう一度叫んでは剣をぶつけ合う。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッッ!!!」
何度も武藤健吾は大剣を振るった。その度にオレは〈貧弱の剣〉で受け止める。
確かに、さっきの武藤健吾より強いのかもしれない。
けど……、やっぱり弱い気がするんだが……?
「くっ、こうなったらオレの真の本気を見せてやる。はぁ、このスキルを使えば相手を確殺してしまうから、人間相手には使わないようにしていたが、こうなったら仕方がない。もう後悔しても遅いからなぁ!!」
そうか、やっぱりまだ本気を出していなかったのか。
それなら納得だ。
今後こそ殺されないように気をつけなくては。
「
真上に掲げた大剣がより大きな光り輝く大剣に変化させては今にも振り下ろそうとする。
これはいかにも強力そうな技だ。
こっちも本気で迎え撃たなくては。
「ドーピング」
オークを食べて手に入れたスキルを使う。すると、右腕が膨張し筋肉がつく。
「しねぇええええええッッ!!」
振り下ろした大剣に〈貧弱の剣〉を迎え撃つ。
ガキンッッ、と金属音が響いた。
途端、武藤健吾の大剣が折れてしまった。折れた剣先は弾けるように遠くへと飛んでいった。
ん……?
もしかして、オレの攻撃に耐えきれず大剣が割れたのか……?
「お、オレの〈ガイアブレイド〉が!!」
〈ガイアブレイド〉というのは武藤健吾の持っていた大剣の名称だろう。
武藤健吾は無惨にも剣先が折れてしまった大剣を見てショックを受けていた。
その姿を見て、オレ思ったことを口にした。
「おい、どうなってんだよ!! お前、めちゃくちゃ弱いじゃねぇか!!」
そう叫びながら殴った。
こいつを倒すには、剣なんか使わなくても拳で十分だと判断したのだ。
目論見はあたっていたようで武藤健吾の体はボールのように地面を跳ねながら勢いよく弾け飛んでいった。
どういうことだ……? これがランキング1位の力なのか?
さっきからオレは混乱していた。
だって、ランキング1位がこんなに弱いなんておかしいだろ。
「く、くっくっくっ、あははははははははははははっ!!」
気味の悪い笑い声だった。
殴られた武藤健吾がぬくりと立ち上がり、大口を開けて笑い始めたのだ。
「ここまで
そう言って、武藤健吾はポケットからなにかを取り出した。
それは小さな石だった。宝石と呼ぶには濁った泥の色をしていて、結晶と呼ぶにし左右不対称の歪な形をしていた。そんな不気味な石ころ。
「これは魔石片といってな、通常体内に取り込むのが難しい魔石を特別な加工をして取り込むことができるようにした代物だ。それもただの魔石片じゃねぇ。A級モンスターの魔石片だ」
確かに、魔石を取り込むと具合が悪くなるからな。
魔石片か。そんないいものがあるのか。オレも魔石片とやらの作り方を知りたい。
「今からこのA級魔石片を飲み込んでやる。ふっはははっ、恐ろしいだろ! これを飲んだ俺はどれだけ強くなるだろうな! 自分でも未知数だ! あぁ、だが、今更後悔しても遅えぞ! このオレを怒らせたことをあの世で悔やむんだな!」
そう言って、武藤健吾は魔石片をゴクリと飲み込んだ。
「うぉおおおおおおおおおおおお! なんだこれ! 力が溢れて止まらねぇ!!」
途端、武藤健吾の体が変色していき牙が生え、目は獣に似た黒目へと変化していく。とても人間とは思えないような見た目になってしまった。
「ふははははっ、これが俺の新しい力か」
そう言って、武藤健吾は勝ち誇った様子でオレのことを見つめる。
A級の魔石片か。オレが普段飲みこんでいる魔石はF級だからな。きっと恐ろしいほどに強化されたに違いない。
これは警戒する必要がありそうだ。
「死ねぇえええええええええッッ!!」
武藤健吾が勢いよく突っ込んできた。
ピシ! と、なにかを切り裂く音が聞こえた。
「え?」
意外な結果にオレは目を見張っていた。
武藤健吾はオレに後一歩のところで踏みとどまっていたのだ。その上、彼の全身に無数の切り傷が次々と生まれていく。
「な、なんだ、これッッ!!」
事態を把握できていない彼は驚きの声をあげた。
まさか、こんな単純な罠に引っかかるとはな。
トリックは単純だ。オレのスキル〈蜘蛛の糸〉をワイヤーのように周囲に仕掛けておいただけだ。そしたら、武藤健吾が馬鹿正直に突っ込んできただけ。
オレは肉弾戦よりスキルを使った搦め手のほうが得意だ。けど、武藤健吾相手にスキルを使うまでもなかったから、今まで温存しておいたが、結果的彼の意表を突くことができたらしい。
「一言だけ言わせてくれ」
蜘蛛の糸に絡まり動けなくなった武藤健吾にオレはゆっくりと近づく。彼の口から短い悲鳴が聞こえたような気がするが気にしない。
「弱すぎだろがボケ―ッ!!」
なにがランキング1位だ。ビビって損したじゃねぇか! という怒りを込めて勢いよくぶん殴ってやった。
彼の体は遠くに会った塀にぶつかるまで勢いよく飛んでいった。流石にもう戦う気力はないようで、ぐったり倒れては動かなくなった。
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