―35― ■■■■とか
華山ハナを連れて自宅にたどり着く。ひとまず自宅に入れば安心だろう。
「おー、ここがカナタのお家?」
「あぁ、そうだよ」
「やーん、年頃の女の子を自宅に連れ込むなんてやらしんだー」
華山ハナはわざとらしい身振り手振りをしてからかってくる。
なんていうかな、彼女の底抜けに明るい感じを画面越しで見る分にはおもしろいなぁとか思っていたけど、目の前でやられるとなんか胃もたれしてくるな。
「いらんこと言ってないで入るぞ」
「はーい」
華山ハナが大きく手をあげて返事をしたのを確認して、玄関の扉へと向かったときだった。
「遅いぞ」
扉の前にちょこん、と彩雲堂姉妹の小さい姉のほうの詩音が地べたに座っていた。
どうやらオレが帰ってくるまでこうして待っていたらしい。
「どうして、いるんだ?」
「我が主を護衛するのも部下としての立派な務めだからな。貴様の帰りを待つのも立派な任務だ」
意味わからん主張だか、しかし、今回ばかりはありがたいかもな。正直、華山ハナと自宅で二人きりは気まずいことになりそうだったため、詩音がいてくれるだけでも多少緩和されそうだ。
「てか、妹の由紀はいないのか?」
「あいつは今、別件で動いている。双子だからといって、常に一緒に行動しているわけではない」
「それもそうか」
と、頷きつつ、詩音の服装に頭を傾げる。
というのも、彼女は由紀と同じ制服をきていたのだ。マジか。こいつ、高校生なのかよ。てっきり小学生かと。
「ん? どうかしたか?」
なにかを察知したらしい詩音が睨み付ける。余計な火種を生みたくないオレは「別に」と答えた。
「ねぇ、この子誰? 妹さん?」
「それで、さっきから貴様の隣にいる、そいつは誰なんだ?」
華山ハナと詩音がお互いに見つめていた。
正直、どっちも説明が難しいんだよな。
「まぁ、とりあえず中に入ろうか」
こんなところご近所に見られたらなんて思われるかわからんし、まずは彼女たちを家の中に招き入れた。
「えっと、この子は彩雲堂詩音といって、えっと……」
彼女たちを居間に座らせて、早速華山ハナから事情を聞こうということになったが、その前に詩音のことを華山ハナになんて説明すべきか、オレは戸惑うはめになった。
まさか秘密結社の部下だ、なんて妄想話をするわけにいかないし。
「我とカナタは同じ探索者として協力関係にある。まぁ、同僚みたいなもんだ」
詩音が口を開く。
どうやら秘密結社とか瘴気みたいなことを公に言うつもりはないようで安心する。そもそも秘密結社は隠れてやるから秘密であって、言ってしまえば秘密でもなんでもなくなる。
「それで、こちらは……」
さて、華山ハナのことはなんて説明しよう。
元アイドルで武藤健吾と婚約したけど、なぜか彼から逃げていて、そんでオレがひとまず匿うことになったなんて、自分でも思うけど意味がわからん。
「はいはーい、わたし華山ハナと言います。そんでもってー、カナタくんとこの度に結婚することになりましたー!」
とか言って、華山ハナはオレの腕を掴んだ来た。
「…………はぁ」
詩音は渋面してオレのことを見つめていた。冗談なのか本気なのか判断つかないといったところだ。
オレだってもどっちなのかわからんよ。
「えっと、結婚のことは置いといて、詩音は華山ハナってアイドルのこと知っているか? ほら、宇宙カンガルーってアイドルグループで、けっこうテレビとかに出ていたんだが」
「……聞いたことがあるような」
どうやらまったく知らないってわけではなさそうだ。
それから、オレは掻い摘まんで説明をした。
今から一ヶ月前、華山ハナが婚約と共に電撃引退したこと。そして、ついさっき彼女を偶然助けて、そして婚約者の武藤健吾に追われているところら逃げてきたことを。
「ふむ、まぁ、なんというのか芸能人というのは大変なんだな」
というのが詩音の抱いた感想だった。他人事だと思っていそうな感想だ。
「それで、オレも聞きたいんだがどうして武藤健吾と婚約することになったんだ?」
華山ハナのほうを見て尋ねる。
すると、彼女は唇に人差し指をあてて、まずなにから話すべきだろうか、とでも考えているような仕草をしてから、口を開いた。
「んとねー、ダンジョンの利権って、今とんでもないことになっているでしょ。魔石はエネルギー資源として非常に有用だから、どの国もやっきになってダンジョンを攻略して魔石を集めている」
それはオレでも知っているような情報だ。
今や魔石なしであらゆる生活が成り立たなくなるぐらい社会は魔石に依存している。
「ランキングというのはさー、魔石を採取している量で順位がつけられるから、ランキング第一位の武藤健吾はこの国の経済の大部分を担っているともいえるわけ。そうなると、武藤健吾には莫大な権力が集まってくる。それも国を動かせるぐらいのね」
武藤健吾が権力を持っていることはわかったが、それが華山ハナとの結婚にどう関わってくるんだ?
「単純よ。彼がわたしと結婚したいと言った。それだけでわたしはアイドルを引退させられ、彼のもとに嫁ぐことになった」
は? なんだ、それ。
いくらなんでも横暴が過ぎるだろ。まるで、華山ハナを人身売買のさいの商品として扱っているかのうよな所業だ。
「わたしをまるで道具のように扱いやがって。誰があんなやつと結婚するもんか。それでわたしは彼のもとから今日まで逃げてきたってわけ」
彼女は言葉にいらつきを滲ませる。
そうか、そういう裏事情があったのか。
「その、すまん……」
無意識のうちにオレは彼女に謝罪を口にしていた。
「えっ、なんで君がわたしに謝るのさ?」
「オレは華山ハナが婚約すると発表したとき、勝手に失望して推しを引退した。けど、本当の推しならば君のことを信じて待つべきだった」
アイドルらしかぬ婚約にオレは怒った。けど、それは本人も望んでいない婚約だった。なのに、オレはファンとして彼女を信じることができなかった。
「それは仕方ないよ。あんなことがあったら、誰だって怒る」
「それでもオレは……」
「えへっ、ありがとうね。わたしのために悲しんでくれて。今は、一人でもわたしの味方が増えてくれただけでもとってもうれしいからさ」
そう言って、彼女は笑みを零す。
本当は誰よりも泣きたいはずなのに、彼女はファンであるオレを元気づけようとしてくれた。その姿をみて、華山ハナは誰よりもアイドルだってことを確信する。思い返せば、彼女のこういった姿にオレは心を惹かれたんだ。
「ふむ、貴様の事情はわかった。だが、正直、どうしようもないのではないか? 数日ここに潜むことはできるかもしれぬが、向こうが本気で探せば、ここにいることはそのうちバレるだろう。バレてしまえば抵抗なんて難しいぞ」
詩音が冷静に状況を分析する。
確かに、それだけの権力を持つ武藤健吾から逃げることなんて不可能なはずだ。
「それなら大丈夫! 策ならちゃんと考えてある。ぶっちゃけこの状況に持ち込んだ時点で、ワタシの勝ちだと思っている」
華山ハナは自信満々にそう告げた。
これだけ自信満々な表情をするということはよほどいい策を思いついているに違いない。オレはまったく思いつかないが。
「彼って処女厨だから、わたしがカナタと■■■■して、その様子を動画にでも収めて、見せつけてやればいい。そうすれば、彼の脳みそは破壊されて、わたしと結婚する気は失せちゃうってわけ」
は……?
■■■■ってなんだ? ■■■■って。■■■■の瞬間だけよく聞き取れなかったけど、多分■■■■のことで間違いないよな。
「題して、わたし華山ハナが寝取られちゃいます大作戦!! カナタ、今すぐわたしと■■■■しよ! そんで■■■■とか■■■■とか■■■■とかもしちゃおうかっ!!」
ヤバい、さっきからアイドルが言っちゃいけない単語ばかり口にしてるんだけど!?
「き、貴様は、なにをいっとんじゃぁああああああああああああああッッ!?」
詩音が吠えた。
あまりにも大きい声だったので、鼓膜がキーンとなる。
それでも、オレは詩音にグッジョブを送りたかった。
よく言ってくれた、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます