―31― 登校

 今日から夏休みが終わり大学が始まる。

 相変わらず彩雲堂姉妹は瘴気に侵されたという者たちを家に連れて来てはオレに治すことを求めてきた。

 瘴気が治った者はきまって組織に忠誠を誓うので、組織の人数がけっこうな数になっていそうだ。

 オレは憂いているよ。

 こんなにも中二病のごっこ遊びをしたい連中がこの国にいたなんて。


 とはいえ、秘密結社ギルドギアがあるおかげで、好きなタイミングで人数を集めてダンジョンに行くことができるので、オレにとってもありがたい存在ではあるのだが。


「お、おはよ、カナタ。その、たまたま前を通ったから迎えに来てやったぞ」


 玄関を開けると、なぜか西山が立っていた。なぜに?


「か、感謝しろよなっ! かわいい幼馴染と一緒に登校できることなんて、普通の人はできないんだからな」


 お、おう……。よくわからんが感謝したほうかいいみたいだ。

 そういえば、西山と同じ大学だったな、ってことを思い出す。今まで一度も一緒に登校したことがなかったのに、突然どうした。


「カナタ様! まだでかけていなくてよかったです!」


 ん? 西山の後ろから彩雲堂姉妹の妹のほう、由紀がやってきた。

 由紀は高校生だったようで、制服姿に身を包んでいる。


「由紀、こんな朝からどうしたんだ 家からここまで遠いだろ?」


 彩雲堂姉妹は名字で呼ぶと区別つかないということで、数日前から名前で呼ぶことにしている。


「いえ、学校がこの近くなので、大した労力ではありません。それに、どうしてもこの時間に会いたかったんです」


「カ、カナタ、誰よ、その子」


 西山が由紀のことを指さしていた。

 そういえば、この二人は会ったことなかったはずだが、さて、由紀のことをなんて説明すべきだろうか。

 まさか秘密結社の部下、なんて説明するわけにいかないし。


「はじめまして、彩雲堂由紀と申します。以前、カナタ様とは一緒に探索者として活動したことがありまして、それ以来お世話になっています」


 由紀は懇切丁寧に自己紹介をした。


「あ、こっちは西山菜々子といってオレの幼馴染だ」


 西山はワナワナと震えるだけで自分から口を開こうとしないので、オレが彼女のことを説明する。


「それで、由紀はどうしてオレの家まで来たんだ?」


「えへへっ、どうしても渡したいものがありまして」


 由紀がそう言って、カバンから取り出したのは、大きめの弁当箱だった。

 えっと、オレは体質上普通のごはんは食べられないわけだが……、


「大丈夫ですよ、カナタ様の好物のモンスターのお肉しか入っていませんので」


「おぉ、そうか。これは嬉しいな。ありがとう」


 どうやら由紀はオレためにわざわざモンスターのお肉を用意してくれたらしい。これは食べるのが楽しみだ。


「それにしても悪いな。用意するの大変だっただろ」


「いえ、いつもカナタ様にはお世話になっていますから、このぐらいさせてください」


 これしきのことなんでもない、とはがりにそう言う。由紀ちゃんってホントいい子だよなー。これで、あの姉と中二病がなければ完璧なんだが。


「それじゃあ、そろそろ行かないと間に合わなくなるから。ほら、西山も行くぞ」


 いつまでも無駄話をしているわけにもいかないのでそう促す。


「カ、カ、カ、カナタの裏切りものぉおおおおおおおおおおおッ!!」


 西山が大声で絶叫すると、そのまま走ってどこかへ行ってしまった。


「どうかしたんでしょうか?」


「さぁ?」


 置いていかれたオレたちは困惑していた。

 幼馴染がなにを考えているのかさっぱりわからなかった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る