―29― ダンジョン攻略!!

「ありがとうごいます、カナタ様! まさか邪気を祓っていただけるなんて!」


 目の前に涙ながら感謝する女の子がいた。

 本当に近くに住んでいたようで30分ぐらいで邪気に冒されているという設定の三人がやってきた。

 なお、全員女の子で体のどこかしらに包帯を巻き付けていた。

 そのうちの一人なんて、全身に包帯を巻き付けた上で車椅子にのってやってきていた。徹底してるなぁ。


「ありがとうございます! わたしもう死ぬしかないと思っていたから……」


 また一人邪気とやらを祓ってやると、女の子に涙ながらに感謝される。

 色々とつっこみたいことがあるけど、それより今は空腹で頭がいっぱいだ。早くこいつらの用事を終わらせてダンジョンに潜りたい。


「そうだ、由紀も邪気も祓ったほうがいいんじゃないか?」


 姉のほうの詩音が由紀に対してそう告げる。


「そうですね。あの、カナタ様、わたしもお願いしていいですか?」


「……様?」


 カナタ様って呼ばれたことに違和感を覚えた。さっきまでそんなふうに呼ばれてたっけ。


「カナタ様はみんなの救世主なので、敬称をつけるのは当たり前です!」


 あ、そう。ふーん。


「それで、よろしいですか?」


「もちろん、いいけど」


 そういうと、彩雲堂由紀は左手の小指を突き出した。見ると、小指だけに包帯がかかっている。

 その小指に触れると邪気とやらはなくなったようで、由紀はお礼を言いつつ包帯を取り払う。


「その包帯ってなんの意味があるんだ?」


「この包帯は邪気の進行を遅らせる力があります。わたしの場合、比較的軽症だったので、小指に巻くだけなんとかなっていたんです」


 へー、一応ちゃんと設定は考えてあったんだな。


「それで、そろそろ限界だから、早くダンジョンに行きたいんだが」


「よしっ、貴様ら回復したばかりで悪いが、我らのボスが腹を空かせている! 今すぐダンジョンに向かうぞ!」


「「はっ、我がボスのために」」


 詩音の呼びかけに全員が呼応した。お前ら、なんでそんなに息が合うんだよ、とか思わんでもない。


 それから、組織の一人が所有してたというワンボックスカーに乗って、近くのダンジョンへと向かった。


「お姉ちゃん、いきなりCランクのダンジョンに入って大丈夫ですかね?」


「なに、我らの実力があれば問題なかろう。それに今日はカナタもおるからな」


「なぁ、鑑定スキル。本当の難易度はいくつだ?」


『鑑定結果、Fランクのダンジョンです』


 ふーん、やっぱりこいつら嘘ついてやがる。どれだけ組織とやらを大きく見せたいんだよ。

 他の人たちの実力を聞いてないので多少不安だが、Fランクダンジョンなら特に心配する必要もないだろう。

 最悪、オレ一人でもどうにかなる。

 そんなわけで6人でダンジョンへと潜った。


「グルル……っ」


 入ってすぐ目の前に狼型のモンスターがいた。相変わらずランクはF。


「うぉおおおおおおおおおおお! やっと腹を満たせる!!」


〈貧弱の剣〉を一振りしてモンスターを切り刻む。

 そして、一口大の大きさになったらかぶりつく。生でもいいからとにかく食べたかった。


「す、すごい……!」


「さすが、カナタ様」


「本当にモンスターを食べるんだな」


 ふと、オレの様子を見た組織の一員たちが驚いていることに気がつく。


「なにを驚いているんだよ」


「それは驚きますよ! あんな強いモンスターをいとも簡単に倒すなんて! すごすぎです!」


「モンスターの体内には瘴気が含まれているから、常人では口に含むことすらできないが、さすがだな。貴様には、瘴気をものともしない特別な能力があるようだ」


 妹のほうの由紀は目を輝かせて、姉のほうの詩音は自慢げにそう口にする。

 他の三人も「すごいです、カナタ様!」なんて言うし。


 うぜぇえええええええええっ、こいつらオレのこと内心バカにしてるだろ。

 Fランクのモンスター相手なら誰だって無双できるし、モンスターの肉は普通の人にはまずいみたいだが、食べられないわけではない。

 オレに組織のボスを押し付けるために、オレのことを過度に持ち上げているんだ。


「別に、オレは大したことはしてないよ」


「カナタ様は本当に謙虚ですよね!」


 こいつら、マジでなに言っても伝わらねー。


「カナタ様、魔石を飲むこともできるんですか!? すごすぎです!」


 モンスターから採取した魔石をいつも通り飲み込もうとしたら彩雲堂由紀にそんなことを言われる。


「いや、これは誰だってできるだろ」


「で、できないですよ!? なに言ってるんですか、カナタさん!?」


 なぜか、めっちゃ驚いている。


「由紀よ。カナタは我々の常識を超えた存在にいるんだよ」


 なぜか姉のほうの詩音が達観した表情をしている。


「なるほど、流石ですカナタ様! 尊敬します!」


 やべぇ、こいつらの会話微塵も理解できん。


「しかし、カナタは日常的に魔石を飲み込んでいるのか?」


「あぁ、そうだけど」


「なるほど、カナタの強さの秘密はそこにあるのかもしれんな。しかし、どうして魔石を飲み込んでも平気なのだ?」


「いや、だから、普通だろ」


「ふむ、いくら飲み込んでも普通と。瘴気をものともしない能力といい、カナタは人体に有害なものに抵抗する能力を持っているのだな」


 なぜか勝手に解釈されている。

 ホント中二病って設定とか作る好きだよな。


 その後もひたすらダンジョンの奥へと進んでいく。

 とはいえ、基本的にモンスターを倒すのはオレだけだ。オレ以外はみんなただオレを称賛するだけで戦闘には参加しなかった。

 ちなみに理由を聞いたところ「この調子なら、我々が手を貸すよりカナタ一人で戦ったほうが効率的だろう」とのことだった。

 確かに、Fランク相手ならオレ一人で十分だけど気に入らねぇ。


「できれば全部持って帰りたいな」


 モンスターの残骸を見てそんなことを思う。

 数日分の食料を確保したいため、できるかぎりモンスターの肉をお持ち帰りしたいが、抱えて運ぶには限界がある。


「我ならばアイテムボックスを使うことができるぞ」


 とか言って、彩雲堂詩音が手のひらから光の箱を展開した。

 アイテムボックスだと!? あの、なんでも収納できる便利なやつだ。


「アイテムボックスを使えるのか。すごいんだな」


「そうだろ。我も貴様ほどではないが、それなりにやるのだぞ」


 ドヤ顔がうざいけど今は感謝しかない。


「まぁ、容量には限界があるので全て持ち帰ることはできないがな」


 というわけで、次々とモンスターの残骸をアイテムボックスへと放り込んでいく。


 たくさん持って帰れるとわかるとテンションあがってきたな。これは自宅に大きめな冷蔵庫を用意する必要があるかも。


「よーしっ、お前らどんどん狩るぞー!」


「「おーっ!!」」


 とか言いつつ、我々はさらにダンジョンの奥地へと進んだ。













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