―27― 逃亡

「おい、さっきから一人でなにコソコソしているのだ?」


 鑑定スキルとお話ししていたら姉のほうの詩音に咎められる。


「いや、オレに人の上に立つ素質なんてないなって思って」


「ふむ、なんだそんなことを考えていたのか。組織のボスというのは、ただどっしりと構えていればいいのだ。実務のほうは我々姉妹に任せておけ」


「お姉ちゃんはこう見えて、人をまとめるの得意なんですよ」


 お姉ちゃんってのも嘘なんだろうな。

 こんな合法ロリが現実にいてたまるか。


「それで、秘密結社ギルドギアのボスになる決心はついたか?」


 自称合法ロリがオレの顔を覗き込んでそう口にする。


 オレも昔、中二病だった時期がある。

 意味なく呪文を唱えたり、突然自分には前世があるとか言い出したり、うっ思い出すだけで恥ずかしさで死んでしまいそうだ。

 そういえば、中二病のとき書いた設定ノート、引き出しの奥にしまったままかもしれない。ちゃんと処分しないとな。


 ともかく、オレだってそういう時期はあったわけだから、中二病そのものを否定するつもりはない。

 けれど、オレを巻き込むんじゃねぇ。


「悪いが、全力で断る!」


「な、なんだと……!?」


 姉の詩音が驚愕していた。


「このままだとこの世界は魔王の手に落ちるかもしれないんだぞ!」


「わたしたちには雨奏さんの力が必要なんです!」


 姉妹揃ってオレを説得しようとしてくる。

 マジで勘弁してくれ。


「あの、もう帰っていいか」


 ここに来た目的である姉の病気を治すというのは達成したわけだし(瘴気とかいう妄想だったとはいえ)、これ以上ここにいる理由はない。


「おい、待て」


 帰ろうとすると詩音がオレの前にでてきて歩みをとめようとする。


「なにか勘違いしているようだが、拒否権なんてないぞ。なんせこの世界の命運がかかっているからな」


 オレがボスの組織をつくろうとしているやつのセリフとは思えん!


「わたしからもお願いします! この世界を救ってください!」


 妹のほうの由紀がオレの手を握ってはそう口にする。うっ、美少女に手を握られたせいかドギマギしてしまう。これで、頭もまともだったらな……!

 まずいっ、このまま押し切られるわけにはいかない……!


「よし、逃げるか」


 手を振りほどいて部屋を出たオレは全力で逃げましたとさ。



「ようやっと帰ってこれた」


 自宅に戻ってきたオレはぐったりとソファに寝転がっていた。

 なんというか詐欺にあった気分だ。

 彩雲堂由紀さんのこと、かわいいなぁとか思っていたけど、まさか重度の中二病とは。しかも、人を巻き込むタイプのやっかいな中二病だったし。


 ぐぅ~、と腹が鳴る。


「やべぇ、腹が空いて苦しい」


 けど、昨日持ち帰ったライトニングバードは全部食べちゃったんだよなぁ。新しい食材を手に入れるには、またダンジョンに潜るしかない。


 ピンポーン、とチャイムがなる。

 家のインタンホーンを鳴らす人に心当たりがないなと思いながら、扉を開けた。


「よぉー、カナタ。う、うちのお母さんがお昼を多めに作っちゃったから、あんたの家に待っていけっていうから、仕方なく来てやったぞ。感謝しろよな」


 やってきたのは幼馴染みの西山奈々子だった。

 彼女はなぜか照れくさそうに前髪を弄りながら、用件を口にしていた。


「お、おう、ありがとな」


 わざわざ彼女のほうからやってくるなんて珍しいからびっくりする。今まで、用事があったときは必ず向こうがオレを呼び出していたのに。


「それじゃあ、お邪魔するね」


「えっ?」


「な、なにがおかしいんだよ! 言って見ろよ、おらぁ!」


 なんで喧嘩口調なんだよ。


「いや、てっきり渡したらすぐ帰るんかなと思ったから」


「べ、べべべべ別に、あたしもたまたまお昼をまだ食べていなかったから、一緒に食べようと思っただけだ! そのほうが洗い物も回収できるし効率的だろ!」


「そ、そうだな……」


 なぜ、こいつはこんなにも焦っているんだよ。


「ありがとうな。ちょうど、オレもお腹空いていたところなんだよ」


「そう。それはよかった」


「来る前に連絡くれたらよかったのに。さっきまで家に居なかったから、ちょっとでも来るの早かったら誰もいなかったぞ」


「たまたま、窓からあんたが帰ってくるの見えたから、家にいるのは知っていたし」


 ん? 西山の部屋の窓からうちの玄関って見えたっけ? まぁ、いいか。

 それから、西山が率先して、お昼の準備を始めた。手伝おうとしたけど、電子レンジに食材をいれるだけだったので、特に手伝うことはなかった。

 お昼の献立は、ごはんと肉じゃが。

 西山の母さんが作る肉じゃがうまいんだよなぁ。


「カナタ、一緒に食べるぞ」


「あぁ、うん」


 返事をしながら椅子に座ろうとして気がつく。

 なにかを忘れているような。


 あぁ、やべっ。

 オレ普通のご飯が食べられない体質だった。








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