―26― 病

 それから彩雲堂さんの自宅に向かった。

 案内されたのはアパートの一室。ここに住んでいるとのことだった。


「ここで座って待っていてください。今、お姉ちゃんを呼びますので」


 少しだけ緊張するな。

 正直、お姉ちゃんの病気をオレがどうにかできると思えないんだよな。

 ふと、家の中を観察する。特に変わった様子はなく、シンプルな内装だ。お姉ちゃんと二人暮らしなのか、それ以外の人が住んでいる気配を感じないが。

 そういえば、彩雲堂さんっていくつなんだろう。

 勝手に高校生かと思っていたけど、同じ大学生でも違和感ないよな。


「ふむ、貴様か。由紀が連れてきた男というのは」


 へ……?

 やってきたのは、どう見ても小学生ぐらいの少女だった。

 ツインテールに髪を結び、長い杖を持ち魔術師っぽいローブに身を包んでいる。変な格好だ。


「こちらはお姉ちゃんの彩雲堂詩音です」


「えっ……」


 これで姉? いや、どう見ても妹では?


「あ、驚きましたか? そうなんです、実はわたしたち双子なんです」


 そうなの!? いや、驚いたのは双子だと気がついたからじゃないんだが!


「それで、貴様の名前なんだ?」


「えっと、雨奏カナタです。よろしくお願いします」


 気圧されながらも自己紹介する。

 なんで、お姉ちゃんのほうはこんなに偉そうなんだよ。


「なるほど、カナタか。由紀がいうには、貴様は相当の手練なようだな。ふむ、確かに貴様からは強者のオーラを感じる」


 すげぇ、キモいしゃべり方。これは中二病というやつか?


「えっと、それで病気というのは?」


 なんというか早くこの場から解放されたいと思って、本題を切り出す。


「あぁ、病気というよりかは呪いだな」


 えっ、呪い? なんだ、それ。


「ほら、これを見ろ。我の右腕が瘴気に蝕まれている」


 そう言って、彼女はローブの中から右腕を突き出す。

 えっと、瘴気と言われてもよくわからない。ただ右腕が包帯でぐるぐる巻きにされているだけだ。


「瘴気ってのはなんだ?」


 現実では一度も聞いたことがない単語だ。


「この世界の真実に興味があるのか? だが、半端な覚悟でこちら側には来ないほうがいいぞ」


 いや、まったく興味ないです。


「ともかく、この呪いのせいで、我の寿命はもって後一年といったところだな。日に日に体力の衰えを感じる。もうすぐ我は長い眠りにつくだろう」


「お姉ちゃん、そんなこと言わないでよ! きっと雨奏さんがお姉ちゃんの呪いを解いてくれるはずだから!」


 妹の由紀がそう叫ぶ。

 ヤバい、まったく話についてこれないんですが……。

 あと、期待されても困る。そもそも、瘴気ってなんだよ!?


「ふむ、まぁ、試すだけ試してみよう。ほら、この右腕に触れてみろ。もし、貴様の中にすべてを圧倒する力があるならば、この瘴気をも喰らい己の糧にするだろう」


 えっと、右腕を握ればいいのか?

 よくわかんないけど、とりあえず触ってみる。


「な、なにぃ!? 瘴気が取り込まれていく!? 貴様、体は平気なのか!?」


「えっ……なんともないけど……」


 だって、ただ右腕に触れているだけだし。


「し、信じられないっ!? 常人ならば、瘴気に触れるだけで気を失うというのに。まさか、このような人間が存在するとは!?」


 だから、瘴気ってなんだよ。


「おい、由紀。喜べ。我は瘴気を克服したぞ」


 そう言って、姉の詩音は右腕から包帯を取り払った。


「お姉ちゃん、よかったよぅ!!」


 由紀はそう言って、姉の詩音に抱きつく。よほど嬉しいのか目に涙が浮かんでいる。

 ダメだ。ついていけない。


「それで、カナタ。話があるんだが」


 姉の詩音が表情を変えてそう切り出した。

 まだなにかあるというのか。


「実を言うと、我は普通の人間ではない」


 うん、異常者だとは思うが。


「我はこことは違う世界、終末世界ディスオビリオンにおいて、深淵の魔女と恐れられていた存在なのだ!」


 は? は? は……?


「わたしも終末世界ディスオビリオンではお姉ちゃんの一番弟子をしていました!」


 彩雲堂由紀さんも手を上げてそう言う。

 あぁ、お前もなのか。


「ようするに、我と由紀はこことは違う世界からやってきた転生体というわけだな。そして、我々だけではない。今、この地に終末世界ディスオビリオンから次々と転生体がやってきている。その中に、あの魔王もいるのだ!」


 あ、そう。魔王ねー。ふーん。


「魔王は愚かにもこの地をも破滅に追い込もうとしている。我はどうにか魔王の謀略を阻止しようと考えた。だが、魔王により瘴気を受けてしまってな。もう我は戦うことができないと思っていたが」


 そう言って、詩音は遠い目をしていた。

 あー、色々と大変だったんだろうなー。


「だが、貴様が我の前に現れてくれた! まさに天恵だ! 瘴気に打ち勝つことができる貴様の力があれば、魔王の野望も阻止できるかもしれぬ!」


 あ、はい。


「雨奏カナタ。貴様には我々の組織のボスになってほしい」


 組織のボス……?


「秘密結社ギルドギア。数年前、魔王に対抗するために作った組織だ。全国にいる我々と同じ野望を抱く者たちで構成されている。もちろん、組織の目的は魔王の野望を打ち砕くことだ」


 ダメだ。さっきから内容がまったく頭にはいってこない。


「だが現状、我々だけでは魔王に対抗するのは不可能。そこで貴様の力を借りたい。雨奏カナタ。どうか我々のボスになってはいただけぬか!」


「私のほうからもよろしくお願いします!!」


 そう言って、妹の由紀は頭を深く頭をさげた。姉のほうは偉そうにふんぞり返っているけど。

 

 悲報。

 どうやら、彼女たちはただの中二病のようです。

 瘴気とか魔王とか秘密結社とか意味わかんねぇよ。どうみても作り話だ。


『ご主人さま、彼女たちを鑑定しましょうか?』


 えっ……? 

 ふと、鑑定スキルが語りかけてきた。


『わたくしなら、彼女たちが嘘ついているかどうか鑑定できますよ』


 そんなことも鑑定できるのか。


「頼む」


 小声でオレはそう告げた。


『鑑定結果、両名とも嘘つきです』


 やっぱりぃいいいいいいいいいいい!!

 いや、鑑定されなくてもわかっていたけどさ!


『彼女たちは行き過ぎた中二病ゆえに、現実と空想がごっちゃになってしまったのでしょう』


「ちなみにどこからどこまでが嘘なんだ……?」


『全部です』


「オレが強いってのは?」


『一番ありえない嘘ですね』


 だよね! 知ってはいたけどさ!! 

 ちくしょー!!







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