―25― 相談

「雨奏さーん、こっちです!」


 待ち合わせ場所に向かうと、すでに彩雲堂さんが待っていた。


「悪い、待たせたか?」


「いえ、わたしもちょうど今、来たところです」


 彼女はそう言って微笑む。

 彩雲堂さん、良い子だしかわいいし、こういう子が嘘ついていると思えないんだよなぁ。だから、タイミングを見計らって、昨日の言葉を確認しないと。


「そうだ、せっかくですし、どこかでお昼でも食べませんか?」


「あぁ、もちろんいいよ」


「今日はわたしが奢りますね」


「いや、流石にそれは悪いって」


「いえ、昨日のお礼もしたいですし、それに今日はわたしの用事のために来てもらったわけですし、奢らないわけにはいきません。いえ、むしろ奢らせてください! わたしこう見えて探索者としてけっこう稼いでいますので、気にする必要はありませんので」


「まぁ、そこまで言うなら、奢らせてもらおうかな」


「はい、それじゃあお店に行きましょうか。どこに行きましょうか」


「そうだな……」


 と頷いてから気がつく。

 あれ? オレって外食できなくね? モンスターの肉以外受け付けない体になった以上、このままついていくわけにいかないよな。


「あ、あの、悪いんだけどさ……」


 断るのは忍びないけど、言わないわけにはいかないし。


「オレ、モンスターのお肉以外食べられない体質なんだよね」


「えっ……?」


 彩雲堂さんがポカンとした表情をしていた。

 やっぱ変だよな。普通のご飯が食べられないって。


「その、探索者ってさ、長期間ダンジョンを攻略するとき、モンスターのお肉を食料代わりに食べるじゃん」


「んん……?」


 あれ? 彩雲堂さんがいかにも納得してない表情をしている。まぁ、いいや。このまま話を進めよう。


「それで、オレも長いことダンジョンにいた時期があって、そのときにモンスターのお肉ばかり食べていたらさ、その弊害で普通の食べ物を受けつけない体になっちゃったんだよね」


「……………………」


 なぜか彩雲堂さんが固まっていた。

 想定してない反応だ。あれー? オレなんか変なこと言ったかなー?


「雨奏さん、モンスターのお肉を食べたら普通は死にますよ」


「えっ、そんなことないと思うけど。だって昨日のライトニングバードも残さず食べたし」


「えぇええええええええええええええっ!?」


 なぜか彩雲堂さんが絶叫してた。

 これはいったいどういうことだ……?



 その後、ひとまず俺たちはカフェに向かうことにした。

 彩雲堂さんはコーヒーとマフィンを頼み、オレはコーヒーのみを頼む。自宅では飲み物に関しては問題なく飲むことができたので、コーヒーも多分大丈夫だろうということで頼んだ。

 恐る恐る飲んでみる。

 あっ、おいしい。

 やっぱり飲み物は大丈夫なようだ。


「雨奏さんの強さの秘密がわかった気がします! モンスターを食らうことでその強さを手に入れたのですね!!」


 横で彩雲堂さんが興奮した様子でまくしたてる。

 やべぇ、今更ながら手が震えてきたんだが。


「なぁ、オレってそんなに強いんかな?」


「はい、雨奏さんはとっても強いですよ」


「その、強いってどのくらい?」


「うーん、普通にこの国でもトップクラスに強いと思います。10本の指に余裕で入るんじゃないですか」


「ま、マジで……?」


「はい、大マジです」


 オレってそんなに強いの?

 ふと、思い出す。

 オレはダンジョンに潜ろうと思ったのは、推しの婚約発表だった。

 推しが探索者ランキング一位の武藤健吾という男と結婚するという事実に絶望したんだ。

 オレも強くなってアイドルと結婚してやると無謀な夢を掲げていたけど、もしかして意外と現実的なのでは。


 そうか、オレって強いのか。

 やべぇ、ニヤけてしまいそう。

 ぐへへっ、本当にアイドルと結婚できたりして。


 あれ……? でも、オレって適正ランクFだよな? そのオレが強いってどういうことだ?


「あの、それで雨奏さんに相談ごとがあるんですが」


 彩雲堂さんは真剣そうな眼差しを向けていた。

 そういえば、もともと相談したいことがあるってことで呼び出されたんだった。


「実はわたしにお姉ちゃんがいて、ぜひ雨奏さんにお姉ちゃんと会って欲しいんです」


「えっと、それはなんで……?」


「その、口頭で説明するのは難しいんですが、わたしのお姉ちゃんはとある病に罹っていまして、もしかしたら雨奏さんならお姉ちゃんを治せるかもしれないんです」


「そう言われても、オレ医者ではないし」


「いえ、お姉ちゃんの病気はお医者さんが治せるような普通な病気ではなくて、その、とにかく一度会ってはいただけないでしょうか! その、雨奏さんしか頼れる人がいないんです! お願いします!」


 そう言って、彼女は深く頭を下げた。

 あまり事情を把握できていないけど、こんなふうにお願いされたら無碍にするわけにもいかない。それに、彼女が人を騙すような悪い人ではないのは、何度か言葉を交わしただけでわかった。そんな彼女の助けになってあげたい。


「オレにその病気を治せるとは思えないけど、それでいいなら」


「ありがとうございます!」


 頭をあげた彼女は涙ぐんでいた。

 よほど、嬉しかったようだ。








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