―24― 疑惑

「雨奏さん、大丈夫ですか!?」


 武田たち四人を成敗した後、彩雲堂さんが駆け寄ってきた。


「あれ? 足が治っている」


 彩雲堂さんはさっき両足が骨折していたはずなのに、なんの不自由もなく足を動かしていた。


「足なら治しました。少し時間がかかってしまいましたが」


 そう言いつつ、平気だってことを伝えるためか片足を動かしてみせた。

 どうやら彩雲堂は治癒系統のスキルを所持しているらしい。流石、Cランクだ。


 ライトニングバードはダンジョンのボスのため、それを倒した時点でダンジョンはクリアだった。

 転移陣があり、それを踏めば外にでることができ、同時にダンジョンは消える。

 もちろん、その際、魔石やモンスターの肉など獲得したものをちゃんと持って帰る。

 ライトニングバードはそれなりに大きいので、これを持ち歩くのはけっこう目立つな。


 あと、武田たちの処遇など煩雑な処理は彩雲堂さんが率先してやってくれた。

 ダンジョン協会という不正行為を取り締まる組織があるらしく、彼らを呼んで事情を説明する必要があった。

 協会の人たちはオレたちの話を疑うことなく聞いてくれた。

 気になったのは、武田たちを倒したのがオレではなく彩雲堂さんだと勘違いしてそうなことぐらいか。別に、名声を得たいわけじゃないのでいいんだけどね。

 後から武田たちからも事情をうかがう必要があるらしいが、オレたちの話が全面的に認められれば、彼らは探索者の資格を失い、その上罰則もあるとの説明を受けた。


「あの、雨奏さん、連絡先交換してくれませんか?」


 別れ際、彩雲堂さんが駆け寄ってきては、スマートフォンを片手に緊張した面持ちでそう告げた。


「もちろん構わないけど」


 むしろ同じ探索者として相談できる相手がほしいと思っていたところだ。


「その、今度雨奏さんに相談にのってほしいことがありまして……」


 どうやら彩雲堂さんもオレに相談したいことがあるようだ。


「えっと、オレなんて大した人間じゃないから、相談相手として相応しいと思わないけど」


 Fランクのオレに相談事を解決する能力があるとは思えない。


「いえ、そんなことないですよ! わたし、雨奏さんの戦いを見てとっても感動しました! 雨奏さんってとっても強いんですね!!」


 え? オレが強いだと……?


「いや、オレなんて全然大したことないよ。Fランクだし」


「はぅ! そんな謙遜するなんて、人間ができすぎですよ!」


 彩雲堂さんは目をうっとりさせた表情をしていた。

 いや、謙遜じゃなくて本当にオレは大したことないんだが。これはちゃんと誤解を解いとかないと後々まずいことになりそうだな。


「あの、彩雲堂さん。オレはこの通りFランクだからさ、さっき勝てたのは相手が弱かったからで、オレ自身はそんなに強くないよ」


 そう説明すると、彩雲堂さんは「え……?」と呟いて目を丸くしていた。


「もしかして、自覚がないんですか?」


 なんの自覚だ?


「雨奏さんが今日戦った人たちやモンスターはそれなりに強いですよ。それをいともたやすく倒した雨奏さんは探索者の中でもトップクラスに強いです」


 なんだと……?

 頭の中に衝撃が走っていた。


「確かに、雨奏さんの適性ランクがFなのは不思議ではありますが」


 彩雲堂さんはなにかを言っていたが、もうオレの頭の中にはいってこなかった。



 帰宅してからというもの、オレは悶々とした時間を過ごしていた。

 ライトニングバードはおいしくいただいたが。

 彩雲堂さんの言葉をずっと頭の中で考えていたのだ。

 今までオレが倒したのはFランクの雑魚ばかり。Fランクを倒したぐらいで、オレの評価は簡単に覆らない。

 オレは最弱の探索者だ。


 だけど、彩雲堂さんの語った言葉がもし本当なら……?


「連絡がきてるな」


 スマートフォンの通知が鳴ったと思ったら彩雲堂さんからだった。

 早速、明日会えないか、といった文面だった。

 相談したいことがあるらしい。

 オレも彩雲堂さんに会って、確かめたいと思っていたから了承する。


 緊張するな。

 もし、彩雲堂さんが本当のことを言っていたとしたら、オレはどうなるんだ?


「…………全然、眠くならねぇ」


 深夜になったのでベッドに入って寝ようとしたのに、目が冴えて寝れそうになかった。


「ひとっ走りしてくるか」


 ダンジョンの中で励んでいた自主トレを行えば眠くなるだろ。

 そう思って、外にでてランニングを始める。


「ダメだ! まったく眠くならねぇ」


 帰ってきて疲労がそれなりに蓄積したが、それでも眠くはならなかった。


「よし、筋トレだ!」


 筋トレすれば眠くなるだろ。

 それからずっと筋トレをしていた。


 気がつけば、もう朝である。 

 朝になったというのに、まだ目が冴えてるんだが。


「もしかして、オレの体内時計が狂っているのでは?」


 オレはいつが昼なのかわからないダンジョンの中にずっと閉じ込められていた。

 だから、眠くなれば寝る生活を続けてきたわけで。

 そして、眠くなれば、一日が経ったんだろうと勝手に思っていたが、そんなことはなかった説が浮上してきた。

 もし、オレの中で24時間の感覚が大きくズレていたとしたら、ダンジョンの中に1年こもっていたという感覚も大きくズレていたことになるので、もしかしたら、想像よりも長いことダンジョンにいたことなるような……。

 よし、考えるのをやめよう。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る