―23― 制裁

「おい、なんでお前らが生きているんだ!?」


 思考が中断される。

 武田たち四人の探索者が戻ってきたようだ。


「はっはっはっ、これは驚いたなぁ。まさかライトニングバードを一人で倒すとはなぁ」


 武田は高笑いして、彩雲堂さんのことを見ているようだ。

 どうやら彩雲堂さんがライトニングバードを倒したと思っているようだ。Fランクモンスター倒したぐらいで、そんな驚くことではないと思うが。

 って冷静に考えれば、彩雲堂さんは両足を骨折しているし、その状態で倒すのはすごいかもな。オレも片足が骨折した状態でモンスターを倒したことはあるが、両足はない。

 あと、オレが倒したと思われないのはちょっと悲しい。世間においてFランクの評価は想像以上に低いのかもしれない。


「おい、お前らがオレたちを嵌めたのか?」


 ともかく、こいつらのやったことは許されないことだ。


「なに、てめぇがイキってんだよ。Fランクなんか、その気になれば、簡単に潰すことができるんだよ」


「うっ……」


 確かに、彼の言うとおりだ。

 武田さんはCランク探索者。オレの敵う相手ではない。

 彼がその気になれば、オレなんか一瞬で殺される。


「おい、なんのマネだ」


 オレが両手を上にあげると武田がそう言った。


「降参だ。お前らの目的はなんだ?」


「フッハハッ、賢明だな。お前が腰に差している剣をこっちによこせ」


 ん? このFランクの価値しかない〈貧弱の剣〉がほしいのか?


「あぁ、答えは聞かずともわかるわ。無理だということがね! だから、こうして強硬手段に――」


「いいぞ」


「え?」


「ほら、好きに持っていけよ」


 ポイっと〈貧弱の剣〉を武田の足元に放り投げる。


「えぇ……? も、もらっちゃっていいのぉ!?」


 なんかめっちゃ驚いているんだけど。

 えー? 逆になんでこんな剣が欲しいんだ。


「と、ともかく、この剣はありがたくもらうぜ」


 戸惑った様子で武田さんは床に転がっている〈貧弱の剣〉を拾おうとする。


「おい、こいつらの狙いがわかったぞ」


 隣にいた山田さんが口を挟んだ。


「こいつらきっとこの状況をこっそり動画にでも残して、後で協会にオレたちのことをチクるつもりだ」


 いや、まったくそんなこと考えてないけど。


「なるほど、そういうことか。とんだ策士だな」


 ニタリと武田さんは笑っていた。策を見破られて残念だな、とでも言いたげだ。

 だから、策なんてないわ。


「えっと、チクるつもりないから持っていけよ」


〈貧弱の剣〉なんて本当にいらなんだよ。まぁ、彩雲堂さんを怪我させられて、それを咎めることができないのは悔しいが命には変えられない。

 

「ふん、嘘だな。俺にはわかるんだ。こいつの顔、嘘ついている顔だ」


「だから嘘じゃねぇっての!」


 え? なんなんこいつら。マジで会話が通じないんだけど。探索者って脳みそに筋肉詰まっているんか。


「武田よぉ、こいつら、どうする?」


 山田が武田にそう聞く。


「そんなの一つに決まっているだろ」


 武田が拳を握り締めながら近づいてくる。


「ボッコボッコにしてやる。そうすれば、こいつらも怖くて俺たちに歯向かえなくなるだろ」


 くっそマジか。

 どうする? だって、あのハイオーガよりも強いやつなんて、絶対に勝てるはずがない。


「す、すみませんでした……!! これで勘弁してください!」


 必殺、土下座。

 オレは頭を地面にこすりつけて、土下座していた。ここまで誠意を見せれば許してくれるはずだ。


「うるせー、土下座ごときで許すはずがないだろ。てめぇはボコボコ確定なんだよ」


 ドカッ、と蹴り飛ばされる。

 それから、ボコッ、ボコッ、と顔を何度も殴られる。


「ガッハハッ、おい、どんな気分だぁ! この負け犬が! 二度と舐めた口が効けねぇようにしてやる! このぉ! このぉ!」


 武田は興奮した様子で何度も何度も拳で殴り飛ばす。その度に、口の中が切れ血がでる。

 ……おかしい。

 これはどういうことだ?

 オレは殴られながらも、頭の中は疑問でいっぱいだった。


 まったくパンチが痛くないんだが……。

 相手は俺なんかよりも格上のCランク探索者だ。E++のハイオーガなんて、動きを目で追うことすらできなかった。

 それより強いってことはパンチ一つだけで村を吹き飛ばすぐらいできると思っていたのに。

 なんだ、このへなちょこパンチは。

 まさか、オレはとんでもない勘違いをしているんじゃないか?


 例えば、そうをつかれているとか――。


 もし、嘘をつかれているならこの状況を説明できる。


「なぁ、鑑定スキル」


 ゆっくりとした口調でオレは告げる。

 今すぐにも確認しなくてはならないことがある。


「こいつらのランクを教えてくれ」


『その言葉をお待ちしておりましたご主人さま。鑑定結果、武田龍一、山田浩二、他二名、全員、適性ランクFです』


「やっぱり嘘じゃねぇかぁあああああああああ!!」


 ドカンッ、とオレに馬乗りになっていた武田を殴り飛ばす。


「くそっ、ビビって損した」


 けど、納得だ。

 武田がCランクでなくFランクならこの弱さも納得である。くそっ、オレをビビらせるために嘘つきやがって。マジで許さねーぞ。


「お、おい、なんだその力は……!?」


 殴られては泡を吹いた武田を見て、山田がビビっていた。

 あん? なにに驚いているんだ?

 にらみつけると、山田は体をブルリと震わせた。


「う、うわぁああああああああああああああ!!」


 なにを思ったのか山田は剣を片手に絶叫しながら闇雲に突っ込んできた。

 あまりにも稚拙な攻撃だ。

 だから、彼の後ろに回り込んで、チョップしては吹き飛ばす。


「発火」


 発火スキルで炎の渦を発射する。おっと外してしまった。炎の渦は壁を貫通して、周囲を黒焦げにした。


「な、なんだこの威力は!?」


「ん? いったいなにに驚いているんだよ」


「お、お前、本当にFランクか……? だって、あまりにも強すぎだろ!?」


 ……あん? なに言ってんだ、こいつ?

 呆れすぎて、思わずため息をしてしまいそうだ。


「あのな、オレはFランクだぜ。人よりも努力したから、お前らよりは強いかもしれんけど、所詮オレはFランクなんだから、誰よりも弱いに決まっているだろ」


「そんなわけあるかぁッ!?」


「そんなわけあるんだよ!! この世間知らずがッッ!!」


 ボカンッ! と、山田を殴り飛ばす。

 山田は「ぐべぼっ」と呻き声をあげて、壁に陥没しては気絶した。

 鉄拳制裁完了。


「あとは、お前らだけだな」


 武田と山田はもう気を失っているが、あと二人仲間の探索者がいた。


「あ……あの、俺たちは命令されただけで、本当はこんなことしたくなかったんだ!」


「あぁ、そうだ。だから頼む! 許してくれッ!!」


 二人は懇願した。どっちもオレが怖いのかガクガクと震えている。あぁ、しかも漏らしてやがって。くさっ。


「まぁ、反省しているようだし、許してやってもいいか」


 武田と山田が主犯なのは明らかだしな。あいつらに比べたら、そんなに悪くない。


「ありがとう!」


「一生恩に着る!」


 二人は感極まった様子で手を合わせてお辞儀をした。


「なんて嘘っでーす。残念でしたー」


 あはっ、人を一度持ち上げてから地獄に落とすのって最高に楽しいなぁ。


「「え?」」


「許すわけないだろ、このボケがぁッ!!」


 二人とも拳で叩きのめす。


「だ、騙された……」


「こ、この卑怯者……」


 二人とも気絶する間際、なにか言ってたようだがよく聞こえなかった。



「す、すごい……」


 彩雲堂由紀はただひたすら感嘆していた。

 雨奏カナタの圧倒的強さ。あまりにも圧倒的すぎて、武田たち探索者たちではまったく相手になってなかった。

 彼がどの程の強さを持っているのか、まったく底が見えない。

 どんな敵を用意しても、彼なら一瞬で倒してしまう気がした。


「すごい、すごい、すごすぎです……!」


 すごい、という言葉が胸から溢れてとめることができない。

 それだけ彼の強さに衝撃を覚えていた。

 彩雲堂由紀はひとつの答えにたどり着いた。


「もしかして、彼は私が探していた人かも……!」


 そう言った彼女の瞳は輝いていた。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る