―15― ボス
ボスへと続く扉を開けるとそこには大広間があり、その中央に巨大なモンスターが鎮座していた。
「ん? あれはオーガか?」
目の前のそれを見て、中層の階層主のオーガを思い出す。
どことなくオーガに似ていたのだ。オーガなら何度も倒したことがあるので、簡単に倒せるけど。
いや、オーガじゃないな。
冷静に考えれば、ダンジョンのボスがEランクのオーガのわけがなかった。
よくよく観察すると、オーガと違い肌が黒く、その上一回り大きい。しかも光輝く巨大な大剣を持っていて、頭には巨大な二本の角が生えている。
きっと、オーガの上位種に違いない。
『鑑定結果、モンスター名〈オーガ〉、Eランクです』
「えっ? オーガなの? いや、どう見てもオーガじゃなくない? 明らかオーガよりも強そうだけど」
『いいえ、オーガです』
鑑定スキルはそう断言する。
まぁ、鑑定スキルが間違えるわけないしな。
オーガと聞いてなんだか拍子抜けだ。ボスを倒すためにけっこう努力したんだけどな。けど、意味なかったじゃん。
最初からボスがオーガと知っていたらもっと早くここに来たんだけどな。
ビビっていた自分がバカみたいだ。
「グォオオオオオオオオオオッッ!!」
気がつけば、オーガが雄叫びをあげながら近づいてきては大剣を振り下ろそうとしていた。
不意を突けたと思っているのか、目元が笑っている。
「遅いぞ」
短剣を振るう。
すると、オーガの体は真っ二つに分離した。オーガの上半身は舌を出しながら地面を転がる。
あまりにもあっけなくボスとの戦闘が終わってしまった。
「なんだ、本当にオーガかよ。オーガの上位種がこんなに弱いわけがないしな」
『もかしてワタクシの鑑定結果を疑っていたのですか?』
「いや、別にそういうわけでないけどさ」
鑑定スキルに咎められてちょっと気まずい。
「早いところ魔石を回収して帰宅するか」
帰ったら久々にベッドで寝たい。
「てか、どうやったらダンジョンの外に出られるんだ?」
てっきりボスを倒せば、ダンジョンの外まで転移できるのかなと思っていたが、そんなことが起きそうな気配はない。
『ボスを指定の時間以内に倒したことを確認しました』
「えっ?」
ふと、どこからともなくアナウンスのような声が聞こえた。
『条件達成により、隠しボスが出現します』
途端、地響きが聞こえる。
地面がパッカリと開いて、下からなにかが出てこようとしていた。
「隠しボスってなんだ!?」
突然の出来事に驚き慌てふためく。
こんなことがあるなんて流石に聞いてないぞ。きっととんでもなく強いモンスターが現れるに違いない。
「おいおい、流石に大きすぎるだろ……!?」
見た目はオーガにどことなく似ている。
けれど、目の前に現れたそれはさっきのオーガが小さく感じるほど、天井に頭が届きそうなぐらい巨大なモンスターだった。
肌は銀色に輝き、オーガにはなかったコウモリのような巨大な羽が生えていて、頭には三本の大きな角が生えていた。
『鑑定結果、ハイオーガです』
ハイオーガ。
やはりオーガの上位種のようだ。
きっとさっきのオーガとは比べものにならないほど、強いに違いない。
「ははっ、手が震えてきた」
もしかして、オレは恐怖を覚えているのだろうか。
いや、これは武者震いだ。
最初は不純な動機だった。自分も強くなってアイドルと結婚したいと思って、ダンジョンに潜った。ついでに大金も稼げればと思っていた。
けど、すぐ現実というものを思い知らされた。
ダンジョンというのは自分の想像以上に険しいところで、探索者というのはとんでもなくすごい存在だと。
Fランクのオレがいくらがんばっても並の探索者には敵わない。とっくの前に強くなってアイドルと結婚する夢は諦めた。
オレがいくら努力しても、トップランカーの人たちには届かないんだ。
それでも、オレはもっと強くなりたい。
そこに動機なんてものは一切ない。
ただ、本能がそう訴えかけているんだ。
だから、久々の格上のモンスターの登場に心が踊らないわけがなかった。
「隠しボスだがななんだか知らねぇが、お前を倒してオレはもっと強くなってやる」
『グォオオオオオオオッッ!!』
ハイオーガはオレの気持ちに応えるように雄叫びをあげた。
『ハイオーガの討伐ランクをお伝えします』
そういえば、討伐ランクをまだ聞いてなかったな。
これだけ強そうなモンスターなんだから、Eランクのオーガより確実に上。だから、最低でもDランク。いや、もっと上でもおかしくない。
Cランク? いや、Aランクでもオレは驚かないぞ。
『ハイオーガはEランクです』
「え?」
ハイオーガって、オーガと同じEランクなの? めちゃくちゃ弱いじゃん。
鑑定スキルの言葉を聞いた瞬間、思わず気を抜いてしまった。
それがいけなかった。
ハイオーガの右手の指からビームを出したのだった。
反射的にナイフで受け止める。すると、ビームは反射して、壁に粉々に砕く。もし当たっていたら、確実に死んでいた。
「グハッ!!」
ビームはただの囮だった。
本命はこっち。
ハイオーガは持っていた金棒でオレの腹を殴りつけた。ビームと変わらないぐらい早い動きで近づいてきたせいで対応できなかった。
攻撃をもろに受けたオレはそのまま壁に体がめり込む。
「どう見てもオーガよりも格上じゃねぇか」
これがEランクとか絶対にあり得ない。どうなってんだよ、鑑定スキル。
『ご主人様、一つお伝えすることがあります。正確にはハイオーガのランクはEの一つ上のE+です。ちなみに、さきほどのオーガは正確には、E-です。今まで+や-といった細かい表記は省略していましたが必要と感じましたので補足致しました』
なるほど、それなら納得だ。
Eの中でも、E-、E、E+と三つに分類できるんだろう。
つまり、目の前のハイオーガはオーガよりも二段階もランクが高いということか。それなら、オーガよりも圧倒的に強くて当然だ。
「どうやらオレは想像以上に井の中の蛙だったようだな」
まさか目の前のハイオーガでさえ、Dランクに達しないとは本当に世界は広すぎる。
だが、今はそんなことを考えるより、ハイオーガをどう攻略するか考えるほうが先決だ。
ハイオーガは再びビームを放つ。
紙一重でかわすと、再びビームをうってきた。ハイオーガは無尽蔵にビームを撃てるようで、次々と放ってくる。
「クソッ」
頬にビームが微かに触れて、線のような切り傷ができる。
このままだとジリ貧だな。
ビームをどうにかしないと、こっちから攻撃をしかけることが難しい。
「
土生成スキルを使って土の壁を作る。
スキルを使って複雑な工程を行ないたい場合、その工程に名前をつけることで管理しやすくなり、また咄嗟に出しやすいという利点があることに以前気がついた。
ゆえに、
土の壁をものともせずハイオーガはビームを出す。
結果、土の壁はいとも容易く破壊される。
だが、これでいい。
「おらぁあああ、ハイオーガ! さっきからどこ狙ってるんだよ! 全然当たらないぞ!」
人間の言葉がモンスターに伝わるかわからないけど、試しに煽ってみるとオーガはうなり声を上げたので、どうやら伝わってはいるみたいだ。
「
次々と土の壁を作っていく。
すかさずハイオーガがビームで壊していくが、オレはこの行動をいっさいやめるつもりない。
そして、部屋中に土の壁を作りまくった。
これで、オレがどこにいるかわからなくなっただろ。
その証拠にハイオーガによるビームは止んでいた。
そう、土の壁は守るためではなく、死角を作るために作っていたのだ。
ハイオーガはいつ、どこから、オレの攻撃がくるかと、神経を尖らせているに違いない。
さて、どうやって不意をついてやろうか。
◆
ハイオーガと鑑定されたモンスターは360度くまなく見回していた。
土の壁がいくつもできたせいで、探索者カナタを見失ってしまった。
きっと不意をついてくるはず。
けれど、ハイオーガと鑑定されたモンスターは内心余裕をこいてた。今までの戦いぶりであの探索者が自分よりも格下なのは明らかだ。
どれだけ不意をつかれようと、大したことはないだろうと高をくくっていた。
ドシュッ、となにかを貫く音が聞こえる。
突然、地面から木の枝が伸びてきた。その木の枝は槍のような鋭い形状になっては襲いかかってくる。
ヌルいわッ!!
思わずそう言いたくなるような攻撃だった。
ハイオーガと鑑定されたモンスターは金棒を一振りするだけで、木の槍を粉砕する。
「背中ががら空きだぜ!!」
――――ッッ!!
ビクリと体を震わせる。真後ろに探索者がいたのだ。
そして、気がつく。木の枝は地中深くを潜ることで、使用者と正反対の位置から姿を表していたことに。
まずいっ!?
そう思って、振り向こうとするも時はすでに遅かった。
「食らえ! オレの全力パンチ!!」
瞬間、探索者の拳を中心とした衝撃波が発生した。
視界がぶれ、頭がゆれる。
ハイオーガと鑑定とされたモンスターは盛大に壁に激突した。
◆
パンチされたハイオーガは壁へと盛大に激突した。途端、土埃が舞い視界が悪くなる。
「やったか!?」
って、このセリフはフラグになってしまうやつだ。
ヤバい、どうしよう!? いや、流石にあれだけの攻撃をくらってまだ生きてる、とかないだろ! だから、大丈夫に違いない!
「フハハハハッッ!! 俺様をここまで追い詰める者が現れるとは驚きだ」
それは土煙の中からのっそりと現れた。
ハイオーガよりも小柄だが、その洗練された肉体を見れば、ハイオーガよりも何倍も強いことがわかる。
だが、そんなことよりもオレは気になることがあった。
「モンスターがしゃべったぁああああ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます