―11― 2つのゲート

 オーガを倒した後、さらにダンジョンの先に進むと、ふと見覚えがないものがあった。


「ゲートが2つある」


 そう、どこかに繋がってそうなゲートが2つあった。

 片方のゲートは赤く、もう片方のゲートは青く光っている。


「これって鑑定スキルが言っていた出口だよな」


 階層主を倒せば出口が現れると鑑定スキルが言っていたことを思い出す。


「恐らく片方が上の階層に繋がっていて、もう片方が下の階層に繋がっているパターンだよな」


 ダンジョンというのは下に行けば行くほど難易度が高くなる。

 早いとこ、このダンジョンを脱出して自宅に帰りたいオレとしては当然上の階層へ行きたい。

 問題なのは、どっちのゲートで上の階層へ行くことができるのかまったくわからないことだよな。


「なぁ、鑑定スキル。このゲートがどこにつながっているか鑑定できたりしないか? 上の階層に戻れるほうに行きたいんだが」


 困ったらとりあえず鑑定スキルに質問する。これがオレ流ダンジョン攻略のコツだ。


『承知いたしました。鑑定してみます』


 おっ、どうやら鑑定できるようだ。やっぱ頼りになるわ。


『鑑定結果、赤いゲートはダンジョン下層へとつながっています』


 おっ、そうか。赤いゲートには絶対入らないようにしよう。鑑定しておいてよかった。


『青いゲートに入ると死にます』


「え? 今、なんて言った?」


『青いゲートに入ると死にます』


 聞き間違いじゃなかった。

 え、死ぬってなに? 入るだけで死ぬの? こんなやばいトラップがあるなんて、怖すぎだろ。

 オレは頼りになる鑑定スキルがあるから助かったけど、鑑定スキルがなかったら間違いなく死んでいた。

 そう思う背筋がゾッとする。

 相変わらずオレはダンジョンというのを舐めていたようだ。

 こんなヤバいダンジョンを日々攻略してる探索者ってマジですごいな。ホント尊敬しかない。


「えっと、上の階層に続くゲートってないのか?」


『あるかもしれませんが、現状わかりません』


「……そうか」


 どうしたものか……。

 この階層は10キロマラソンの際、いろんな場所を走ったが、上の階層へと戻れそうな場所は特に見当たらなかった。まだ探していない場所に心当たりとかないし。

 まさか上の階層には戻れなかったりして。ダンジョンが理不尽な場所だってことは散々思い知らされているし、そういう可能性がないこともないんだよな。


『ご主人様、提案があります』


「なんだ?」


 鑑定スキルが脳内で語りかけてきた。


『このダンジョンは難易度がもっとも低いF級ダンジョンです。ですので、オーガを倒せる実力を持つ今のご主人さまであれば、ボスを倒せてもおかしくはありません』


「そうなのか?」


『はい、ワタクシは鑑定スキルです。実力を図ることにおいて間違いを冒すことはありません』


 鑑定スキルが自信ありげにそう語った。

 ボスを倒せば外に出られることはダンジョンにあまり詳しくないオレでも知っていることだ。

 鑑定スキルの助言を参考にするなら、上の階層へと戻る道を進むより、このゲートをくぐってより下層へと潜ったほうが早く外に出られそうだな。


「よしっ、ボスを倒しに行くか」


 そう決意したオレは赤いゲートをくぐることにした。



 赤いゲートをくぐりダンジョン下層へと進む。

 すると早速モンスターが現れた。

 木のような見た目をしているが、顔もあり枝を自在に操って攻撃するモンスターのようだ。


「鑑定してくれ」


『鑑定結果、モンスター名〈トレント〉。Fランク』


 相変わらずFランクか。ホント弱いモンスターしか出てこないな。


「本当に下層にきたんだよな。中層のモンスターとランクが同じじゃねーか」


『中層のモンスターよりは多少強いですが、誤差の範囲でしたので同じランクとしました』


「なるほど、そういうこともあるのか」


 まぁ、ランクなんて5段階ぐらいしかないだろうし、細かく分類するのは無理なんだろう。


「それじゃあ、お手並み拝見といこうか」


 ナイフを握りしめて突撃する。

 トレントが枝を伸ばして貫こうとするが、この程度の動きなら簡単に避けられる。


「よしっ、これで食べられるようになった」


 目の前には細かく切り裂かれたトレンドがあった。

 いやー、最近お肉ばっかり食べていたからそろそろ野菜も食べたいと思っていたんだよな―。

 さんなわけで早速、いたたぎまーす!


「よくわからんけど、キャベツのみじん切りとおんなじ味がする!!」


 うまい! これならいくらでも食べられそうだ!

 ふぅ、ごちそうさま。



 さて、次なるおいしいモンスターを求めて、さらにダンジョン奥地へ潜っていく。いや、おいしいモンスターを求めてじゃなくて、ダンジョンの外にでるためだ。なんか目的が入れ替わっているぞ。


「なんだ、これ?」


 ふと、通路の脇に鉱石のようなものを見つけた。

 鉱石といえば魔石を思い出すが、魔石とは色や輝き方がまったく異なっていた。


「なぁ、これがなにかわかるか?」


『鑑定結果、白霊石です。ダンジョン内で時々産出される鉱石です。魔素を当てると色が変化する特徴から、その人の魔素量を計測するのに使われます』


 へー、この白霊石で魔素量を計測できるのか。

 試しにやってみようと触れてみる。魔素を貯めるために魔石なら散々飲み込んだからな。けっこうな魔素量が溜まっているんじゃないだろうか。


「あれ? まったく色が変化しない」


 触ってみるも白霊石は白いままで、なんの変化もない。


『魔素量が極端に少ないと、白霊石は一切変化しません。まだまだ精進が必要ですね』


 鑑定スキルが淡々と告げる。

 うっ、わかってはいたさ。オレは所詮、適正ランクF。魔素量が人よりも少ないのは自明の理だった。

 期待したオレがバカでした。


 と、次の瞬間、パリン!と、白霊石が粉々に砕けた。

 一体なにが?

 突撃の出来事にオレは驚く。

 あれ? なんだろう、この既視感。粉々に砕ける白霊石を見て、なにかを思い出しそうになる。

 ふと、オレはいったいなにを思ったのか無意識のうちに、粉々になった白霊石を指ですくい上げて口の中に入れていた。


「これ、塩じゃねーかよ!!」


 そう、既視感の正体は、粉々の白霊石が塩に似ていたのだ。

 そして、オレの予想通り白霊石は舐めるとちゃんとしょっぱかった。

 どうやらオレは調味料を手に入れたようだった!

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