―12― 鑑定結果、スキルのランクは……
トレントを食べ続けてからしばらくが経った。
「ついにスキルを手に入れたー!!」
右手が木の枝に変化したのだ!!
『鑑定結果、スキル名〈木化〉』
いや、トレントをたくさん食べたしね。そろそろスキルが手に入る頃合いかな、と思っていたんだよな。
「このスキル、意外と便利だな」
体を木に変化させるだけではなく、自在に枝を伸ばすこともできるし、枝を鋭い形状にして木製の槍やナイフなんてものも作れそうだ。
このスキルがあれば、戦いの戦略が広がりそうだな。
「さて、今日はまだデザートを食べていないんだよな」
それから再びダンジョン探索して、目的のモンスターを見つけることができた。
『鑑定結果、モンスター名〈スライム〉、Fランク』
現れたモンスターは丸っこいフォルムをしたかわいらしい見た目のモンスターだった。
このモンスターに限っては有名過ぎて、鑑定しなくても名前がわかった。
「てっきりスライムってもっと小さいモンスターだと思っていたが、意外と大きいんだよな」
スライムはオレの背丈を優に超える大きさをしていた。スライムって、てっきり膝の高さより小さいモンスターだと思っていたが勘違いだったようだ。
「それじゃあ調理開始といこうか」
最近、身を守るために戦っていると言うより、食べるために戦っている気がするな、とか思うこの頃である。
スキル〈木化〉で木の槍を複数だして、スライムをみじん切り。ただし、スライムは物理攻撃が効きにくいので、スキル〈発火〉を使ってとどめを出す。
スライムが無事動かなくなったをみて、調理完了といったところだ。
「あまくておいしい!! 味がゼリーに似ているんだよなぁ!」
スライムを口に含むとほのかに果汁の香りがして、優しい甘さとヌルヌルとした食感があわさって非常に美味である。
そして、最後にスライムの魔石を飲み込んでごちそうさま。
「スライムもけっこうな数を食べたし、そろそろスキルが開花してそうだよな」
スライムを食べて手に入れるスキルってどんなのだろうか。水とか出せたりするのかな。
とか思いつつ色々試してみると、手のひらから水の塊がでてきた。
『鑑定結果、スキル名〈水生成〉』
おっ、どうやら予想はあたったらしい。
これでさらに戦略の幅が広がった。
◆
「さて、次はこいつからスキルを手に入れたいんだよな」
『鑑定結果、モンスター名〈ゴーレム〉。Fランクです』
目の前にいたのは土でできた巨大なモンスターだった。
下層に来て以来、ゴーレムは何度も口にしているし、そろそろ新しいスキルが発現してもいい頃合いだと思っていた。
「グゴォオオオオオオオッッ!!」
稲光のような独特な轟音を鳴らしつつ、ゴーレムが襲いかかってくる。
それを回避しつつ、トレントで手に入れたスキル〈木化〉を使って、木製の槍で攻撃する。
「やっぱ硬いな」
木製の槍はゴーレムを貫こうとするも弾かれてしまう。
ゴーレムはその見た目通り体表が硬く防御力が高い。そう簡単には、倒れてはくれなさそうだ。
「まぁ、オレにはすでに仕掛けておいたトラップがあるんだけどな!!」
そう叫びながら手元の糸を引く。
すると、ゴーレムが大きく転倒した。そう、すでにゴーレムの足元に〈蜘蛛の糸〉を張り巡らせておいたのだ。
その糸にひっかかって転んだゴーレムはすぐに立ち上がれないため、今のうちに攻撃してしまおうという算段だ。
ただし、防御力の高いゴーレムを倒すにはちょっとやそっとの攻撃力では駄目だ。
オレの最大火力をお見舞いする必要がありそうだ。
オレは最近、あることに気がついた。
日々魔石を飲み込んでは魔素を体内に溜めているおかげで、オレの身体能力は以前に比べてとんでもなく強化されていることに。
しかも、魔素をコントロールすれば拳を重点的に強化することもできるので、下手にスキルを使うよりもパンチのほうが強いのだ。
そう、オレの最大火力。
それは全力のパンチだ!
「死ねぇええええええええッ!!」
全力で拳を繰り出す。
途端、ゴーレムが粉々に砕け散った。
討伐完了である。
さて、モンスターを倒せばお楽しみの実食タイムだ。
「いっただきまーす!!」
粉々に砕けたゴーレムをパクリ。
ゴーレムはまるでスコーンのような味がして、実においしい!
ほんのりバターとミルクの香りがして、表面はパリッと中はふんわり、程よい甘さなので無限に食べられそうだ。
「てか、モンスターがおいしい食べ物とおんなじ味するのって、おかしい気がするけど、そんなことないよな?」
ちょっと不安になってきた。
だって、ゴーレムがスコーンとおんなじ味がするって、冷静に考えるとヤバいぜ。
ちょっと前まではモンスターを食べるたびに吐いていたのにな。
『いえ、まったく正常かと。他の探索者もモンスターを食べる際、他の味に例えるそうですよ』
鑑定スキルが答えくれた。
「そっか」
鑑定スキルがそう言ってくれるなら安心だな。
食べ終わったら、スキルが発現していないか確認する作業だ。
ゴーレムだし土とかを操れるようになる気がする。
とか思って、魔素に意識していたら、手のひらから正方形の土の固まりが生成された。
「おっ! やっぱ最近のオレ冴えてるな!!」
『鑑定結果、スキル名〈土生成〉です』
「そうか! いやー、スキルもたくさん手に入れたし、今のオレってけっこう強いんじゃね?」
えっと、今持っているスキルって何個だ? 一つ、2つ、3つ……うーん、数えられないや。
『ご主人さま、あまり調子に乗らないでください』
「いや、こんだけスキル手に入ったら少しぐらい調子乗ったっていいだろ!」
なんで鑑定スキルはそんな冷めるようなことを言うんだよ!
『はぁ、では今までかわいそうだからとあえて伏せていましたが、ご主人さまに一つ現実をお伝えしようと思います』
鑑定スキルがため息混じりそう語る。
現実ってなんだよ。なんか怖いじゃねぇか。
「なにが言いたいんだよ……」
『今まで、ご主人さまはいくつかのスキルを手に入れてきましたが、そのスキルのランクをお伝えしようかと思います』
スキルにランクだと? そうか、モンスターや探索者と同様、スキルにもランクがあるのか。
「これだけスキルがあれば、一つぐらい高いランクのスキルあるだろ!」
『残念ながら全部Fランクでした』
「え?」
呆然とする。え? 全部Fランクなの?
「えっと、Fランクってちなみにどの程度ランクなの?」
実は一番下がKとかで、Fランクとかでもそれなりに強かったりしないかなー、と思いつつ聞いてみる。
『Fランクはもっとも弱くて価値のないスキルにつけられる称号です』
ですよね! いや、わかってはいたけどさ! ホントはFが最弱だって!
「えっ、全部Fなの?」
『はい、Fです』
「発火も?」
『はい、Fです』
「毒液は?」
『Fです』
「蜘蛛の糸は?」
『Fです』
「木化は?」
『Fですね』
「水生成はー?」
『Fです』
「土生成は違うと言ってくれ!」
『Fに決まっているじゃないですか』
マジか……。
オレのスキルどれも有用だと思っていたけど、そんなことないのかよ。オレのスキルでFってことは、世間の探索者はどんだけすごいスキルを持っているんだよ。
もう探索者って存在が怖いよ……。
「ちなみに、鑑定スキルもランクがあったりするのかな?」
そういえば、この鑑定スキルも数あるスキルの一つだったなー、とか思いつつ尋ねる。
『自分で言うのもなんですが、鑑定のランクはFの中のFです。もっとも無価値なスキルの一つです』
そっかー。
オレは鑑定スキル便利だと思うんだけどな―。
『何度も言いますが、ご主人さまの適正ランクは最弱のFです。ですから謙虚に地道に活動していくのをおすすめします』
「わかったよ……」
オレはしょんぼりしながらうなずくのだった。
鑑定スキルに現実をわからされちゃったな。
◆
「なぁ、ここってもしかして……?」
それからしばらくのときが経った。
今日も地道にダンジョンの奥へと進んでいくと、物々しい扉がある場所へとたどり着いたのである。
『はい、ここにダンジョンのボスがいます』
ついにオレはダンジョンの最下層にたどり着いたのだ。
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