―10― 激突
モンスターを食べたらスキルが手に入ることがわかったオレは今までおいしくなさそうだからという理由で避けていたモンスターも食べることにした。
「よしっ、今日はお前を食べてやる!」
指を指した先には、巨大な蜘蛛の見た目をしたモンスターがいた。
『鑑定結果、モンスター名〈クリムゾンスピネット〉。Fランク。非常弱いです』
鑑定スキルの言葉通りクリムゾンスピネットは非常に弱く、簡単に倒すことができた。
「早速実食タイムだ! 蜘蛛みたいな見た目だから食べるの避けていたけど、やっぱり食べず嫌いってよくないよな」
脚をぱくり。
むしゃむしゃ……めちゃくちゃ硬いけど、食べられないことはないな。むしろ、スナック菓子食べているみたいで意外といけるな。
最近、ずっと肉ばかり食べていたから食感が新鮮で案外うまいかも。
「ふぅ、食った食った」
数十分後、クリムゾンスピネットを残さず食べ終わった。
……てか、冷静に考えると、これだけ大きなモンスターを難なく食べられるとか、オレの胃袋どうなってんだ? 最初の頃はこんなに食べられなかったけど、日に日に食べられる量が増えている気がする。
「なぁ、鑑定スキル。食べる量が日に日におかしいことになっている気がするけど、オレって大丈夫かな?」
『他の探索者なら、もっと食べますよ。特に心配する必要はありません』
マジか。探索者ってマジぱねぇ。ダンジョンに入ってから、探索者に対するリスペクトがあがっていく一方だ。
「クリムゾンスピネットを食べ終わったけど、スキル増えてないよな?」
体内の魔素を意識してみるが特に変わった様子はない。
『鑑定結果、新しいスキルはありませんでした』
ふむ、一匹食べただけではスキルが増えないようだ。よしっ、新しいスキルが手に入るまでクリムゾンスピネットを毎日食べるようにしよう。
それからクリムゾンスピネットの体内にあった魔石を飲み込む。
ちょっと前までは魔石を飲み込むたびに気分がおかしくなっては気絶していたが、最近はちょっとした不快感に襲われるぐらいでなんともなくなってしまった。
鑑定スキル曰く『普通の探索者は魔石を飲んだぐらいでは気絶しません』と言っていたので、これも大したことではないのだろう。
◆
それから毎日、オレはクリムゾンスピネットを倒して食べまくった。食べて筋トレして寝るというルーチンをひたすら繰り返したのだ。
「そろそろ新しいスキルを手に入れてもおかしくないよな」
クリムゾンスピネットを食べ始めてからけっこう経つぞ。流石に味に飽きてきた。
スキルを手に入れた瞬間、なんらかの明確な変化があればわかりやすいんだが、特にそういうのはなさそうなんだよな。
「糸とか出せるようになってないかな」
クリムゾンスピネットは糸を操って戦う。だから、クリムゾンスピネットを食べれば糸に関するスキルを手に入れられそうなんだが。
ダメ元で試してみるか。
スキルを使用する際、ただ闇雲に使うよりは魔素をコントロールしながら使ったほうが断然効果的だということを最近知った。
最近手に入れた〈発火〉というスキルも最初は小さな炎しか出せなかったが、魔素をコントロールすることで大きな火の玉を作り出せすことができたのだ。
なので、今回も糸の形状を生み出すイメージをしながら魔素をコントロールする。
すると、手のひらから白くて細い糸が生み出された。
触ってみると、ネバネバしてる。どう見てもクリムゾンスピネットと同じ糸だ。
「おぉ! やっとスキルが手に入った……!!」
『鑑定結果、スキル名、蜘蛛の糸です』
それからしばらく糸を操る特訓をつづける。
糸をうまく使えば、モンスターの捕獲や高いところの移動など、いろんな活用ができそうだ。これはなかなか便利なスキルだな。
どうやらオレは順調に強くなっているようだ。
「なぁ、鑑定スキル。そろそろオーガを倒せるんじゃないかと思うがどう思う?」
オーガを倒せるようになるためにオレは日々特訓していたことを思い出す。
『そう思うなら、戦ってみればいいと思います』
なんとも投げやりな解答だ。
とはいえ、もし戦ってみて勝てないと悟ったら逃げればいいし、一度戦ってみるか。
◆
あれがオーガだな。
通路を塞ぐように巨大な図体をしたモンスターが立っていた。
オーガに手を足も出なかったときのことを思い出す。あのときはマジで死ぬかと思った。
うっ、冷や汗が額からたれてきたな。緊張するとかオレらしくない。
とはいえ、今まで戦ってきたFランクのモンスターと違いオーガはEランクと一段上。
苦戦するのは必然だ。
だけど、今のオレは魔石を数え切れないほど飲み込んだし、筋トレだってめちゃくちゃがんばった。
新しいスキルも獲得したし、魔素のコントロールだってできる。
勝てるはずだ。
「よしっ」
ナイフを握りしめ、オレはオーガへと突撃する。
「しねぇ!!」
ナイフを大きく上下に振りかざす。
すると、オーガの体は真っ二つに分かれてそのまま絶命した。
「――え?」
一瞬、なにが起きたのか理解できなかった。
いや、だってあのオーガが一撃で倒れたんだぜ。
てっきり、新しく手に入れたスキルを工夫しながら善戦しようとか、色々作戦を練っていたのに、全部無駄になってしまった。
「オーガを一撃で倒せるとか、オレってとんでもなく強いんじゃね?」
もしかすると、ダンジョンで特訓をした結果、知らないうちにオレはとんでもなく強なってしまったのかもしれない。
『自惚れないでください』
ピシャリ、と鑑定スキルが冷たい口調でそう告げた。
『オーガの討伐ランクはE級。下から二番目です。はっきり言ってクソ雑魚モンスターです。どんな探索者でも、一撃で倒せます。ですので、ご主人様はようやっと人並みより一段落ちる程度の強さを手に入れただけですので、強くなったなどと勘違いをなさらないでください』
「いや、わかってはいたけどさ! 所詮、オレはFランク探索者だよ!」
鑑定スキルに現実を見せられましたとさ。
これからは調子乗らないように気をつけます。
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