―09― スキルの発現
ダンジョンに長いこといるせいで時間感覚がわからなくなってしまった。
太陽が昇らないので、いつが朝でいつが夜なのかわからない。眠くなったら寝るし、お腹が空いたらモンスターの肉を食べる。
そして、鑑定スキルに急かされて筋トレとランニングを続ける。
と、こんな感じで毎日を過ごしているわけだが、ダンジョンに入ってどれだけの時間が経ったのかすっかり見当がつかなくなってしまった。
一応、個人的な感覚としてはダンジョンに潜ってから二週間近く経っている気がするが、この感覚があっているか正直自信がない。
「なぁ、鑑定スキル。ダンジョンに潜ってから、どれだけ時間が経っているかわかるか?」
ダンジョンの中で見つけたため池で顔を洗いつつ、鑑定スキルに聞く。
『さぁ、わかりません』
なんでわからないんだよ。他のことに関しては詳しいくせに。
「夏休みが終わるまでにはダンジョンの外に出たいんだけどな」
けど、この調子なら難しいかもしれんな。
てか、今のオレって行方不明だよな。失踪届とかだされて騒ぎになっていたら嫌だな。……よく考えたら、オレがいないことに気がつくやつなんて家族含めていなかったわ。
ともかく、無事このダンジョンを出るために今日も特訓だ。
最近、自分の体がおかしい。
あれだけ嫌だったモンスターの肉が最近、おいしいと感じるようになってしまった。あげくの果てには、モンスターを見るとヨダレがでてくるようになったし。
「なぁ、モンスターのお肉をおいしいと思うのって異常だったりしないかな?」
不安だったので鑑定スキルに尋ねる。
『ようやっと一般的な探索者の感覚に近づけたようですね。喜ばしいです』
「マジか。これが普通の探索者の感覚だったのか……」
どうやらオレの体は異常ではないらしい。そういうことなら安心だ。
とか、思っていると、お腹が『ぐぅ~』と鳴る。
最近、食欲も増している気がするんだよな。
とはいえ、お腹が空いたのでモンスターを探しに、ダンジョンを彷徨くことにした。
「キシェエエエエエエエッッ!!」
見ると、目の前にコカトリスがいた。
散々戦っては食べてきたモンスターだ。
コカトリスは他のモンスターに比べると、味が淡泊であっさりしている。毒がアクセントになっていて、最高なんだよな。
唐揚げとかにあいそうだが、他の材料は持っていないのが非常に残念である。
てか、モンスターの肉を食べまくったせいか、味の違いがわかるようになってしまったんだよな。
「よし、早速食べるか」
ナイフを手に突撃すると、コカトリスがくちばしから毒を噴射する。
無視。耐性がついたのか、コカトリスの毒はかかっても大した影響を受けなくなってしまった。ちょっとだけ皮膚が溶けちゃうけど。
ちなみに、鑑定スキル曰く『毒をくらってもその程度済むなんて、ようやっと普通の探索者らしくなりましたね』ということらしい。
コカトリスの首を掴んで、確実にナイフで両断する。
そして、肉の断片を解体して一口食べる。
「うん、生で食べてもうまいな」
あれだけ生で食べるのを嫌がっていたのに、今は進んで生で食べられるようになってしまった。とはいえ、焼いたお肉もそれはそれでおいしいんだよな。
コカトリスの毒で舌が痺れるのが最高にたまらん。
「毎回、焼くためにサラマンダーを見つけなくてはいけないのが面倒なんだよな」
焼いて食べる分だけ残しといたのを持ち歩きつつサラマンダーを探す。
「やっと、見つけた」
目の前に炎を身に纏ったトカゲのようなモンスター、サラマンダーがいた。
三十分ほど歩き回っていたせいかまたお腹が空いてきたな。オレの食欲どうなってんだか。
「それじゃあ、大人しくしてろよ」
焼き加減はどうしようか。
この前はウェルダンにしたから今日はレアだな。
そんなわけで、サラマンダーに突撃する。
そういえば、最近サラマンダーの炎をくらっても熱いとか思わなくなってしまった。サラマンダーをたくさん食べたせいか?
鑑定スキルに聞いたら、『この程度の炎、普通の探索者は効かないです』と言っていたんで、大したことではないんだろう。
数分後、コカトリスのお肉をサラマンダーの炎を利用して上手に焼くことができた。
「もうお前には用はねぇ!」
サラマンダーの炎は活用したわけだし、倒してしまう。もちろん、サラマンダーもおいしくいただく。
今の成長したオレなら一撃で倒すことができた。とはいえ、慢心してはいけない。鑑定スキル曰く、探索者ならこの程度普通のことのようだから。
「せっかくだし、サラマンダーも焼いて食べたいな」
今まで、サラマンダーの肉は何度も食べたことがあるが、毎回生で食べている。だって、サラマンダーを食べるためにサラマンダーを探すとか面倒じゃん。
とはいえ、たまには焼いたサラマンダーも食べたい。
「手から炎とかでてうまいこと焼けてくれたりしないかなー」
とか言ってみる。
まぁ、そんな都合の良いこと起こるわけが――
ぼふっ、と手のひらから炎がでた。
「ん、んんんん――――!? えぇええええ!? どういうことぉぉおお!?」
なんでー? なんで手から炎がー? まさかオレの体がおかしくなったのか?
「おい、鑑定スキル! どういうことか鑑定できるか!?」
慌ててオレは叫ぶ。
『なにをいったい驚いているんでしょうか。探索者なら炎を出すぐらい当たり前にできますよ』
「そうかもしれないけどさ! でも、昨日まで炎なんてだせなかったオレがなんで急にできるようになったか聞いているわけ!!」
『なるほど。では、鑑定致します』
そう言うと、鑑定スキルは数秒へど沈黙した後、再び言葉を紡いだ。
『鑑定結果、新しいスキルを発現しています。スキル名、発火』
新しいスキルを発現しているだと!?
どうやらオレは持っているスキルが『鑑定』だけという最悪の状況から脱することができたらしい。
「うぉおおおおおおお!! これはけっこううれしいやつだー!」
『あまり自惚れないでください。発火は炎系統のスキルで最弱です』
すかさず鑑定スキルが現実を見せてくる。いや、スキルが一つ増えたぐらいで最弱のレッテルが剥がれないことぐらいわかっていたけどさ。
「というか、なんで新しいスキルを手に入れたんだ? まったく心当たりがないんだが」
『サラマンダーを大量に摂取したおかげでしょう』
「マジか」
モンスターの肉を食べると、そのモンスターに対応したスキルが増えるのかよ。
待てよ、他の探索者も日常的にモンスターを食べているんだよな。ってことは、そのたびにスキルが増えていくわけで……。ということは、これってけっこう普通なことでは。いっきに特別感がなくなってしまった。
「というか、コカトリスもめっちゃ食べているし、それ関連のスキルも増えているんじゃないかな」
サラマンダーよりもコカトリスのほうが食べた量が多い。サラマンダーを食べて炎系統のスキルが手に入ったなら、コカトリスは毒でも出せるようになるんじゃないだろうか。
「毒よ、でろぉおおお!」
とか言いつつ、手を伸ばして力をいれる。
すると、手のひらから毒がでてきた。でてきた毒は手のひらをつたって地面に落ちる。
「おい、鑑定スキル。これはなんというスキルなんだ!?」
オレはつい興奮してしながら聞いていた。
『鑑定結果、毒液です』
おぉー、毒液か。
今日だけでスキルを二つも手に入れてしまうとは、オレも少しは成長しているようだ。
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