―06― モンスターのお肉を食べるのは、探索者なら当たり前です

「なぁ、鑑定スキル! お前の言う通りすれば、勝てるって言っていたよな!?」


 オレはオーガから全力疾走しながら文句を口にしていた。


『ご主人さまがワタクシの想像以上に弱すぎました。ワタクシのミスです。申し訳ございません』


「お前、オレのことバカにしているだろ!?」


 そう怒鳴るも鑑定スキルは沈黙で返してきた。腹が立つ。


 ふと、立ち止まる。

 目の前にモンスターがたっていたのだ。


「キェエエエエエエエエエエエッッ!?」


 モンスターは顔をあげて甲高い声で鳴く。

 そのモンスターは上半身は鶏で下半身はトカゲをしているコカトリスだった。

 コカトリスならすでに倒したことがある。

 オーガとの戦闘で怪我を負ってしまっているのが心配だが、魔石を飲み込んだおかげでさっきよりも強いし、なんとかなると思いたい。

 よしっ、コカトリスを倒して、ついでに魔石を回収しよう。魔石を飲み込めば、怪我を治すこともできるし、より強くなることもできる。一石二鳥というやつだ。


「しねぇっ!!」


 そう叫びつつ、コカトリスと戦闘を繰り広げる。

 戦法はさっきと一緒。まずはコカトリスの吐く唾を左腕で防ぎつつ、ナイフにその毒をつけては、コカトリスの目をめがけて刺す。

 改めて戦うと、コカトリスは毒が厄介だが、戦闘能力はそこまで高くないモンスターなんだと気付かされる。魔素で身体能力を強化した今なら、比較的楽に倒すことができそうだ。


「さて、魔石は確保できたが、どこで飲み込もうかな」


 コカトリスを倒したオレは魔石を回収してはそう呟いた。

 魔石を飲むと気絶するんだよなぁ。だから、モンスターと遭遇する可能性のある場所で飲み込むわけにいかない。


「なぁ、セーフティーゾーンってダンジョンには必ずあったよな」


 セーフティーゾーン。ようはモンスターが必ず入ってこられない場所がダンジョンにはあると聞いたことがある。


『セーフティーゾーンまでのルートを鑑定しましょうか?』


 それは鑑定なのか? まぁ、でもそんなことまでわかるなんてやっぱ鑑定スキルって便利だな。

 よしっ、早速セーフティーゾーンに行こう、と決意した途端――

「ぐぅー」と、お腹がなかったのだ。


「そういえば、ご飯を一度も食べてないな」


 ダンジョンに潜ってからけっこうな時間が経つがなにも食べてなかった。すぐ帰るつもりだったから食料とか持ってきていないんだよなぁ。


『モンスターを食べれば解決するかと』


「え!? モンスターって食べられるのか」


 そんな事実初耳なんだが。


『はい、一般的に探索者は現地で食料を調達します。ただし、毒の確認は必須です。ちなみに、鑑定すれば毒があるかどうかは判別可能です』


「なるほど、鑑定スキルってそんなこともわかるのか」


 相変わらず鑑定スキルは便利なことだ。


「だったら、このコカトリスの肉はどうだ? やっぱり毒があるから食べられないか?」


 目の前にあるコカトリスの死骸を指しながらそう言う。これを食べられるなら改めてモンスターを倒さないで済むし楽なんだが。


『鑑定結果、肝を取り除けば食用可能です』


「マジか。肝の場所はわかるのか?」


『はい、わかります』


 だったら、早速コカトリスのお肉を持ち帰ろう、と思って、あることに気がつく。


「でも、肉を焼く道具を持っていないんだよな。流石に、生で食べるわけにいかないし」


『探索者なら、生で食べることも珍しくありませんので、問題ないのでは?』


 マジ? 探索者って、生肉を食べるのか。すごっ。


「いや、流石にオレは焼いたお肉を食べたいな」


『随分と贅沢がしたいんですね。適正ランクFのくせに』


 鑑定スキルが投げやりな口調でそう言った。なんか舌打ちまで聞こえた気がするんだけど。


「適正ランクとか、関係なくだろ!! おいしいご飯を求めるのは当然の権利だと思います!」


 てか、前々から鑑定スキルに対して思っていたことがある。


「というか鑑定スキルのくせに、随分と辛辣だよな。ただのスキルとは思えないんだが」


『………………』


「なんで都合悪くなると黙るのかな……!!」


 なんかドッと疲れた。大声出したせいか余計お腹空いたし。


 それから、鑑定スキルに教わりながら食用可能な部位を解体した。生で食べるか焼く方法を考えるかは後で考えよう。

 そして、オレは魔石とコカトリスの肉を自宅から持ってきた素材袋に入れてセーフティゾーンまで持ち歩いた。セーフティーゾーンの場所までは鑑定スキルが案内してくれたのだ。


「少し緊張するな」


 魔石を手に持ちつつ喉を鳴らす。

 まずは魔石を飲み込んで怪我を治すことにした。

 魔石を飲み込むと、マジで苦しいんだよな。とはいえ、必要なことだからグッと我慢して飲み込む。


「あぁあああああああッ!? やっぱめちゃくちゃ苦しいじゃねぇか!?」


 こんな苦痛を探索者全員が感じているとか、やっぱ探索者ってすげぇわ。

 それからしばらくのたうち回りオレは気絶した。



 目を覚ます。

 無事怪我は治っていた。

 気のせいかもしれないけど、少し強くなっている気もする。


「今度は腹を満たさないとな」


 すでに空腹で限界だ。


「見た目は普通のお肉とあんまり変わらないんだけどな」


 コカトリスのお肉を見る。きれいなピンク色をしていて、スーパーのお肉と見た目はそんなに変わらない。

 生肉というのが怖いが、とはいえまずは食べてみるか。他の探索者も生で食べるみたいだし


「おぇええええええええええええッッ!!」


 吐きました。

 うん、食えたものではなかった。

 まず口に入れた瞬間、血の臭みが鼻を刺激する。とはいえ、我慢しつつ噛もうとするもまず生肉のせいで、全然噛みちぎれない。

 それでもどうにか噛んで飲み込むと、瞬間全身が熱を帯びて気分が悪くなる。異物を押し戻そうと吐き気が襲い、オレはひたすら体内のものすべてを吐き続けた。

 あまりの気分の悪さに、しばらく動くことが出来ずにいた。


「なぁ、本当に毒が含まれていないんだよな?」


 鑑定スキルにそう尋ねる。

 どう見ても、これは毒を食べたときの反応としか思えないんだが。


『はい、食用した部位に毒は含まれていません。ですが、魔物の肉には魔物特有の魔素が含まれているため、拒絶反応はでた可能性が高いです。一般的な探索者なら、この程度の障害ものともせず食べることが可能なので、このような事態になるとは想像つきませんでした』


 鑑定スキルが丁寧に解説してくれた。

 マジか。

 こんな毒のような塊を食べることができる探索者ってマジですごいんだな。尊敬しかない。そして、オレは適正ランクFだから、きっと食べることができないんだろうな。少し心が折れそう。

 とはいえ、ダンジョンから脱出する目処が立っていない以上、食料問題を解決する必要があるんだよな。


「せめて、生肉ではなく焼いたお肉を食べたい」


 それなら我慢してでも食べられる気がする。


「なぁ、鑑定スキル。どうにか肉を焼く方法はないか?」


『知りません。自分で考えてください』


 ねぇ、なんで鑑定スキルちゃんって時々そうやって辛辣なのかな。ご主人さま泣いちゃうよ。


 ともかく、ダンジョンを探索すれば、新しい発見があるかもしれないと思い、コカトリスのお肉を小さな素材を入れるための袋にいれながら探索することにした。


 お肉を焼いてくれるようなそんな都合のいいものがあればいいけど、流石に難しいかな。


 数分後、目の前に炎をまとったトカゲのようなモンスターがいた。


『鑑定結果、モンスター名〈サラマンダー〉。討伐ランクF。非常に弱い個体です』


「これだぁああああああああああああああ!!」


 思わず、俺は絶叫した。



「できたぁあああああああああああ!!」


 それはあまりにも激しい戦いだった。

 お肉を焼きたいオレとすべて燃やし尽くしたいサラマンダーによる絶対に負けられない戦いである。

 サランマンダーの放つ炎の威力が高いせいで、少し加減を間違えるだけでお肉が焦げてしまう。何度黒焦げとなったお肉を作ってしまったことか。

 それでも、諦めず何度も試行回数をかせることで、ついに、上手に焼けたお肉ができたのだ!


 さて、実食タイムだ。

 ちなみに、サラマンダーは疲れたのかどっかに行ってしまった。


「では、いっただきま~す」


 パクリ、うぇえええまっず。

 硬いし味気ないし、しかも舌が痺れる。飲み込むと、今度は気分が悪くなる。

 毒キノコでも食べている気分だ。

 あぁ、でも生よりはずっと食べやすい。

 とはいえ、やっぱりまずいことに変わりない。

 正直、かなりしんどすぎる。


「けど、探索者はみんなこれを食べているんだよな」


 鑑定スキルの言葉を思い出す。

 オレは適正ランクFの最弱の探索者だ。だからこそ、国内一位の探索者、武藤健吾に近づくためにはみんなよりも努力しないといけない。

 オレ自身がアイドルと結婚するためにも。

 だから、この程度の障害は乗り越えなくては駄目なんだ!


 そう決意したオレは時間をかけながらも食べるのだった。



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