―07― この程度の特訓、探索者なら当たり前です
『ご主人様ひとつ提案があるのですが』
モンスターのお肉を食べていると、鑑定スキルのほうから話しかけてきた。鑑定スキルのほうからしゃべりかけてくるなんて珍しいなとか思う。
「なんだ?」
オレは鑑定スキルの言葉を耳を傾ける。
『出口までの道順を鑑定していましたが、少々厄介なことが起きました。というのも、この階層から出る方法が存在しません』
「どういうことだ?」
『落ち着いてください。こういうことはダンジョンにおいて珍しいことではありません。恐らく階層ボスを倒せば出口が現れる可能性が高いです』
なるほど。ダンジョンには様々なギミックがあると聞いたことがあるし、そういうことなんだろう。
「それで階層ボスってのはなんだ?」
『さきほど戦ったオーガです』
マジか。
さっきオーガに対し、まったく手も足もでなかったことを思い出す。あのオーガを倒さないことにはこの階層をでることができないなんて。
『今のご主人様ではオーガを倒すことはできません』
それはそうだよな。突きつけられた事実に思わず下唇を噛んでしまう。
『ですので、オーガを倒せるようになるまでこの階層でとどまって特訓を続けるのはどうでしょうか?』
「特訓すれば、オレでも倒せるようになるのか?」
『階層ボスといっても、オーガは所詮E級ランク。ご主人様でも特訓すれば十分勝算はあるかと』
「そうか。だったらやってやるよ特訓ってのを」
そもそもオレは強くなりたいと思っていた。
そのために特訓が必要というならやってやろうじゃないか。
◆
「とか言ったけど、今日はもう疲れたし寝るか」
モンスターの肉を食べ終わった頃にはヘトヘトになっていた。
これ、ちゃんと胃に消化されて栄養になっているのか不安だ。とはいえ、空腹感のようなものはなくなった。
セーフティーゾーンへと向かって寝る準備を整えようとする。セーフティゾーンなら地面は硬いが我慢すれば寝れないことはないだろう。
『もう寝るのですか?』
ふと、頭の中に機械音声のような声が響く。
鑑定スキルが語りかけてきたのだ。
「なんだよ? 不満でもあるんか」
『いえ、普通探索者なら寝る前に特訓するのが当たり前なので、驚いただけです』
「特訓っていうなら、もう魔石を食べただろ」
『それだけで強くなれるわけないじゃないですか。より地道な特訓が肉体を強くするのです』
呆れた様子で鑑定スキルがそう口にする。
マジか……。
オレは探索者に対する考えを改める必要があるのかもしれない。強い探索者になるには適性ランクという名の才能ですべてが決まると思っていた。
けど、違ったようだ。
強い探索者になるにはそれ相応の努力が必要なのかもしれない。
「わかったよ。特訓をすればいいんだろ。それで、なにをすればいいんだ?」
『腕立て伏せと腹筋、スクワットそれぞれ100回。あと、ランニングを10キロです』
「いや、無理だろ。流石に」
『探索者なら誰しも実践していることですが』
「そりゃ、普通の探索者ならできることかもしれないが、オレは適性ランクFだぞ」
『やらなければ、強くなるのはおろかこのダンジョンから生きて帰ることも難しくなります』
「わかったよ! とりあえずやるだけやってやるよ!」
『アドバイスです。魔素をコントロールすれば、比較的楽にできるでしょう』
魔素をコントロールって簡単に言うが、そもそも魔素のコントロールに体力をもっていかれるんだよな。
とはいえ、鑑定スキルの指示に従って間違うなんてこともないしやってみよう。
そんなわけで、オレは鑑定スキルの指示通り特訓を始めるのだった。
「やっと終わった……」
すべてを終えたオレはセーフティーゾーンでくたくたに転がっていた。
特に最後の10キロのランニングがきつかった。そもそもダンジョンの中で10キロをどうやって測るんだ?って思ったが、鑑定スキルが代わりに測ってくれたのだ。鑑定スキル先輩なんでもできるとかマジパネェっす。
10キロを走っている途中、モンスターに追いかけられたときは、ホント死ぬかと思ったが。
ともかく、すべてをやり終えたオレは泥のように眠るのだった。
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