第四章 真実
綺麗にクリームソーダを飲み終わった俺達はそこをあとにした。
二人きりで話したいと連れられたのは向日葵畑だった。
空模様は雲一つなく綺麗な快晴で、俺達の空気感とは真逆だった。
俺達は向日葵畑が広がるベンチに腰掛けた。
真夏のせいで日差しが暑かったが、向日葵の匂いが気分を和らいでくれて、その雰囲気は嫌いでは無かった。
「それで、本当のことって?」
軍道さんが話しやすい様に俺から話を振ると、案の定彼女はすぐに答えてくれた。
「私が向日葵好きだけど嫌いって話をしたの、覚えている?」
当然だ。忘れるわけがなかった。
なんなら今その話をしたときに一緒に話した向日葵畑に来ているのだから。
「うん、覚えているよ」
「そっか。私ね、向日葵って夏の暑い中真っ直ぐ立ってて立派で、綺麗で、大好きなんだ」と答えていた。
彼女らしい答えだなと思いながら話を聞いていると続けて彼女が話した。
「私はこんな病気持ちだけど、向日葵みたいに前向きに生きたいなって思った」
そして彼女は笑顔を崩して、下を向いた。
「けれどね、嫌いになっちゃったの」
「どうしてそう思うの?」
そう聞くと彼女は自分のスマホについている向日葵のキーホルダーを見せてきた。
「昔、これを落としちゃったときがあったの。でもこれをね、拾ってくれた優しい人がいたんだよ」
そう言って彼女は手を膝の上に置き、真面目な顔をしてこちらを見てきた。
「それがね、優弥くんなの」
「俺…?」
前にも言った通り、俺にはそんな記憶無かった。
そもそも俺は軍道さんに会う機会なんて二年の夏休み以降は無かったんだ。
それ以前に会う機会がないのに、そんな話をされてどこをどう信じろというのだ。
失礼だけど、今の俺からしたら彼女はデタラメを言ってる様にしか見えなかった。
「冗談か何かか?」
「冗談じゃないよ」
彼女はいつもよりも低い声のトーンで淡々と言った。
その様子がまるで嘘をついてる様な人間には見えなくて、少しだけ彼女の言ってることが本当なのかもしれないと思った。
「でも、俺は軍道さんに会う機会今まで無かったんだ。それはきみの勘違いとかじゃないのか?」
それが今までの話を聞いてて俺の中で1番納得できる答えだった。
だからその質問をしたんだ。
しかし彼女は手にぎゅっと力を入れ、自分の服の裾を掴むと
「違うんだよ!」
と叫んだ。
俺は今まで見たことない軍道さんの姿に喫驚した。
「違うん…だよ」
彼女は叫んだ反動か、涙目になって俯いてしまった。
俺はやらかしたかと焦りすぐに軍道さんに謝ったが、彼女は首を横に振った。
「違うの、優弥くんは悪くないの」
そう言って俺の方をもう一度見ていた。
「優弥くんは、覚えてないの?」
彼女の瞳は少し赤くなっていて、ハイライトが入っていた。
覚えてない。という言葉が何故か残酷に思えて何も言えず、俺は黙ってしまった。
数秒間沈黙が流れた。
最早このまま何も喋らず、この時間が終わってしまえば…なんて思ってた矢先彼女は口を開いた。
「優弥くんは、お化けとか信じる?」
そんな馬鹿げた質問なのに俺は心拍数が急上昇するのがわかった。
心臓の音と冷や汗が止まらなくて、固まってしまった。
ゆっくりと軍道さんの方を見ると、彼女は目をうるわせたまま、真剣な表情でこちらを見ていた。
本来俺ならば、信じない。と答えただろう。
しかし彼女があまりにも真剣だったのと、止まらない心拍数のせいか、肯定も否定も出来なかった。
「なんで」
俺が祐逸絞り出せた声がそれだった。
日差しが暑いはずなのに何故か俺の周りの空気は冷たく感じた
心臓がうるさい。
早く、早く理由を教えて。
その気持ちでいっぱいだった中、彼女はやっと口を開いた。
スローモーションにゆっくり時間が動いている様に感じた。
「死んでるの」
数秒が経った。
何も言えなかった。
何を言ってるのか理解ができなかった。
「は、何言って…」
「もう死んでるんだよ」
彼女の声はやっとのことで絞り出したさっきの俺の声よりも小さく、苦しく聞こえた。
「本当は見えちゃいけないの。でも、見えてるからそれに甘えて一緒にいるの」
シンっと空気が静かになる。
遊園地という名の賑やかな場所なはずなのに二人だけの空間や話の内容のせいか、一層静かな場所に感じた。
「私だって最初は驚いたよ、なんで見えてるんだろうって。意味がわからなかった」
本気か信じられない俺はこの空間で話の逃げ道を必死に探していた。
今彼女の話を全て聞いても、何も信じられないだろう。
そう思い俺は
「それと、俺との出会いの何が関係あるの」
なんて質問をした。
もしかしたらボロを出すかもしれない。
自分から私死んでます。なんて話、信じられない俺の方が正しいだろう。
だから冗談であることを確かめる為に、いや、冗談である為に、俺との話に関係性を繋げようとした。
また数秒間彼女が黙った。
ほら、嘘だったんだろう?
そうだと言ってくれるんだろ?
きみはまだ生きてるんだろ?
自分の中でそう解決させようとしていた矢先、彼女はたった一言放った。
「死んでるのは、優弥なんだよ…」
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