第15話体育祭5
朔夜が先程と同じように突っ込んでくる。
リリーの攻撃も一瞬でも気を抜けばハチマキを奪い取られそうだ。
残り時間も少なくなってきている。もう一刻の猶予もないか。
「――イケ、頼む!」
叫んだ瞬間にイケは騎馬を離れ、俺は後方のハルに抱えてもらう。
「何っ?!」
驚いた表情を浮かべる朔夜。
朔夜は後方の騎馬を離す作戦だった。
――だが俺の方は前方の騎馬を崩す。
イケは俺と朔夜の間からすぐに横に退くが、一瞬の壁としては十分すぎる。
俺はハルの肩に足を乗せ上に乗った。
『――残り十秒』
足に力を入れ朔夜達の方へ思い切り跳ぶ。
「くっ」
咄嗟の事に大きく避けられない朔夜はせめてリリーとの距離を空けようと身を仰け反らせる。
リリーとの――ハチマキとの距離が頭二つ分は離れた。
「早まったな、私たちの勝ちだ攻一!」
跳んだ後の空中ではろくに身体を動かせない。
ハチマキに届かず地面に落ちる。
――朔夜は、そう思ってるんだろ?
俺は最初からハチマキを狙って跳んでいない。
朔夜の方へ、正確には朔夜の肩の辺りを目掛けて跳んだ。
「なっ?!」
驚く朔夜の肩を土台に手を置き、ほんの少し距離を延ばす。
「だめっ」
リリーが手でガードするが隙間からハチマキを奪い取った。
地面を転がりながらもしっかりとハチマキを掴む。
『試合終了ーー!』
大きくアナウンスが響き渡る。
俺は手にあるハチマキで勝利を実感した。
「やれやれ、やられたよ攻一」
「うー悔しい」
朔夜とリリーが近づいてくる。
鏡花は担架で救護テントに退場済みだ。
「まぁ人生掛かってたからな」
「人生?」
二人は不思議そうな表情を浮かべる。
「攻一―やったなー」
「流石だぜ攻一」
イケとハルも近づきながら声を掛けてきた。
と、そこで朔夜が背を向け言った。
「攻一またな」
「ん? ああ」
朔夜とリリーが背を向け退場していく。
何かあっさりしてるな。
「あ、なあ攻一」
立ち止まり朔夜が聞いてくる。
「楽しかったか?」
「え? ・・・あーまぁそうだな。楽しかったよ」
「そうか、良かった」
朔夜は笑いながら今度こそ退場していった。
何だったんだろ?
まぁいいか。しかし疲れた。
その後、出場する種目もなくクラスのテントでのんびりと過ごした。
時に変態達の奇行にツッコミつつ、クラスメイトの応援(♂)をしつつ、体育祭は滞りなく終了した。
『今年の体育祭はこれにて閉会します。皆さまお疲れさまでした』
※ ※ ※
後日
「朔夜、約束の件だが写真とか動画とかあれとかこれとか」
「ん? 体育祭で撮影した写真や映像の管理は職員が行っているぞ? 男性更衣室の鍵もそうだ」
「だましやがったなこの雌豚――!」
「ありがとうございます!」
「ちくしょうドMだから罵倒が通じねぇ!」
この小説、俺だけひどい目に遭いすぎじゃない?
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