第16話クルージング、1
事前に言っておこう。
これから始まるのはこれまでも、今後も、誰も体験する事が無いだろう数日間だ。
そんな日々はこんな一言から始まった。
※ ※ ※
「攻一さん、クルージングへ行きませんか?」
いつものように部屋にいきなり入ってきた鏡花がそんな事を言ってきた。
「は? クルージング?」
思わず聞き返す。
「クルージングって船のあれだよな? 船なんて持って・・・はいるか」
鏡花の家の事だし。
「はい。私の家が所有しているクルーザーの一台を貸していただけるという事で、本格的に涼しくなってくる前に行きたいなと思いまして」
「なるほどな。だけど今でももう結構涼しいから泳いだりとかは厳しいと思うが?」
ガチャ
「へいへーいお兄ちゃん」
リリーが部屋に入ってきた。
そして何かが始まった。
「今、私たちの水着姿が見たいって言ったか?」
言ってません。
「ゲヘヘ、じゃあ代わりにお兄ちゃんのパンツを一枚――ニャアアア!」
見るに堪えなかったので鼻を思い切りつまんでやる。
「いひゃいいひゃい、やめへー!」
ガチャ
「乙女の鼻に何て事をするんだ!」
朔夜登場。
「攻一・・・乙女に対してその蛮行、許す事はできない」
「ほら見ろ鏡花、来週からは気温が4度も下がる」
「本当ですね」
「やるのなら・・・この私にするが良い!」
「やはり泳ぐのは厳しいみたいだな」
「まぁしょうがないですね」
「ンンッ♡ 放置プレイ!」
「行くのは誰だ?」
朔夜を完全に無視して聞く。
「私と朔夜さんとリリーさんと攻一さんと操舵手の方の5名です」
「ちなみに操舵手の人は男性?」
「女性です(ニコッ)」
「・・・俺だけ不参加って選択は」
「私、素のままの攻一さんに来てほしいので薬とかはあまり使いたく無いのですが・・・」
こっわ。
※ ※ ※
というわけで皆でクルージングにやってきた。
すでに陸地から出港して数十分。見渡す限り海面が広がっている。
磯の香りがする風。晴れ渡る空。
絶好のクルージング日和と言っていいだろう。
――だがおかしい事が一つだけある。
「なぁ鏡花」
「・・・あ、はい? どうかしました、攻一さん」
「操舵手の人が来るって言ってたよな」
「はい」
「来てないんだけど」
「その・・・実は友人の結婚式と身内の不幸が重なりまして」
「何その複雑な事情」
「そういう訳で今日はお休みになりました」
「まぁそれは解った。しょうがない事だと思う。だけどな」
「・・・はい」
「なんで俺が操舵手やってんの?」
ハンドルを握りながら俺は聞いた。
いや出港して数十分経って、今さら聞くのもどうかとは思うんだが。
「えっと・・・攻一さん良く考えてみてください」
「うん?」
「操舵手の方が欠席。私も朔夜さんもリリーさんも操舵できません」
「うん」
「じゃあ攻一さんしかいないかな、と」
「そうはならんやろ」
「ですが私の調べでは攻一さんは免許を持ってましたし」
安定のストーカー。
まぁ確かに俺は免許を持ってる。
昔、ツヨシ君っていうイケメンとの何やかんや(文庫本2冊分くらい)があって免許を取った。
ちなみに鏡花にはその事を言ってない。
・・・どこまで俺の事を調べ上げてるの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます