第14話体育祭4
「攻一、まずはどうするよ?」
ハルが野太い声で聴いてくる。
「朔夜・・・生徒会長を潰そう。それで士気はかなり下がるだろ」
二人には朔夜との勝負の事は話していない。関係とか聞かれてもめんどくさい。
「なるほどなー。よしいくぜー」
一気に加速して朔夜の方へ走り出す。
――と、同時に三年生の騎馬、三組に囲まれた。
「おー? おおー?」
思わずつんのめりながら慌てて止まる。
「何だー? すごい狙われてるぞー」
「複数で囲んで一組ずつ潰す作戦かもしれんのう」
イケとハルが驚いたように言う。
確かに・・・ハルの言う事には一理あるが・・・。
そんな事を考えていたら三組の騎馬が一気に襲ってきた。
「――イケ、ハル」
声を掛けると同時に動き出し、一瞬で三組の内の一組の死角に回る。
そしてその隙にハチマキを奪い取った。
残りの二組はその一組が邪魔になって攻める事が出来ない。
――朔夜はどこにいる? 囲まれた瞬間に見失った。
『おっと九条生徒会長は囲まれて動けないようです。ここから立て直せるでしょうか?』
ナイスアナウンス! ナイス葉梨君!
どうやらあちらも身動きがとれないようだ。
安心した――のもつかの間、嫌な予感がして身を屈める。
瞬間、俺の頭があった場所を何かが通過した。
「ちっ、やるな攻一」
ここには居ないはずの朔夜がそこにはいた。
慌ててその場所から離れる。
どういう事だ? 何でここに朔夜がいる?
戸惑っている内にさっきの二組が同時に襲い掛かってきた。
一組の伸ばしてきた手を掴んで防ぎつつ盾にする。
そして強引に力技で騎馬を崩して失格にした。
残りは朔夜と一組。
『残り時間三分になります。なお、先ほどの九条生徒会長のアナウンスについて間違いがありました。失礼いたしました』
ここで、アナウンスのミス、そしてほぼ開幕と同時に襲ってきた三組の騎馬を思い出す。
恐らく・・・どちらも朔夜が騎馬戦が始まる前に仕組んだのだろう。
あいつは、本気で勝ちに来ている。
そして思った。
――え、俺負けたら何命令されるの?
いや怖い怖い怖い。
変態達がここまで本気で勝ちに来てるんだぞ?
絶対とんでもない事命令される、そう例えば――
――今日からは私が攻一のさんの生活の全てを管理します。食事、入浴、もちろん排泄も
――攻一も体験したら解るさ。ほうらまずは鞭からだ
――今日から攻一の履くパンツは全部私のパンツよ! やったね!
やべぇ! 人生終わる!
「イケ、ハル! 絶対に勝つぞ!!」
「お、おー?」
「もちろんだが、いきなりどうした?」
戸惑う二人。よもよこの戦いに人生がかかっているとは思うまい。
「おらぁ!!」
勢いのままに残った一組のハチマキを奪い取る。
残るは朔夜達のみだ。
「流石だ攻一」
朔夜が不敵に笑った。
改めてその騎馬を見やる。
朔夜が前面、鏡花を後方に、上にリリーが乗って騎馬を作っている。
「どうだ最強だろう? 死をも恐れぬ私(ドM)を前面に鏡花のサーチ(ストーカー)能力、リリーの器用(脱衣)さを合わせた最強の騎馬だ」
ただの変態の集まりだし小学生が考えた作戦か。
「さあ行くぞ、鏡花、リリー」
「ええ、任せて!」
「・・・・・・・・・」
ん?
「鏡花? どうした?」
朔夜が声を掛ける。
「朔夜さん・・・後は・・・頼みました・・・」
パタリ
「き、鏡花ーー!!」
崩れるように倒れる鏡花。叫ぶ朔夜。
恐らく体力の限界だったんだろう。運動しなさそうだしなぁ鏡花。
「くっ、よくもやってくれたな攻一」
何もやっとらんわ。
朔夜はリリーを抱え直し、騎馬を組み直す。
上に乗った人間が片足でも地面に着けたら失格、というルールがあったが、逆に言えば落ちていなければ支える人間が一人になっても失格ではないのだろう。
『残り一分です』
残り時間のアナウンスが入る。
「・・・行くぞ攻一」
その言葉と同時に朔夜が一気に距離を詰めてきた。
小柄なリリーとはいえ、人ひとりを背負っているとは思えない速度で側面に回ってくる。
「ちっ」
素早くハチマキを奪い取ろうとするリリーの手を何とかかわし距離を取った。
二人での騎馬になったことで三人騎馬の俺達よりも小回りが利いている。
「元々、鏡花が離脱して二人騎馬になるのは作戦の一つとして考えられていた。想定していたやり方とは違っていたがな・・・」
少しずつ間合いを詰めながら朔夜が言う。
・・・正直このままじゃ負けないにしても勝つ事も難しいだろう。
「イケ、ハル、開始前に言ったあの作戦をやるぞ」
二人にだけ聞こえる声で話す。
イケとハルは小さく頷いた。
『残り三十秒です』
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