第10話心を読む機械2
後日、改めて腕輪の詳しい説明を聞いた。
心の声を腕輪に受信しスマホのラインを経由して送る。
その為、距離等の制約はほぼない。
元々、スマホに文字を打って送信する手間を省くために開発された商品の為、完成品は送信の意志を込めた時のみ送信されるらしいのだが・・・。
今は試作品との事で強く思った心の声が自動送信されるとの事。
変態達が強く思った事だと?
嫌な予感がする。
その予感が当たったのは午前の授業中の事だ。
※ ※ ※
「では次の文章を・・・鷺ノ宮さんお願いします」
現代文の授業中、先生に指された鏡花。
静かに、流れるような所作で椅子から立ち教科書を持って読み始める。
「私はそのまま二、三日過ごしました。その二、三日の間Kに対する絶えざる不安が私の胸を重くしていたのは言うまでもありません」
――ブブッ
スマホが通知を告げる。
俺は先生にバレないようにスマホを確認した。
『放課後、攻一さんを拉致する計画を実行に移した方が良いでしょうか?』
脅迫文送られてきおった。
「私はただでさえなんとかしなければ、彼にすまないと思ったのです」
――ブブッ
『しかし攻一さんを無傷で捕らえるのは至難・・・。いや、一本か二本・・・』
俺にもすまないと思ってくれ。
そしてそれは何を数えてるんだ。
「その上奥さんの調子や、お嬢さんの態度が、終始私を突っつくように刺激するのですから、私はなおつらかったのです」
――ブブッ
『最高の医療スタッフをそろえる必要が・・・』
突っつくような刺激で収まらないんだけど。
つらいどころじゃ収まらないんだけど。
「どこか男らしい気性をそなえた奥さんは、いつ私のことを食卓でKにすっぱぬかないとも限りません」
――ブブッ
『まぁ最終的に幸せになりますし攻一さんも笑顔で許してくれますよね』
誰かこいつの事もすっぱぬいてくれないかな。
あと最終的に幸せってそこに至る経緯が怖すぎるんだけど。何があったの?
キーンコーンカーンコーン
「っと、チャイムが鳴ってしまいましたね。ここまでにしましょうか」
チャイムの音を聞いて先生が授業の終わりを告げる。
鏡花は会釈をして椅子に座った。
「じゃあ次回はここの続きから」
先生が教室から出ていくと、鏡花が椅子から立ち上がった。
「攻一さん――」
――バリーン!
「おい! 攻一がいきなり窓を突き破って飛び降りたぞ!」
「え?! 何があったの?! ここ二階だよ?!」
「解らんが脇目も振らずに疾走してる! 何かから逃げるかのように!」
※ ※ ※
教室から逃げ出した俺は本校舎から別校舎まで来ていた。
身を潜めている内にもう少しで昼休みという時間になっている。
もう昼休みまでここで時間を潰そう。
……ん? なんだ? 何かいい匂いがする。
「ああ……家庭科室で実習してるのか」
本校舎には教室が集まっているのに対し、別校舎には各教科の特別教室が集まっている。
知らず、家庭科室の近くまで来ていたようだ。
この匂いは豚の生姜焼きか?
こっそりと家庭科室を覗いた。
「九条さん料理まで上手なんだねー」
「本当何でもできるよねー」
雌豚が豚の生姜焼きを作っていた。
「いやそんな事はない。私なんて本当にまだまだだ」
謙遜する朔夜。
――ブブッ
『豚肉を調理しているだけなのに……なんだこの昂揚は……!』
そして興奮する雌豚。
「む……大丈夫か?」
と、朔夜は隣で大きな鍋を持とうとしている女生徒に声をかける。
「う、うん」
そう答えはしたが鍋が重いのかかなり危なっかしい。
――ブブッ
『大丈夫だろうか、心配だ』
まともだ……!
――その時、足でも引っ掛けたのか女生徒がバランスを崩した。
朔夜はとっさに女生徒を抱き寄せる。
ガシャーンと大きな音を立てて床に転がる鍋。
大きく湯気が上がっているのを見ると熱い料理か何かが入っていたのだろう。
「大丈夫か? どこも怪我はしていないか?」
「あ、ありがとう……大丈夫」
朔夜が守ったおかげで女生徒は無事のようだった。
今の朔夜の姿はまさに生徒会長の鏡といえる立派な姿――
――ブブッ
『ンンッ♡ あの鍋……当たってたらどれくらい熱かったんだろうか』
…………………………。
「九条さんはどこも怪我してない?」
「ああ問題ない。君を加害者にするわけにはいかないからな」
キザったらしいセリフで周りの女生徒がキャーと色めき立つ。
――ブブッ
『本当はちょっと鍋に当たってみたかった』
台無しだよ。
俺はこれ以上見ていられず――というか見たくなかったのでその場を後にした。
昼休みにイケと昼飯でも食って英気を養おう……。
※ ※ ※
昼休みが終わり午後の最初の授業が体育だった時点で俺は察していた。
多分、読者も話の流れ的にすでに察していた。
今日の体育は適当にチーム分けをしてサッカー。
その途中で俺は適当に嘘をついて抜け出した。
そして男子更衣室へ向かう。
スマホは念のため肌身離さず持ってきていた。
――ガラッ
更衣室に到着してドアを開けると案の定想像していた人物がそこにいた。
「キャ! 変態!」
件の人物であるリリーがおびえた声を上げる。
「お前にだけは言われたくないし、ここ男子更衣室だからね」
「えー気づかなかったわー」
――ブブッ
『攻一の制服と私の制服を入れ替える途中で……何で攻一授業の途中で帰ってくるの? もう!』
心の声が全部自供してくれとる。
「いや違うのよ」
「何にも違わないだろ」
――ブブッ
『まぁ違わないけど』
「ほら」
「卑怯ー! それ駄目だよー!」
「わかったわかった。ほらリリー何がしたかったんだ?」
「え・・・やりたいことやっていいの?」
「いいよ」
「やったーじゃあまず攻一のズボンを頭から被ってー」
――パシャ
すかさずスマホで写真を撮った。
「あ」
「先生ー一年の姫野さんが変態でーす」
「ヤメテー!」
※ ※ ※
後日、この装置は販売中止になること決定されたそうだ。
変態達の妨害になって良いと思ったんだが……。
ある日、鏡花が電話越しに話しているのが聞こえてきた。
「ええ……某国が……嘘の……ええ……高値で……ええ」
これ以上話題に上げるのは止めた。
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