第19話 ダリアン・ポーカー①

   ○○○

「それではゲームを始める前にこのダリアン・ポーカーのルールを説明しましょう」

「ああ、よろしく頼む」


 ダリアン・ポーカー。

 そのゲームを一言で言えば『駆け引きに特化したポーカーゲーム』だ。

 使う道具はトランプ一組に二枚のコイン、そして二個の帽子と一定数のチップ。トランプとチップはテーブルの中央に、コインと帽子は互いのプレイヤーの側に置く。


 ゲームの流れは主に四つ。

 一つ、互いのプレイヤーが中央のトランプから一枚カードを引く。そして一回だけ、引いたカードを交換するかそのまま保持するかを選択する。

 二つ、手元にあるコインの裏表を選択する。この時コインが相手から見えないように帽子の中で選ぶこと。

 三つ、コインをオープン。その結果次第でテーブル中央に積まれたチップが移動することになる。

 四つ、以上三つを中央に積まれたチップが無くなるまで繰り返す。最終的にチップを多く持っていたプレイヤーが勝者となる。


「以上がダリアン・ポーカーの大まかな流れです」

「本来のポーカーみたいなハンドが存在しないのですか。なんというか、すごいシンプルだ」

「ブルース様の言う通り非常にシンプルなゲームです。しかしこれから説明するコインの結果がこのゲームを複雑にさせます」


 先程の三つ目に説明したコインの表裏で決まる結果についてだ。

 その結果は分かりやすく三通りある。

 一つ目、両プレイヤーのコインが表の場合、互いに五枚、中央からチップを獲得する。

 二つ目、片方のプレイヤーだけコインが裏の場合、裏を出したプレイヤーはトランプに書かれている数字の数だけチップを獲得できる。表のプレイヤーは一枚も獲得できない。

 三つ目、両プレイヤーともコインが裏の場合、互いの手持ちのチップを十枚ゲームから流す。ゲーム終了後、勝者が流れたチップを全て獲得する。


「ちなみにAエースのカードは十四枚、Jジョーカーは十五枚のチップを獲得できます」


 説明を聞いてある程度のルールは理解できた。

 しかしその中で一つの疑問が生じた。


「………………これコインは裏を出し続ければ負けませんよね?」

「ご指摘の通り裏を出し続ければゲームに負けることはありません。そのため『裏を二回連続で出した場合、次のゲームでは必ず表を出さなければならない』というルールがあります」

「なるほどね、どのタイミングで裏を出すかが大事になって来るのか」


 リスクを背負って裏を出し続けるか、それともリスクを避けて堅実に行くか。確かにこれはプレイヤーの性格が出てきそうなゲームだ。


「チップは全部で何枚あります?」

「五十枚です。本来は両プレイヤーが持っている手持ちのチップをオールインして行うゲームなのですが、今回は余興ということでこちら側で用意したチップを使います」

「オールイン………………まあ良いか」


 総評すればこのゲームは如何にして相手の『裏』を掻くのが大事になってくるゲームだ。面白いなと思うと同時にとんでもなく危ない気配を感じざるを得ない。

 そしてもう一つ、大事なことが残っている。


「このゲームでは何を賭けるのです。俺が勝ったらオーナーに会わせてもらえるとして、俺は何を賭ければ?」

「いえ、別に勝ち負けに関係なく父上の下に案内しますよ。ですがそうですね………………わたくしが勝ったら『一つだけお願いを聞いてもらう』というのは如何ですか?」

「乗りましょう」

「有難う御座います。それでは改めて、ゲームを始めていきましょう」

 

 こうして俺とミミさんによる『ダリアン・ポーカー』が始まった。


「第一ゲーム。ゲストであるブルース様からお引きください」

「それじゃあ遠慮なく」


 促されるままに最初のカードを引き、続けてミミさんが引く。そしてお互いに引いたカードを確認する。


(9か…………)

 

 可もなく不可もなくと言った数だ。

 とはいえこれで裏を出したとてあまり得にはならない。


「さて、チェンジはしますか?」

「…………します」

「それではわたくしもチェンジしましょう」


 流石にもっと良い手が欲しい。ここはカードを入れ替えるとする。

 そして引いたカードは。


Jジョーカー………………!)


 初っ端から最大数のチップが獲得できる機会が訪れてしまった。

 そしてJは一組に二枚しか無いカード。故にここは落とせない。


(表か、裏か。どうする…………?)

「………………」


 帽子の中のコインを遊ばせながら思案をする。

 いや、もはや悩む必要は無い。


「お決まりになりましたか?」

「ええ」

「それでは………………オープン!」


 掛け声と同時にお互いが帽子を持ち上げた。

 その中にあるもの、俺は裏向きのコインだ。


「おや、早速仕掛けて来ましたか。それにそのカードは…………」

Jジョーカーだ。ここまで来たら一気に攻めないとね」

「さすがはブルース様、幸運すらも引き寄せる力を持っておられるのですね」


 一方、ミミのコインはというと、


「………………しかし」


 ━━━━綺麗な裏面を向いていた。


「それが気配に現れては意味がありません」

「………………ッ!?」


 初手からお互いに裏。これによりJジョーカーによるチップ獲得の夢は露と消えた。


「両プレイヤー共に裏。本来ならお互いの手持ちのチップ十枚を流しますが、今回はどちらもチップの枚数はゼロ。つまりチップの変動はありません」

「……………………」


 幸いにも両者共にチップが減ることはなかった。

 初手から躓いてしまったが、まだゲームは始まったはがりだ、切り替えていこう。


 現在の中央センターチップの総数50枚。

 ブルース、ミミの獲得チップ、両者共に0枚。


「それでは第二ゲーム。わたくしから先に引かせてもらいます」


 そうしてカードを引き中身を見る。


(12…………)


 先のJジョーカーとは程遠いがかなり有効な手。少なくとも中央センターのチップの二割以上を取りに行ける数字だ。


「チェンジはしますか?」

「いや、キープだ」


 ミミさんもカードをキープした。つまりそれなりの数字だということだろう。


「………………」

「………………」


 初手に躓いたのだ。ここはしっかりと考えて選ばなくては。

 考慮することことは二つ。前のゲームで互いに裏を出したこと、そしてこのが俺の頭を悩ませる種になったこと。

 つまりリスクを取るか、リターンを取るかを選択しなければならないのだ。


(ここは………………)


 帽子の中にあるコインの表裏を選ぶ。

 この選択が果たして功を奏すか、固唾を飲み込む音が俺の中から聞こえてきた。


「それでは、オープン!」


 活気のいい声と共にお互いの帽子が開かれる。

 そして俺のコインは………………表を向いていた。


「おや、表ですか」

「ええ、今回はリスクを取らせていただきましたよ」


 裏を出せば、十二枚のチップが得られるのは大きい。しかし取ったは良いが次のゲームで表しか出せないのは今の俺には見過ごすことができなかった。

 良く言えば『堅実』を選んだのだ。


 しかし………………。


「残念ですが………………、ブルース様はまだこのゲームの本質が理解してないように見えます」

「なっ………………!」


 ミミさんのコインは裏を向いている。

 そして開かれたその手札は………………。


Jジョーカー………………!」

「『ダリアン・ポーカー』は己の理性をどれだけ凌駕できるかを測るゲーム。怖気付いていては勝負にすらなりませんよ?」


 俺の夜は、まだ始まってすらいなかった。

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