第19話 囁き+なでなでオプション
「『お嬢様に捧げる愛の花束ティーセット』を……『囁きオプション付き』で!!」
史上最上級にハードルの高いメニューを、
『天音……マジか? 正気か?』
小声で尋ねると、天音は笑顔で頷いて。
「あ。じゃあ追加で、『なでなでオプション』も付けてみようかな」
それは!! 常連しか知らないはずの裏メニューだよ!!
誰だ、教えやがったやつ!! 夢野先輩か!?
俺は一度深呼吸をして、天音の耳元にこそっと顔を近づけた。
念のため、奴がしでかしたメニュー内容について確認しておこうと思って。
「天音……そのメニュー、愛の言葉を囁かれたあとでなでなでされるやつだぞ?」
「知ってるよ?」
「メイドカフェに例えると、『萌え萌えキュン♡』のあとに『ご主人様大好き!』みたいに言われるヤツだけど……」
「へ~、楽しみ!」
(……じゃねぇ~!!)
俺はいたって冷静に、執事モードを忘れて呟いてしまう。
「……好きでもないやつに囁かれても、気持ち悪いだけだろう……」
だが、耳聡い天音にはそれが聞こえてしまったようで。
天音は俯きがちに、メニュー表と俺の間で視線を行き来させた。
「……中野くんにだから、お願いしてるんだよ?」
ピンクに染まった頬が、これから囁かれる愛の言葉に、最大の期待を寄せていることを語っていた。思わず、天音が俺のことを好きなのではないかと、あらぬ勘違いをしそうになる。
だが――
(くそっ……! そんな顔でお願いされたら、断れない……!)
というか、わくわくしている天音が可愛い!!
くそっ! 俺は、こんなに誰でも彼でも可愛いと思うようなやつだったか!?
中二病はどうした、中二病は!!
今こそ甦れ、俺の中の吸血鬼魂!
(…………)
俺の中の吸血鬼さんは、『無垢なる少女の頼みを断るは紳士の恥』だと結論なさった。もうこうなったらヤケでもやるしかない。
「わ、わかった……いや。ご注文、承りました」
俺は、薔薇の花弁が浮かんだローズヒップティーを天音の席に運び、丁寧な所作でカップに注いでいく。
そうして、ソーサーに乗せる際に、耳元で愛を囁くのがオプションだ。
だが……
(は、恥ずかしい! そもそも愛なんてよくわかっていないし、よりによって知り合いに!)
でも、注文されたからには何か言わなければ。
俺は、精一杯の優しいトーンで囁く。
「部活、いつも頑張っていてえらいですね。コンクールが近いのだとか。応援しています。では、その、最後に、いい子いい子……」
これでよかったのだろうかと戸惑いながらも、最後のなでなでオプションをキメる。
天音の栗色の髪は思ったよりも細く柔らかく、撫で付けるたびに心地よさそうに目を細める様子が猫のようで愛らしい。うっかり数分間は撫でてしまったように思う。
「こんな感じか?」と耳元で囁くと、天音は飛び跳ねて耳を真っ赤にした。どうやら息が少し耳に入ってしまったらしい。
そこが弱いのか、天音は「んひぇ!?」と甘い声を出して驚いて、皿に乗った菓子と紅茶を急いで平らげると、そそくさと会計を済ませに向かってしまう。
天音は、レジを担当した執事さんの「いってらっしゃいませ、お嬢様」の退店挨拶に「あ、ありがとうございました!」と早口で礼をして、俺に目配せをした。
頬を染め、その口元は、「また来るね。絶対来るね!」と言っていたように思う。
(今の反応……ひょっとして天音、照れていたのか?)
「どうしたの、中野君。やたらにまにましちゃって」
「店長!これは、その……!えっと、涼城や夢野先輩には内緒にしてください……」
顔を真っ赤にしてそうとだけ答えると、店長はさも満足そうに、「青春だねぇ〜」と呟いた。
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※あとがき
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