第12話 鉄拳制裁

 甘い放課後が一変して、悲鳴の聞こえた方に向かう俺たち。


 そこでは、ゆめかわビッチ先輩が人気ひとけのない路地の片隅に、ウチの高校の制服の女子に囲まれる形でうずくまっていた。


「てめー! こないだあたしの彼氏とカラオケ行っただろ!」


「違っ……! それは、向こうから誘われて――!」


「うるせっ! 人のものをとったら泥棒なんですよ~、っと!」


「泥棒猫だけに? あははははっ!」


 ゲシッ。バキッ。


「もっとやっちまえ! ったく、このクソビッチが!」


 ……明らかに、見てはいけないイジメの現場だ。


 パステルパープルのランドセルは中身が乱雑に散らばったまま。

 私服と思われる甘ロリ服の先輩は、一番大切な顔と頭を守ろうと、背を丸めて防戦一方だった。

 寄ってたかって、子猫でもいじめるみたいに小柄な先輩を殴って、蹴って……


 だが。たかが女子四人。

 男の俺にとってはどうということもない。


 というかむしろ、学校だとビッチ先輩の取り巻きの男が怖いから、わざわざ後を付けてこんなところで暴行に及んでいるのだろうな。


「……胸糞悪い」


 ビッチ先輩が本当にこいつらの彼氏を寝取ったのかどうかはともかく。


「イジメはダメだろ。話し合え。人間には、口がついているんだからな……!」


 と言いつつ。俺は、主犯格と思われる女を思いっきり引っぱたいた。

 男の俺が本気でぶん殴るとちょっと問題があると思われたので、百歩譲ってビンタしたのだ。

 だが、そのビンタは、主犯格の女を半歩よろめかせる程度には効いたらしい。

 目を白黒させながら、女が俺の方を見る。


「は――!? てめ、男が女を殴っていいわけねーだろ……!」


「一般的にはそう言われているな。でもほら、俺は吸血鬼だし。人間のルールなんか知ったことか」


「は!? 吸血鬼!? は!?!?」


 どうやらその女は、同じ学校の人間ではあるが俺のことは知らなかったらしい。

 むしろ知らないでいてくれて助かった。


「な、なんかやべぇ奴に絡まれたんですけど!!」


「やべぇ奴に絡まれているのはそこに転がっている少女だ。いいから失せろ、愚民ども。なんならもう一発食らっておくか? 俺は紳士なので殴らないが、教育的指導の一環として、ビンタくらいならいくらでも食らわせるぞ。俺の腹の虫がおさまるくらいにはな!」


 そういって、右手の裾を腕まくりすると、女どもは悲鳴をあげて去っていった。

 俺の顔をスマホで撮られていたらお終いだった可能性もあるが、男に叩かれたという恐怖が勝り、そんな余裕もなかったらしい。


 それに、後ろで呆けていた涼城はともかく、俺は中二病丸出し真っ黒コート(自称・吸血鬼外套)に身を包んでいたため、完全に不審者だ。制服で個人が特定されることもないだろう。


「大丈夫……ですか?」


 一応は先輩だ。敬語で歩み寄ると、ビッチ先輩は虚ろな目でこちらを見上げて、助かったことに安堵したのか、気を失ってしまった。

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