第13話 甘ロリコンカフェ

 それから後は、割と結構大変だった。


 気を失った先輩の元に、甘ロリ服にエプロンを着けた女の子と燕尾服の男の人が駆けてきて。

 先輩のバイト先の人であるというそのふたりに、暴行したのは自分らではなく学校の女子生徒だと説明するのに苦労して。


 蹴られながらも必死にバイト先に助けを求めた先輩を「がんばったね」と、甘ロリ服のメイドさんが撫でて、男の人におんぶされる形で、先輩は近くだというバイト先に避難することとなった。


 そうして俺達は今、その『甘ロリコンカフェ』で、先輩を救った友人としておもてなしを受けている。


「おかえりなさいませ、お兄ちゃま!!」


「お茶はいかがなさいますか、お嬢様」


 ビッチ先輩は、いわゆる甘ロリをテーマとしたコンセプトカフェでバイトをしていたらしく、先程駆けつけたのはそこの先輩方。


 どちらも愛らしい甘ロリさんと長身イケメンな執事さんで、俺たちはゴシック調の異空間な店内に圧倒されながらもティーカップを傾けることとなる。


「すげぇ……初めて来たよ、コンカフェ」


「ね。私も初めて。装飾が凝ってて世界観がこう……夢の国顔負けの異空間っぷりね。まるで本物のお嬢様になった気分」


「メニューはいかがなさいますか?」


「あ。じゃあ、俺はこの、『お兄ちゃまラブラブオムライス』で」


「私はこの『午後のティータイムスコーン』を。あと、『お嬢様に捧げる愛の花束ティー』を一杯」


((…………))


「……結構楽しんでるじゃない。」


「お前もな」


 バイト先の仲間を助けてくれた俺達は、精一杯のおもてなしをするに足る人物。歓迎のムードに安堵する一方で、先程の女子生徒たちとの抗争が終わったことにどっと息を吐きだした。


「……にしても、やるじゃない中野。さすが、人目を気にせず中二病するだけあって、度胸はピカイチってわけね」


「いやほんと、吸血鬼コートのおかげで身バレしないって安心感もあったからな。割と好き勝手できた。いくら相手が女だからって――えっと、その……ビンタはセーフでもいいだろ?」


「まぁ、吸血鬼は人間じゃないしね。武士道とかどうでもいいでしょ。紳士としてどうかと言われると、まぁ……今回は百パー向こうが悪いわけだし」


「よかった。涼城に引かれたらどうしようかと思った」


「……え?」


 そこまで言ってしまったあとで、俺は気が付いた。

 俺は、涼城に……引かれたらどうしようって。嫌われたくないと思っていたことに。


 向かいできょとんとする涼城も、そのことに気づいたようで。

 ティーカップで顔のニヨニヨを隠すのに必死だった。


「ま、待て! 今のは言葉の綾というか!!」


「ぷぷっ、わかってる。私に嫌われたくなかったのよね? なぁんだ、中野にも案外可愛いところがあるじゃない。『私の惚れさせ作戦』も、バカにしたものじゃないわね。むしろ順調?」


「ちが――!」


 赤面して立ち上がり、立ち上がったことで店内で余計に目だってしまう。

 顔を真っ赤にして椅子に座り直す俺を見て、涼城はころころと楽しそうに笑って。


「ふふっ。デートって、楽しいわね……!」


「…………」


 恥ずかしくて今は何も言葉が浮かばないが、俺も小さく、胸の中で頷いた。


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